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第三十一話 VSゴーレム

 海斗は目の前にある、今まで幾度となく数えきれない程倒した岩の塊を見上げた。


「海斗・・・本当に大丈夫なの?」


「やめとけって」


「勝てるんですか?これに」


 とそこで一撃ずつゴーレムに入れた後そうそうに岩陰に隠れてしまった三人が震えながら心配そうに聞いてきた。今ゴーレムは足下が少し焦げていて腕が濡れていて肩口に小さいひびが入っている。龍夜が炎術で攻撃して早紀が水術で攻撃して志乃が風術で攻撃した後だ。


 たしか早紀と喧嘩した原因の依頼が確かゴーレム四十体討伐だったと思うけど・・・と海斗が三人に言っても聞く耳持たず、撤退命令を次々に下してくる。


「・・・まぁ、見てろって。ちゃっちゃと片付けてやるからさ」


 海斗はそう言いながら剣に『気』を込めた。そして軽く《烈破》を放った。


 いつもより少し強めに放ったそれは、あっという間にゴーレムを包んで、霧散した。


「なっ!?」


 冗談抜きで驚いた。ゴーレムにここまでの防御力はなかったはずだ。今のならば軽く三体は巻き込んで倒せる位の威力を込めたのだが・・・


「うっわ、ほらやべぇじゃねぇか、課題はいいから逃げようぜ」


 早くも龍夜達は逃げ腰だ。早紀と志乃も心配そうなまなざしで見つめてくる。


 二人に笑い返してどうしたもんかなー、と考える。そこでゴーレムが動いた。と認識したとたんにそれは海斗の頭上でその岩の塊を振り下ろしていた。


 驚く暇もなく、その何tもありそうな岩の塊が海斗の頭に当たりそうになる。


 海斗は全力でその攻撃を避けた。髪の毛が何本か持っていかれたが気にせずにその場から緊急回避する。


 ゴーレムの拳が地面に当たったとたんに魔力が爆発して爆風が巻き起こる。


「くっ・・・!?」


 その爆風に耐えながら海斗は素早く考える。ゴーレムは動きは遅いし防御力も普通の剣で両断できる程。攻撃もそんなにたいしたことはなかったはず。なのにこの耐久力とスピード、攻撃力はありえない。こんなゴーレムは以前母お手製のゴーレムとやり合った時・・・


 そこまで考えたときにゴーレムの首筋に紙が挟まっているのに気付いた。海斗は自分の予想が間違ってなかったことを悟り、渋々ながらその紙を取りにいった。


 剣でゴーレムの攻撃はいなし、腕を駆け上り紙を取るとゴーレムに向かって足止めの魔術を使う。


「A storm of the ice」


 ごぉっと吹雪がゴーレムに襲いかかる。魔力で動いているゴーレムには魔術は効きにくいのだが足止にはなる。


 ぱらっと紙を開いて素早く紙を見て一読する。そこには




 海斗?どうせ早紀ちゃんや朝宮君達と課題をこなしているんだろうけど、あたしが蘭に頼んで少し課題のレベルをあげさせてもらったわよ。

 

 そのゴーレムは私が三日掛けて防御の魔術とスピード付加の魔術を込めて丹精込めて作った代物よ。下手したら国一つ落とせるかもしれないけどあなたなら大丈夫でしょ。


 じゃ、しっかりと皆を守りながら戦いなさいよ。


                                       by海斗を愛する母より




 あまりにふざけた内容だったので海斗は何も言えず、魔術は発動させたまま龍夜に紙を手渡した。


 早紀と志乃も龍夜の横から覗いて読んでいたが、読み終わると海斗と同じような反応だった。


「国一つ・・・」


「海斗なら大丈夫って言っても・・・」


「こりゃ限度あるだろ・・・」


 三人は半ばあきれたように声を漏らした。海斗はと言うとサリエスは昔からこういうことを絶え間なくしてくる人なので少しは慣れている。


「ま、やるしかない、って事だな」


 海斗はさっき適当に創成した剣を一回消して、いつも自分が依頼で使っているお気に入りの剣を出した。


「Holly sword」


 呪文を唱えた次の瞬間海斗の手には光り輝く細身で軽く反っている剣、日本刀が握られていた。


「・・・前から思ってたんだけど、海斗の使うあの剣って見たことないよね?」


「そうだな、確かに見たことない剣だな」


「とってもきれいではあるんですけどね・・・」


 と三人は早くもリラックスモードで海斗の剣のことで盛り上がっていた。


 海斗は能天気な三人に軽くため息を吐いて剣を構えた。


 するとゴーレムも肩口のほうから岩石でできた二m程はある剣を取り出した。


 なにっ!?と海斗が驚いていると龍夜が説明してくれた。


「海斗、この紙、続きがあった。っていうよりは浮かんできたんだが・・・『P・Sちなみにそのゴーレムには剣術もインプットしてあるから気をつけて戦うこと』・・・だそうだ」


 やけに手が込んでるなーと肩を落としながら本気で斬り掛かった。そうしてがっとゴーレムのあり得ない程重い攻撃を受け止めた。


 海斗の創成した剣は生半可な攻撃や衝撃ではひび一つ入らない。


 しかし海斗でも威力を殺しきれずにぼこっと足下が沈んだ。海斗はその後に来る攻撃を思い出して慌てて防御術を使った。


「くっ・・・Protect」


 どぉんっと海斗を中心に爆発した。




「「きゃっ」」


「うぉっ」


 先ほどよりもずっと強い爆発に早紀達は顔をかばって岩陰に隠れた。


 遺跡の埃っぽい煙がもうもうと立ちこめる。


「ごほっ、ごほっ・・・大丈夫か?」


「けほっ・・・う、うん、それよりも」


「海斗っ!大丈夫っ!?」


 早紀が切羽詰まった声で海斗に呼びかけた。するとごぉっ、と風が巻き起こった。それは埃と土煙を吹き飛ばした。


 早紀が慌てて眼をこすって海斗の姿を探した。海斗はすぐに見つかった。先ほどと変わらぬ姿で立っており、こちらに向けてVサインを送っていた。


 一同がほっと息をついたとたんに海斗は動いた。




 海斗は剣を下段に構えて『気』を溜めた。


「篠原流剣術《皇牙》」(こうが)


 ゴーレムがその声に合わせてそのバカでかい剣を海斗に向かって振り下ろした。海斗は構えた剣を思い切り切り上げた。『気』が籠ったその剣は難なくその岩で出来た剣を両断し、そのままの勢いで胴を薙いだ。


 海斗の剣はゴーレムをすぱっときれいに両断した。


 ずずぅん・・・と地響きをたててゴーレムは倒れた。海斗は溜息を一つ漏らして龍夜達に向き直った。


「さて、課題かんりょ・・・」


「まて、海斗。また続きが出てきた・・・『ちなみにそのゴーレムは生半可な攻撃じゃあ死なないわよ。普通に再生するから』・・・だそうだ」


 海斗はまたあの人は面倒くさいものを・・・とため息を吐いた。


 見るとゴーレムは魔法で上半身を浮かび上がらせて下半身にくっつけて再生していた。


「・・・これはやるしかないか・・・疲れるから嫌なんだけどなぁ・・・」


 海斗は今までよりもずっと多い量の『気』を剣に込めた。そして眼を閉じて精神統一をする。


「いくぞ・・・篠原流剣術、奥義《黒技・無刃》」


 かっ、と眼を開けるとサリエス特性改造版ゴーレムは海斗に殴り掛かっていた。


 海斗は『気』を放出するだけでその腕を弾くとひゅっと腕を横に薙いだ、ように見えた。


 次の瞬間、ゴーレムの体は岩が一つ一つ掌の大きさにまで細切れにされていた。


「おお・・・」


「わぁ・・・」


「すごぉい海斗」


 そう、剣を横に薙ぐと同時に『気』で作った刃で滅多切りに切ったのである。


 海斗はその瓦礫の中にある緑色の球を手に取って龍夜達のほうに戻った。


 早紀はおつかれさまーと海斗に抱きついた。


 海斗は早紀の頭を撫でながら戻るか、と疲れたように呟いた。


 早紀は海斗の珍しい様子に驚いているようだったが海斗の持っている緑色の球が輝き始めたのでそちらに意識を奪われた。


 海斗が魔力を込めた球は光りながら転移の魔方陣を展開した。


 四人の姿はそのまま光の中に消えた。







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