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第二十九話 課外授業

 海斗はまどろみの中で眼を覚ました。


 腕の中で疲れたように眠る早紀を見下ろして微笑んだ。


 そこで海斗は昨日のことを思い出した。クリスからは少し早紀が『暴走』するかも、って聞いていたが、あそこまでとは思わなかった。


 それに、海斗を欲しがって眼が潤んでいる早紀は反則並にかわいかった。結局途中で海斗の理性も崩壊し、早紀を喜ばせてあげた。


「みゅう・・・かいと・・・大好き・・・」


 寝言でもなんの夢を見ているのか、海斗に抱きついて足を絡めてきた。


「こらこら・・・」


 ぷにぷに、と早紀の頬をつついてみた。ふふっと早紀が幸せそうに微笑んだ。それを見て海斗の頬も自然と緩む。


 そうやって海斗は早紀が起きるまでいろいろと遊んでいた。




 早紀は髪の毛が梳かれる感触で目が覚めた。しばらくは眼を閉じたままその感触にうっとりしていたが、海斗が手を止めて背中をぽんぽん、と叩かれて眼を開けた。


「おはよう」


 海斗がいつものように微笑んで早紀の目の前にいる。好きな人が眼を覚ましたときから目の前にいることに至福を感じながら欠伸を一つ漏らした。


 ぎゅっと抱きしめられて早紀の心臓がどきっ、と高鳴った。『暴走』が始まった。


 がまんしようとしてぎゅっと海斗の服を握りしめた。海斗はそうした早紀の変化に気付いた。


 海斗の胸にぎゅっと顔を押し付けていたが、海斗が早紀の手を柔らかく解いて早紀の顎に指を掛けて顔を上げさせた。


「あ・・・」


 海斗が早紀の体をぎゅっと抱きしめて早紀に優しくキスをしてきた。


 それは愛情が溢れるキスだった。早紀の心を蕩けさしてあっという間に『暴走』を止めた。


 しかし、そのキスはたしかに早紀の淫魔としての『暴走』は止まった、だけど今度は早紀の心に火をつけてしまった。


 子猫のようにじゃれついてくる早紀に、余計にだめだったかな・・・と海斗は頭をかいた。これは『暴走』と違って止まることを知らない。


 それでも海斗は早紀に甘えられると自然と体が動く。早紀のかわいい笑顔をもっと見たくて、喜ばせてあげたくて手が動く。


 早紀が嬉しそうに微笑むと海斗も嬉しそうに微笑み返してくれた。






「えへへ・・・」


 早紀が嬉しくてたまらない、という風に微笑みながら海斗の隣を歩いていた。


 その笑顔はいつもより五割り増しでかわいくて道行く人の視線を釘付けにしていた。


「どうかしたのか?早紀」


 いつもよりも嬉しそうなので気になって聞いてみた。


「え?・・・だって、その、海斗が昨日の夜・・・」


 赤くなって恥ずかしそうに、でも嬉しそうに呟くように言った。その声は小さかったが海斗の耳にはしっかりと届いていた。


 そういえば初めてした後したことなかったな・・・と思ってなんともなしに言った。


「別にしたかったんなら言えばいいのに・・・でもこういうのは早紀のほうが辛いんじゃ・・・」


 海斗としては何気なく言った言葉だったが、早紀の顔を赤らめさせるのには十分の威力だった。


「え、いや、そんな、毎日したい訳じゃなくて・・・その、三日に一回・・・」


 早紀も動転していわなくていいことまで言ってしまっていた。




「・・・でな、志乃がそんとき・・・」


「ほら、始めるぞ、さっさと席着けよー」


 学院について龍夜達と喋っていると蘭が入ってきてHRを始めた。


 早紀も海斗から少し離れて前を向いた(机は二人掛けのものなので早紀と海斗のイスはくっついている)。


「よっし、今日は一日使って課外授業だ。二組のパートナーで一グループになって郊外の森の中で課題をこなしてもらう」


 えー?と教室中が訝しげな視線を向けた。蘭はそれに動じることなく続きを続けた。


「よし、今から三十分後に転送室までグループを作ったやつから来いよ。来た奴から課題を渡すからな」


 そう言い残すと生徒のブーイングは軽く無視して教室を立ち去った。さばさばして付き合いやすい先生ではあるが、行事の度にその当日まで言わないのが悪い癖だ。


 蘭が出て行くと同時、龍夜がくるっと海斗のほうを向いた。


「さぁてっと・・・一緒にやろうぜ海斗」


 海斗はもちろん龍夜と組むつもりだったので頷いた。


「頑張ろうね、早紀ちゃん」


「まっかせなさい」


 向こうでも同様に話が進められたらしい。早紀が確認するようにこちらを見上げてきた。


「うん。こっちもそういう風に話がまとまったよ。・・・いこうか、早紀」


 海斗は早紀の背中をぽん、軽く叩いてから皆を促して教室を出た。


 


「・・・やっぱりお前らが一番最初か・・・まぁいい。この中から一枚抜いてからこの魔方陣の中に入れ」


 転送室で待っていたのはやはりというか蘭だった。一番に来た海斗達に紙がたくさん入った箱を差し出した。


 じゃあ、と龍夜が一枚とった。


 海斗達が龍夜のとった紙を横から覗き込んだ。そこには


『ゴーレム討伐』


 とだけ書かれていた。


 海斗以外の三人はしばらく固まった後


「「「・・・・・・・・・・・・・・・は?」」」


 と気の抜けた声を漏らした。蘭は紙を覗き込んでにやっと笑った。


「おっ、どうやら外れくじはお前らか・・・ま、海斗もいるし大丈夫だろ」


 なんでそんなものを・・・と海斗達は額を押さえた。


「ま、気にすんなよ・・・さっさと行ってこい」


 蘭はそう言ってぽん、と海斗達を魔方陣の中に放り込んだ。


「なっ・・・」


 海斗達が入るとぎゅんっと魔方陣が発動した。 


 しゅんっと海斗達の姿は消えた。






 海斗達が現れたのは町の外にある魔獣が出ると言われている遺跡の入り口だった。


「・・・ここか」


 龍夜が辺りを見回しながら言った。ここは海斗も依頼で何度か来たことがある。ゴーレムがいるのは確か地下五階だったはずだ。


「Sword」


 とりあえず幅広の剣を一本創成しておく。そして


「three ability improvement pendant」


 魔術の構成能力と威力を高めるペンダントを三つ創成して皆に渡した。


「・・・これは?」


「きれい・・・」


「水晶みたいですね」


「これをしっかり付けといてくれ。これは魔力を構成するのを促進させるペンダントだ。こういう所ではスピードが大切になってくるからな」


 龍夜達はそれぞれ頷いてペンダントを付けた。


「・・・じゃ、いこうか」


 


 遺跡に立ち入ると、とたんにゴブリンが群がってきた。


 早紀や志乃は初めて見るモンスターに体が竦んで動かないようだ。龍夜はすぐに慣れ、魔術で攻撃し始めた。


「Flame in hand Dragon thunder flame」


 龍夜は手に炎を作り、それを地面に叩き付けて炎を地面に走らせた。それはゴブリンの体を燃焼させ、灰にした。


「篠原流剣術《龍波》」


 海斗が剣を振り下ろすと同時に剣に込められた『気』を解放した。


 その『気』は龍の形をとって次々とゴブリンを飲み込んでいった。


「Give off a fireball」


 恐怖から立ち直った早紀が呪文を唱えてゴブリンを炎で焼き尽くした。


「げぇっ、なんで早紀詠唱破棄して・・・そうかっ!海斗、てめぇ」


 そう、海斗は家ですこしずつ魔術を早紀に教えていた。早紀も最近になってようやく詠唱破棄を会得したのだ。


 真正面から海斗は最後の敵を斬りつけた。ゴブリンは真っ二つに割れた後、灰に変わった。


 下級魔獣は倒すと灰に変わる。形が残るのはCクラス位からだ。


「・・・一通り片付いたな・・・早紀、志乃」


 地下一階の敵を全部倒すと海斗は一息ついて志乃と早紀に話しかけた。


「・・・なんですか?」


「なぁに?海斗」


 早紀はもういつも通りに戻っていたが、志乃はまだ少しショックが残っているようだった。


「戦えなかったことは気にしなくてもいい。というよりは魔獣を見てびびらないやつはいないからな、それに志乃も退魔の家系なんだから慣れとかなきゃな」


 海斗はぽん、と志乃と早紀の頭に手をおいて静かに言った。


「うん」


「・・・ありがとうございます海斗君」


 志乃もようやく落ち着いたようでほっと一息ついていた。


「ま、よかったじゃねぇか、いこうぜ海斗」


 龍夜が海斗とがしっと肩を組んで歩き始めた。


 志乃と早紀は笑いながらそれに続いた。





 

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