第二十五話 鬼
「・・・符術について軽く説明するわね、符術っていうのはね、魔力を使う才能がない人が魔術を使おうとして出来たものなの。魔力を使わない分、符に込められた意味だけで術を使うの。だから威力は魔力に劣る、っていうか使えるのはよくて中級までね。でもそのかわり連発が可能なの。だからかなり便利なんだけど・・・意味をすべて理解してないと発動できないから、使えるのは相当に頭が良い、ほんの少しの人だけなの。だから海斗の相手になるはずがないんだけど・・・」
と、サリエスが符術をよく知らない早紀達に軽く説明していた。
「・・・でも、海斗が楽しみにしているみたいだから・・・強いって事じゃない?」
「そうなんじゃねぇの?・・・結構楽しみだな」
「でも、サリエスさんのいうことが本当ならあの人達はあっという間に・・・」
「・・・そうなのよねぇ・・・どういうこと?海斗」
「よし、結界はってもらえたな・・・やろう、海斗」
「ああ」
「結構楽しみにしてたんだよ、海斗。あの日負けたときから結構腕を磨いたんだよ?」
「・・・そうだったな」
そう言ってあのときのことを思い浮かべている二人に習って海斗もあのときのことを思い浮かべた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・・くっ・・・」
海斗は目の前の邪の力の塊を相手にして苦戦を強いられていた。極東の島国にいるという鬼、それは人間の邪な思いを結集されてできた特Sクラスの邪神だった。山の中での激しい戦闘により海斗の服はぼろぼろだった。いかに海斗の優秀な防御術でも特Sクラスの邪神の攻撃は完璧には防ぎきれなかった(ちなみに海斗の防御術は一言だけの呪文でさえ核シェルター並みの防御力を誇る)。
「Wind,I do with a sharp bade,and cut an enemy」
空気の刃を数百つくって一気に飛ばした。それは鬼の体を細々に切り刻んだ。原形を全くとどめていないので最早再生不可能かに思えたが、それはずるずるともとに戻ろうとしていた。
「Explosion」
海斗の放った魔術はずどぉんっと破片を跡形もなく吹き飛ばした。・・・かのように見えた。
煙が薄れると、以前と変わらぬ真っ黒な影のような姿で鬼はたたずんでいた。
「ちっ・・・」
先ほどからずっとこの繰り返しである。どんなに細かく切断しても、粉々に吹き飛ばしても、いつの間にか鬼はもとの姿に戻っているのである。これではさすがの海斗も舌打ちをせずにはいられない。
もう戦闘を始めてから三時間程たっている。最初のほうこそ大技を使っていた海斗も十分もすればそれが無駄だと悟り小技で攻略の糸口を探していた。
「(暗中模索とはまさにこのことだな・・・)」
洞窟をまさしく手探りで暗闇の中を進んでいっている感じがする。いや、それどころかどんどんと迷い、奥へ奥へと進んでいる感じがする。
自分の手持ちの術を使うごとに可能性が減っていく(三時間もいろんな術を使い続けてまだ手持ちの術が尽きないのは凄い)。
おぉぉおおぉおぉおおおおぉおおおおぉんんんんん
鬼が叫んで口から邪悪の塊が射出された。森の木々を薙ぎ倒し、もの凄い勢いで海斗に迫る。
「Elude all,an absolute wall」
不可視のシールドが海斗の前に張られる。
ずしゃあんっ、と呪いの激流が海斗の張ったシールドの所で真っ二つに裂けた。
「Reinforce Reinforce Reinforce・・・・・・・」
その後も続く激流に海斗のシールドがきしみ始めた。海斗はシールドを強化し続けた。
ぴたっと攻撃が止まった。不審に思うよりも前に鬼のほうでとてつもない魔力が集まるのを感じた。
「くっ・・・そっ・・・」
発射されるタイミングと同時に近くの木を使って三角跳びの要領で二十m以上飛び上がった。
「これで・・・っ!!」
避けれたと思ったがいきなり鬼が方向をいきなり変えた。・・・つまり海斗の方向へと。
「Wind」
海斗は風でさらに飛び上がった。
ごぉっと海斗の足下を呪いの塊がもの凄い勢いで通り過ぎていった。
その通り過ぎた余波だけで海斗の体は軽く吹き飛ばされる。くるくると吹っ飛ばされながら海斗は真剣に死を覚悟した。
これだけ集中できない状況ではいくら魔力があっても魔力は使えない。体のほうも、いつもならこれぐらいは難なく着地できるが、三時間の戦いで疲労しきっており、あまり役に立ちそうにはない。
最後の瞬間ぐらいは眼に焼き付けておこう、と眼を見開いた。が、体に紙のようなものが張り付いた。
とたんに体がふわっと浮き上がり、ある所まで飛んでいった。
そこには一組の男女が立っており、服装からして符術士のようだ。
「・・・助かった」
「いや、たいしたことはしていないよ。・・・とはいうものの少し戦い見てたけどかなりの使い手だね、君」
「そーそー。あの鬼相手にあれだけ善戦できたらたいしたものだよねー」
とはいうものの、符術士ではあまりこの戦いでは役に立たない。彼らの武器はスピードであって重さではない、鬼を相手にはできないだろう。
「あ、ちょっとー。今失礼なこと考えたでしょ?どうせ私たちの攻撃は軽いとかって」
「む、それは心外だな・・・僕たちならあの鬼を倒す手だてがあるというのに」
海斗はその余裕たっぷりの様子になっ!?と思わず眼を見開いた。そんな方法があるのならぜひともやってもらいたい。
「お、信じてくれたんだ?君、他の魔術師よりも頭柔らかいね。戦い向きだ」
あまり嬉しくない褒められ方をされたような気もするがそれはスルーしてその方法を聞いた。
「ん?簡単だよ。私たちがあの鬼を縛り付けておくからあなたはそれをやっつければ良いの・・・ドゥーユーアンダースタン?」
かなり怪しい発音だったがとりあえず頷いておく。しかし、その作戦には一つ大きすぎる程の穴があったので指摘しようと口を開きかけたが心配ご無用、とばかりに彼女が口を開いた。
「大丈夫、私たちがやるのは・・・なんていうか、ああいう奴専用のもので、口では説明しづらいから省くけどとりあえず再生できなくするやつなの、・・・まぁ、ああいう規模のやつじゃあ持って十秒しかもその間二人とも手が離せないからさ・・・決定打を求めてたんだけど・・・そこにあんたが来たってわけ」
中々筋の通った説明だったのでへぇ〜と感心して頷いた。
「おっと、これから協力するんだ。自己紹介ぐらいはしておかないとな・・・俺の名前は鷺城琢磨、符術士の14歳だ」
「私は佐久間花梨、同じく符術士の十四歳です」
海斗は彼女達が同年代だったことに少なからず驚きを覚えた。鬼討伐を任せられるということはそれなりに腕には自信があるのだろう。袴や巫女装束といった格好をして大人びているというのもあるだろうが、彼女達はもう少し年上に見えた。
「篠宮海斗、魔術師、十四歳だ」
へぇーと海斗と同じような反応をする二人。一瞬和やかな雰囲気が流れたが、そこで琢磨が鬼の異変に気付いた。
「おい、動こうとしている。やるならさっさとやらなきゃな」
「りょーかい」
「わかった」
そして二人は懐から符を取り出して構えた。
「あのものを呼び出せ、縛れ」
「そしてこの地に留めておかん」
海斗はぎょっと振り返った。普通は符術士は詠唱なんていうものはしない。符を投げれば勝手に魔術が作動するからだ。それに、二人からは確かに魔力が出ている。それも中級レベルの魔術師じゃあ敵わない程のものが。
海斗の驚いている表情をみてしてやったり、と意地悪げに笑う二人。そして符を鬼に向かって投げつけた。
それは二本のロープとなって鬼に巻き付いた。
おおぉぉおおおおぉおおぉおおおんんん
「くっ・・・」
「んっ・・・」
ロープに縛られたとたんに鬼の存在が濃くなった。さっきまでは希薄で、薄かった気配がはっきりと分かるようになった。
お膳立ては整った。後は身動きの取れない鬼を倒すだけだ。
海斗は後ろの二人に軽く手を振ると、地面を蹴って飛び上がった。
すいません、昨日間違えて投稿してしまったみたいで、・・・誠に申し訳ありません。今はもう既に本来のものに変わっておりますので昨日の朝見て違和感を抱かれた方はもう一度見直してみてください。お手数をおかけします。




