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第二十三話 痴話げんか!?

 番外編を挟んでの更新再会です。これからは第一章よりも更に甘くしていきます。最早やり過ぎ感が否めないのですが・・・気にせずいこうと思います。

 ずどぉんっともの凄い音を立てて5m程の体躯をした岩の塊が真っ二つになって崩れ落ちた。


 その岩の塊、ゴーレムを倒した彼ははぁ、とため息を吐いた。


「(やばいなぁ・・・早紀怒ってるかなぁ・・・)」


 既に彼はゴーレムを数十体倒しており(学院の高等部の卒業生が命懸けでなんとか倒せるレベル)、すべてが真っ二つになっていた。


 彼は岩の製材所のようになってしまった周りを確かめて依頼を達成したことを確認すると、転移の術で愛しい人が待つ我が家へと帰っていった。


 




 少し寝不足気味な少年、篠原 海斗は欠伸をかみ殺しつつ学院へと足を進めていた。


 その彼の数歩前には、彼が愛してやまない恋人、長良 早紀がちらちらとこちらを見ながら歩いていた。


 眠くてついつい足を緩めると、彼女も緩めてくるので海斗が何となく歩調を速めると彼女も慌てたように歩調を速める。なんだか気まぐれな子猫と追いかけっこをしているようで、海斗はくすり、と笑みを漏らした。


 ちらっとこちらを向いた早紀に微笑みかけると、顔を赤らめてばっと前を向いてしまった。手や肩がうずうずしているのは気のせいだろうか。


 軽く嘆息しながら海斗は昨日のことを思い出していた。




 昨夜、あの後家に戻るとやはり約束の時刻を過ぎても帰ってこなかった海斗に泣きそうな顔で飛びついてきて、怪我は!?大丈夫だった!?どうしたの!?と矢継ぎ早に聞いてきた。


 体のあちこちをさすりながら本当に心配そうに海斗の身を案じてくれる彼女を見て、海斗はほっと息をついた。


 海斗が留守の間、彼女のほうも問題はなかったらしい(とはいうものの海斗が家にかけた防御術を突破できるのはどう考えても世界に五人もいないだろう)。


 海斗のその様子に彼女は気を悪くしたらしい。じと〜っとこちらのほうを上目遣いで睨んでいる。


 こんな時怒ってる顔もかわいいな〜とつい思ってしまう自分はどうなんだろう、とたまに思ったりするのだがそれはしょうがないとして、今は目の前の問題をなんとかしなくてはならない。


 彼女と一緒に住み始めて早一ヶ月。こういうときの早紀がいかに頑固か海斗は身を以て体験していた(ちなみに前回はサリエスがふざけて海斗にキスしてウインクして去っていったときだった)。


 確実にこれは怒っているときの表情だ、と分かっていても対処法が分からない。前回は確実に海斗が悪い訳ではなかったのでなんとか弁解できたが、今回は時間を守らなかった海斗が悪い。


 抱きしめてキスでもしたら許してくれるかな・・・と思いもしたのだが(この方法なら一発で早紀の機嫌は治る。というよりは百八十度ぐらいは変わる)ここは誠実に謝ることにした。


 それのどこが悪かったのか、ますます怒ってしまった早紀は「謝るぐらいなら、そんなに危険なことはもうしないで!」と叫んで寝室へと向かってしまった。


 今日はさすがに部屋にもこないかな、と密かに楽しみにしている朝に早紀の髪の毛を触りながら寝顔を見ることができなくなったな、と思ってすこしげんなりした。


 が、朝起きてみるといつものように早紀が目の前で海斗の胸に頭を乗せて幸せそうに寝ているのを見てほっとした。


 いつもとは違い、きゅっと早紀を抱きしめて早紀の首筋に顔を埋めて大きく息を吸い込んだ。


 昨晩は一回も抱きしめてなかったので、抱きしめたくなったのだ。


 う、ん・・・と腕の中で早紀が声をあげた。どうやら起きたらしい。


「・・・かいと?・・・」


「おはよう」


 寝ぼけながら海斗の名前を呼んでくる早紀に挨拶をすると、早紀はえへへー、かいとだーとまだ寝ぼけた様子で海斗に抱きついてきた。


 力一杯(とはいっても寝ぼけているのでまだ弱い)抱きついてくる早紀の頭を撫でながら、機嫌は治ったみたいだ、と思った。


 しかし、そう物事は簡単にはいかなかった。


 海斗の胸に頬擦りしていた早紀がぴたっとその動きを止めた。海斗が不審に思う前にそろそろと海斗から距離をとった。


 ・・・どうやらそう上手く早紀の機嫌は治らないようだ(実は動きを止めた時に離れようかどうしようか、と早紀の胸の中では凄い葛藤があったのを海斗は知らない)。






「(もう、海斗ったら・・・あんなに危険な依頼をほいほい受けるなんて・・・)」


 と、海斗に怒りながら早紀は学院への道を進んでいく。周りでは、早紀が海斗の腕に引っ付いてないのを見て少しざわついている。それ位意外なことなのだ。


「(・・・今日の朝は危なかったなぁ・・・)」


 海斗にはもうあんなに危険なことはしてほしくないので怒っているのだが、海斗はいっこうにそれに気付かない。それに反して、今日の朝にああして抱きしめられると怒りはたちまちに消え去ってこのまま彼に甘えたい、という気持ちが強くなったが、なんとか意思の力で押さえつけた。


「(海斗の腕には要注意ね・・・)」


 しかし、近づくと無意識だろうが海斗の手が早紀の頭を撫でようとするので、それに釣られる体を諌めて避けるのには相当な精神力を使うことになる。しかも、避けることによって海斗の顔が悲しそうに歪むのを見るだけで早紀の胸は張り裂けそうになる。


「ねぇ、早紀ちゃん。あいつに愛想つかしたんなら俺と付き合わない?」


 男のふやけた声に瞬間的に『氷姫』の仮面を被る。そうして感情の抜けたような瞳で冷たく睨む。こうして無表情、無関心なふりをして心の中では怯えている自分に嫌気がさす。


 男は気付かずに話しかけてくる。


「どう?俺ルックスは悪くないと思うんだけど」


 にやにやして、早紀の顎に男が手を伸ばしてきた。全身に鳥肌が立つ。触れられてもないのに吐き気がしてくる。


 こうした時に真っ先に思い浮かぶのはやはり、思い人の彼だ。


 助けて、海斗・・・・・・・・・


 心の中で海斗の名前を叫ぶと、腕をのばして早紀に触れようとしていた男の腕を海斗が掴んでいた。もう片方の手で早紀の手を握って背後に隠すようにして早紀の前に立った。


 海斗に触れられたとたんに手にぽっと火が灯ったみたいに温かくなる。抱きしめられたときのような、体の芯を焦がすような火ではなく、安心させてくれる、温かくて、力強い手だった。


「・・・失せろ・・・」


 海斗が恐ろしく低い声で言い放った。早紀に向けられたものではなかったが、それでも十分迫力があった。その証拠に、海斗の怒気を含んだ声に目の前の男はがたがたと震えている。


「わ、悪かった。そ、そんなつもりじゃあ・・・」


「失せろ」


 はいぃぃい!?と奇妙な声をあげて男が走り去っていった。海斗はそれを見送って早紀のほうを振り返って心配そうな表情を見せた。


 海斗は早紀の腕を引いて路地に向かった。


「大丈夫か?何かされたか?・・・ごめん、俺が離れたせいで嫌な思いさせて・・・」


 海斗は何も悪くないのに、まだ少し震えている早紀の体を優しく抱きしめて背中や頭を優しく撫でてくれた。


 その指先が優しく体に触れ、海斗の心臓の鼓動を聞いて、海斗の体温を感じて早紀はだいぶ落ち着いた。


「ううん、そんなことない。私がわがままだったの・・・ごめんね海斗」


 そう謝って海斗の広い背中に手を回して抱きついた。もっと海斗のぬくもりを感じたくて、もっと海斗と一緒に居たくて、腕に力を入れる。


 海斗もしっかりと抱きしめ返してくれる。そこで、昨日から一回もキスをしてもらってないことに気付いた。寝る時、朝起きた時、ご飯を食べ終わった時、学院に行く時、早紀は海斗と触れ合ってない。


 思いを込めて海斗を見上げると、海斗は甘く微笑んだ。その優しくも、早紀を惹き付ける微笑みで一気に早紀の体に火がつく。体が熱くて、うずいて、この熱を収めてほしくて、目をつぶる。


 海斗が早紀の顎に手をかけて、少し上を向かせてきた。だんだんと海斗の顔が近づいてくる気配がする。期待で早紀の胸ははち切れそうになる。海斗の首に手を回して、自分から海斗にキスをした。


 海斗は一瞬驚いたようだったが、すぐにキスを返してくれた。いつもよりも激しいキス。それで海斗も我慢していたことが分かって、嬉しくなって、キスを返す。


「ん・・・ちゅ・・・ぁ・・・ん・・・」


 口からは息継ぎと同時に甘い喘ぎ声が上がる。海斗はキスをしている途中にも早紀の頭を撫でたりしてくれる。早紀はこの瞬間が一番好きだった。海斗にこうして優しくされて、こうしたキスをされるだけで腰が抜けそうになる。


「はぁ・・・んっ・・・ちゅ・・・ぷぁ」


 酸素が足りなくて頭がぼ〜っとする。こうしていると、朝ああやって意地を張って海斗を遠ざけていた自分がとてもばからしく思えてくる。


 甘い余韻に浸りながら陶然とした気持ちで海斗を見上げていると、海斗が急に申し訳なさそうに口を開いた。


「・・・ごめん、早紀。早紀がそんなに心配してたなんて・・・ちゃんと気付いてあげればよかったのに」


 きゅっと早紀の体を抱きしめて耳元で囁かれた。ぼっと顔が赤くなるのが自分でも分かる。慣れてきたつもりだったのに、まだ海斗のこうした言葉には弱い。海斗は自分を惚れさせるのがとても上手だ。一日一日・・・いや、一瞬一瞬でどんどんと海斗のことが好きになっていく。自分の体が海斗の色で染まっていくような感じだった。


 それは嫌な感じではなくて、むしろ喜ばしいものだった。心の芯から海斗に惚れさせてほしい。海斗になら何をされたっていい、いや、なんでもしてあげたい。と、女の子特有の、愛情のパラメーターがMAXを振り切った時におこる不思議な感覚だった。


「ううん、そんなことない。・・・私がわがままだっただけ、海斗は海斗だもん。私がどうこう言うことじゃないよね・・・」


 切なくなりながら決意を込めて海斗になるべく笑顔で言おうとした。が、そんな笑顔も海斗の一言で崩されてしまった。


「・・・そんなこと言うなよ、俺は早紀にわがままをいっぱい言ってほしい。甘えてほしい。強がらないで、弱い所も見せてほしい。・・・自分を殺さないで、俺には素の自分で居てほしい」


 海斗は、早紀の目をじっと見つめて強く言い切った。その言葉に込められた真剣さや、思いやり、早紀への思いが早紀の心に届いた。


 それは温かくて、かつて自分が狂おしい程に求めたものでもあって、現実を知っていくうちに不可能だと身を以て痛感したもの・・・それを海斗はくれると言う。海斗は強くて、優しくて、温かくて、早紀の欲しいものをなんでも与えてくれる人。


「・・・いいの?・・・わたし、いっぱいわがまま言うよ?しつこいぐらい甘えるし、弱い所なんていっぱい見せちゃう・・・そんな私だけど、いいの?」


 涙を流しながら海斗にすがりつくようにしながら言うと、海斗はもちろん、と言って早紀を抱きしめてくれた。


「・・・でも、私だけじゃ不公平だから海斗もあたしに甘えたり、わがまま言ったり弱音を吐いたりしていいんだよ?」


 と泣きながら言うと、ぴくんと海斗の体が震えてぎゅうっと痛い程に抱きしめられた。その痛みさえ相手が海斗ならば甘く感じてしまう。


「・・・まったく、早紀はどこまで俺を惚れさせたら気が済むんだ?」


 あまりに唐突な告白に早紀は思わず真っ赤になった。


「・・・そんなこと言われると、離せなくなる」


 海斗が早紀を抱きしめる力を強くしながらぼそっと呟いた。


「・・・離さないで」


「・・・俺、早紀しか見えてないから」


「うん」


「一生離さないから、離れても絶対追いかけていくから」


「うん」


「早紀が俺に愛想尽かせてもずっと追いかけるから」


「うん」


「覚悟しとけよ?」


「うん」


 海斗の胸にしがみついて、海斗の口から出てくる早紀を蕩けさせる媚薬のような言葉に必死に頷いていく。何があっても絶対に離さないと誓いながら・・・


 しばらくの間涙は途切れることがなかった。






 どうだったでしょうか?感想・評価がありましたら、どんどんおっしゃってください。筆者もすべての感想に一言返させていただいてますので気になる方は見に来てください。

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