第二十二話 決着!?
海斗達が武道場に入ると武道場の観客席は満員だった。
「すごいですね・・・」
「こりゃまたいっぱい集めたな・・・」
「ふぁ〜・・・・」
「・・・はぁ」
言わずとも分かると思うが、上から志乃、龍夜、早紀、ときて面倒くさそうなため息を吐いたのは海斗である。
「どうしたの?海斗、さっきからため息ばっかりついちゃって、らしくないわよ?」
海斗の腕にくっつくようにして腕を組んでいる早紀が不思議そうに訪ねてきた。
「・・・なんていうか、ああいう奴は嫌いなんだ」
「あ、それすっげーわかる」
「そうですね」
「言うまでもなくあんな奴、大っ嫌いよ」
即答で(額に怒りマークを付けて)答えた三人に苦笑しながらうん、と頷いて真ん中で得意そうに笑って三人程の(早紀達程ではないが)美少女を連れているアーベルを面倒くさそうに見やった。
「さあ、始めようか。中央に来たまえ」
アーベルが中央から声をあげて海斗に中央に来るように宣言すると、とたんに場内が沸いた。やはりというか、当然観客はアーベルが連れてきたもので、海斗に声援はない。
海斗は早紀達にここで待つように手で合図を送るとアーベルが待つ方へと歩き出した。
「ふん、一年生なのに三年生である僕に勝てると思ってるのか?本当にそう思っているのなら馬鹿だね」
明らかに挑発しているその言葉に海斗は重いため息を一つ返して続きを促した。
「そんな御託はいいからさっさと始めろ。・・・やりたくないのか?」
軽く挑発してみるといとも簡単に引っかかった。
「はっ、やるさ。・・・では、これより、私アーベル・アクスVS篠原 海斗との試合を始める。皆さんには私が長良 早紀を見事獲得する所を見ていてほしい」
やはり彼はどこまでも自己主張が激しかった。海斗はもううんざりしてきていたので無視して始める。
「Flame」
ぼぼぼぼぼっと海斗の周りに五つの炎球ができる。まずは小手試しのつもりでそれを放つ。
「Shot」
速度を少し落として攻撃してみると、海斗の予想を少し上回る速度で魔術を構築していく。
「Water,I help it」
しゅばっと地面から水の盾が出てきてアーベルの身を守った。お返しとばかりに詠唱を始める。
「Wind,I do with a sharp bade,and cut an enemy」
風の刃を構築し、突風とともに打ち出す。
普通の防御術ではそれごと切り裂いて術者を傷つける程の力を込めた術だった。
だが、残念ながら海斗は普通ではなかった。
「A whisper from darkness」
漆黒の色をしたものが何条も海斗の手から飛び出していった。
それはアーベルが放った風の刃の制御を奪うと方向を逆向きに変えた。
「くっ・・・It is dark sword appearance from darkness」
アーベルが魔力で形成した真っ黒な剣でそれをたたき落とした。
どうやら彼には剣術の嗜みもあるらしい。
「Chinese holly sword」
海斗も魔力で輝く光剣を作り出した。
観客は、最初は学生なのに詠唱破棄でどんどんと魔術を使いまくる二人を見てざわついていたが、今ではもう固唾を飲んで見守っている。
海斗がアーベルに向かって素早く走り込む。
素早く突き出した剣をアーベルは剣を立てて受け流す。
彼は必死になって海斗の攻撃を受け流している中で海斗がまだ全然余裕そうなのを見た。
一回思い切り切り込んでからまた思い切り突き放した。
「はぁっはぁっはぁっ」
「・・・・・・・・・」
実際アーベルは天才と言われるにふさわしい程の才能と力を持っていた。並の学生ならば十秒ぐらいしか持たないだろう。
しかし、海斗は明らかに別格だった。天才と言われて舞い上がっていた自分に上には上がいる、と厳しい現実を突きつけてきた。
「・・・まだやるか?」
そう言われて明らかに疲労困憊な自分と息一つ乱してない海斗ではもう勝負は明らかだった。
「・・・僕の負けだ」
わああああああぁっと観客席が沸いた。こんな試合は、プロの魔術師同士の試合ぐらいでしか見られない程凄いものなのだ。
「海斗〜〜〜〜〜〜っ」
がばっと顔を喜色満面に染めて頬を上気させながら海斗の凄かった所をマシンガンのごとくあげていく早紀を見ながらアーベルは思った。
こんな楽しい試合はいつぶりだっただろうか、いつしか自分は力を誇示するためだけに試合をしているのではなかったか、と。
駆け寄ってきた龍夜はすぐさまアーベルの心の変化に気付いたがそっとしておいた。
海斗には、人を変える能力がある。『氷姫』と呼ばれていた早紀をこんなふうに明るく変え、おどおどとして引っ込み思案だった志乃を優しい気遣いができるような娘に変えてくれて、あのアーベルの心変わりのきっかけを作った。
それはとてもかけがいのない能力だ、海斗にしかない能力。そんな海斗だからこそ人が集まる。
ようやく話し終わったのかいつものように海斗にじゃれついて嬉しそうにしている早紀を見て志乃もあれぐらい大胆だったらなぁ、と思って志乃を思いっきり引き寄せた。
「ひゃっ・・・りゅ、龍夜?」
こんなふうに名前で呼ばせるのにも一苦労だったのであんな風にするには何年かかるのだろうかとおもったが、自分達は自分達のペースで仲良くなっていけば良い、と思って腕の中で赤くなってもがいている志乃に微笑んだ。
「ん〜〜〜〜っ。やっぱり海斗って凄いよね〜」
「そうですね、もう最強の魔術師!って感じですよね」
「そうだな。それでも全く間違いじゃない程強いよなぁ、海斗って」
あの後、その場にいた人全員に祝福されながら海斗達はその場を後にした。
今は四人で下校中で口々に海斗を褒めちぎっている。
「いや、あの二人にはさすがに負けるよ」
未だに二人には手加減をしてもらっている、と思い込んでいる海斗を見て三人ははぁ、とため息を吐いた。
「海斗ってさぁ、こういう所なかったら完璧なんだけどなー」
「そうだな」
「そうですね」
早紀はちらっと何の事か分からずきょとんとしている海斗を見てふふっと笑った。
「でも、こういう所も海斗の長所だよね」
「そうですね」
「そうだな。こんなに強いのにおごらず偉ぶらず」
「だからなんのことだ?」
おしえてあげなーい、と早紀が嬉しそうに叫んで海斗の腕をとって走り出した。
「ばいばーい、龍夜、志乃!」
海斗も慌てて小さくなっていく二人に向かって手を振った。やがて歩調もまたゆっくりになって志乃の方へと眼をやった。すると、志乃が熱心に海斗の方を見つめていた。
思わず歩を止めると、早紀が今まで見た事がない程きれいに微笑んだ。無邪気に微笑むのではなく、その少し先の成長したものを。
その微笑に見惚れていると、早紀が口を開いた。
「ありがとう、海斗。海斗があの時助けてくれたおかげで、あたしは一人じゃなくなった。海斗が側にいてくれて、龍夜や志乃が友達になってくれて・・・とても嬉しかった。・・・・じつは、あの時死んでも良いかなって思ったりもしてたんだけど・・・海斗のおかげで留まれた。海斗はあたしの居場所を作ってくれた。泣き場所を作ってくれた。本当にありがとう」
半ば呆然と早紀の感謝の言葉を聞いていたが、早紀に抱きつかれてはっとなった。早紀は海斗の首に腕をまわしており、顔と顔がくっつく程に接近していた。
やがてどちらともなく顔を近づけてキスをした。
やがてそっと二人は身を離した。早紀は嬉しそうに微笑むと、海斗の手を取って走り出した。
「早く帰ろっ海斗」
仲良く二人は家へと向かっていく。二人は誰がどうみてもお似合いのカップルであった。
これにて最強の魔術師!第一章を終わりたいと思います。今すぐにでも第二章に移りたいのですが、いろいろと忙しくなりそうなので三日間だけ開けさせていただきます。




