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第十六話 特訓

 

 あの後龍夜達に気付かれたが、それ以外に特に変わったことはなく授業は終わり、今は昼休み。いつものメンバーで食堂に来ていた。


「う〜ん・・・四時間目の戦闘技術はあまりよくわからなかったな・・・どうすっかな〜〜〜〜」


「あ、あたしもそうです。なんか相手の魔力を感じる、とかってなんのことだか・・・」


「そうよね〜〜、魔力の動きなんて見えないよ〜〜〜〜・・・・ってそうだ!!」


 三人の愚痴を聞きながら一人平和にご飯を食べていた海斗は三人の視線を受けてん?という顔をした。


「そうだそうだ。ここにその手のエキスパートがいるじゃねぁか」


「そうですね、海斗君に教えてもらえたら・・・」


「ねっ、だめかな?海斗」


 海斗としては早紀のお願いは自分にできる範囲であればなんでもかなえてあげよう、と思っていたし龍夜達は大切な友達だったので一も二もなくあっさりと頷いた。


「べつにいいよ。俺でいいなら」


 ありがとーっ。と早紀が海斗に抱きついた。最早抱きつく口実が欲しかったんじゃあないかと言うぐらいの(口実なんかなくてもしょっちゅう抱きついているが)素早さだった。あるいは海斗が引き受けると分かっていたかのように。


 と、その平和でほのぼのした食卓に一人の乱入者が現れた。


「ふーん・・・魔力視か。それなら僕に任せた方がいいと思うよ?子猫ちゃん達」


 ぞっとするような声で(早紀と志乃が感じるには)話しかけられて早紀は海斗の、志乃は龍夜の背中にしがみついた。


 四人を見下ろすのは金髪に青い眼で、容姿は上の上といったハンサムだった。(ちなみに早紀に言わせれば、海斗は上の上のその更に百乗以上らしい)


 自分の容姿に自信があるらしく海斗と龍夜を見定めていたが、少し顔が引きつった。龍夜も彼とどっこいどっこいの容姿だったし、海斗に至っては早紀のひいきなしでもかなり上をいっていた。


「何が子猫ちゃん達よ、気持ち悪い。あんたなんかよりも海斗に教えてもらった方が百万倍ましよ!!!」


「そうです。あなたみたいなどこの誰とも分からない人にはお世話になりません」


 少し怯んだようだったが、今度は魔術の腕と地位で勝負しようとしたようだ。


「いいのかな?君たち、ぼくは三年でこと魔術においては天才と言われるアーベル・アクスだ。それに、アクスの家はこの国では貴族階級に所属しているんだ。僕に媚を売っておいて損は無いと思うぞ?」


 彼は流し目でちらっと早紀達を見やった。早紀と志乃は気持ち悪さから(早紀は多少男性恐怖症なのも混じっているが)嫌悪のまなざしを向けた。


 ちなみに、海斗は言うまでもないが龍夜も貴族階級に身を置いている家の一員である。しかも結構上流の。


 そんなことには気付かずに格好つけて歩いてきて早紀達に手を差し出した。


 それを二人は叩き払った(ご丁寧に鞄から教科書を出して)。


 それに激怒した彼は声を荒げて言い寄ってきた。


「君たち、今何をしたか分かっているのか?この僕にあんな扱いをするなんて平民である君たちにとっては自殺行為だぞ?分かったら大人しく僕に従うんだな」


 それは暗に自分に従わなければひどい目にあわせるぞ、と脅しているのだが、確かに平民ではあるが海斗と龍夜という強力な味方がいて、恐れるものがない早紀達はきっと睨みつけた。


 それを見てますます激した彼は早紀と志乃に手を伸ばしたが、そこで今まで成り行きを見守っていた二人が動いた。


 がっ、と二人それぞれ右と左の手を握りしめると、ぎりぎりと万力のような力で力を加えた(海斗はかなり手加減をしたが)。


「ぐっ・・・」


「おい、志乃に手を出したらてめぇはこの世から消してやるからな」


「もし早紀に指一本でも触れてみろ。生きてきたことと、興味半分に早紀に手を出したことを一生後悔させてやる」


 手首がちぎれるのではないか、というほどの痛みに顔を歪めたアーベルはわ、分かった。分かったから・・・とか細い声を絞り出した。


 海斗と龍夜は手を離した。すぐに早紀と志乃の無事を確認する二人を早紀と志乃はうっとりとした目で見ていた。


「くそっ、くそっ、覚えていろよ、貴様ら。今に目にものを見せてやる」


 と、いかにもしょぼい悪役が吐き捨てる台詞を吐いて走り去っていった。

 

「なんだったんだ?あれ・・・」


「さあ・・・でも、天才と言うだけあって魔力総量は結構多かったよ。龍夜よりも多いかも」


「うおっまじかよ・・・っていうか早速魔力視してるのかよ、おまえ・・・」


 目を丸くしている龍夜に苦笑いをして前からしてるって・・・と返した。


 へぇ〜っと感心している龍夜に思ったことを言ってみた。


「あ、でも早紀はまださらに多いかも、前から思っていたけど早紀って才能あるよ」


 本当!?と眼を輝かせて聞いてくる早紀に微笑んで頷いてあげた。


 やったあ、と海斗にさらに抱きついた。早紀にとって海斗に褒められるのは嬉しいことトップファイブにはいる(ちなみに三十番ぐらいまではすべて海斗関係で埋め尽くされている)。


 反対に少し沈んだ龍夜を志乃がよしよし、と背伸びをして頭を撫でていた。


 こうして今日も平和で仲のいいカップル達であった。




 そして、学校も終わり今は海斗と早紀の家の庭に四人で集まっていた。海斗の家の庭は木が周りを囲むようにしてあり、とても過ごしやすい環境だ。


「さて、じゃあ今から俺が魔力を見えるように出してみるから、見えなくなったら言って」


 ふわっと海斗の髪が持ち上がる。海斗の体から立ち上る魔力は優しい水色をしていた。魔力はきらきらと輝いていて、思わず見とれる程きれいな光景だった。


 早紀は海斗にぴったりの色だなあ、と思いながら見た。


 それは龍夜達も同じなようで、夢中で見入っていた。


 すると、だんだん色が薄くなっていった。濃い水色だったものが普通の水色になっていた。


「・・・どんなふうに見えてる?」


「普通の水色だが・・・」


「少し薄い、水色です」


「普通の水色だよ?」


 早紀と龍夜は普通と言ったが、志乃だけは薄い、と言っていた。


 ふん・・・と志乃をじっくりと見ていたが、海斗が不意にこう言った。


「じゃあ、俺を龍夜だと思ってみてみて」


「え?・・・」


「いいから」


 訳が分かってなかったみたいだったが、とりあえずやる気にはなったようだ。少し経つと志乃の顔が驚きに変わった。


「・・・普通の水色に、戻りました」


 うんうん。と海斗は頷いて、何か分かっていない三人に説明した。


「志乃は遠慮してるから見えないんだ。才能に関しては三人ともそこまで変わらない。なのに志乃が二人よりもよく見えなかったのは、遠慮してたから。だから心を開いているだろう、龍夜に見立ててもらったんだ」


 なるほど、と三人はしきりに頷いていた。


 続けるよ、と海斗はさらに色を薄くしていった。


「見えなくなったら言ってね」


 ほどなく一秒程の差を開けながら志乃、龍夜、早紀の順番で手を挙げた。


「うん。やっぱり三人とも資質は十分にある。後は良い師が居ればいいんだけど・・・母さんとか」


 三人は速攻で首を横に振った。それはあのサリエスに教わるだなんて!?という思いもあったが、大半を占めていたのは海斗に教わりたい、という気持ちだった。


「そっか、ありがと」


 海斗は嬉しそうに微笑んだ後早紀達を手招きして呼び寄せた。


「Perception operation」


 早紀達に向かって術を放った。ぽう、と海斗の手から三条の光が流れ出ると、三人の体の周りを回りながら小さくなっていった。


「・・・これは?」


「ちょっと早紀達に魔力を見やすいように工夫したんだ。すぐになれるよ」


 そう言ってまた魔力を出す。今度は色を付けずに


「普段手に集中させる魔力を、今度は目に集中させるようにしてみて」


 魔力を目に集中させるというのは、彼らにとっては普段使ってない筋肉で筋トレしろ、と言っているようなものでなかなか難しい。だが、先ほどの海斗の術によって集中しやすいように意識を操作した。なので、この面子ならばすぐに見えるようになるはず、と踏んだのだがそれは正解だったようだ。


「あ・・・」


「これは・・・」


「きれい・・・」


 みんな海斗の魔力を見ることができたようだ。おそらく今は先ほど海斗が色を付けて出した魔力のようなものが見えているに違いない。


 海斗はよし、と呟いて早紀達にかけた術を解いた。


「あれ?」


「ど、どうして?」


「なんだ?」


 と、いきなり目に集中させていたのが急にできなくなったものだからみんな混乱していた。


「大丈夫。ただやりにくくなっただけ。さっきの感覚を思い出してもう一回やってみて」


 三人が難しい顔をしながら集中し始めたのを見て、海斗も昔の自分を思い出して少し笑った。


「(あの時の俺は、母さんに目に集中すればいい、と言われただけでできちゃったっけ・・・ちょっと自分が周りから浮いてるっていうのが分かるな・・・)」


 ちなみに彼がこの練習をしたのはたった四歳の頃である。今では少し意識しただけでも魔力を見ることはできる。


「(でも、この三人は才能も凄いからな・・・後どれくらいでできるか楽しみだ)」

 

 と、微笑みながら見守った。



 




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