17:ラブロード
夜と霧の闇に覆われたラブロード。
400Γ改とZⅡが蛇尾岬のワインディング区間へ突入していく。
岸壁に築かれたテクニカルなコースは立ち込める霧のせいで、ほとんどのコーナーがブラインドコーナーと化していたが、ユウゴもゴーストライダーも自制する気は全くなかった。
互いの距離はもはやほとんど離れていない。
≫≫こぉの、カワサキの駄犬めがぁッ! アテクシに道を譲りやがれですわーっ!!
そんな叫び声が聞こえてきそうなほどの激しい競り合いが始まる。
片側二車線の広い道幅にあって、2台はコーナーのイン側を奪い合う。ユウゴが獲物に食らいかかる鮫のように最内へフルバンクしながら飛び込めば、ZⅡは荒馬が跳ねるように前後二輪ドリフトしながらコーナーの最内へ切り込んでいく。
連なるS字でイン・アウトが切り替われば、互いに相手へ被せるようにマシンを倒し込む。
がつんっ! とラインを巡り、マシンがぶつかり合う。
≫≫ああああああっ!! アテクシの美しい外装に傷をつけくさりよってェえええええっ!! 許さんぞおんどりゃあっ!!
そんな怒声が聞こえてきそうな四連チャンバーの咆哮。
ヨンダボでは敵わなかったが、付喪神付の大排気量2ストエンジンが発揮する爆発的加速力はZⅡの常識離れな機動に食らいついて離れない。
400Γ改とZⅡは肉を削ぎ合うようにコーナーの突入で競り合い、立ち上がりのラインを奪い合いながら加速していく。
時に競り合いが過ぎてバランスを崩し、ラインを外れ、遠心力に引っ張られてアウトに膨らむ。路肩の白線が迫る。あるいは上下車線を区切る中央分離帯が近づく。
事故と紙一重の削り合い。
けれど、ユウゴもゴーストライダーも相手を見向きもしない。霧が立ち込める道路から目を離さない。全ての意識を運転に注ぎこみ、決して譲らない。
昂奮。狂奔。恐怖。怯懦。滾る血。竦む肝。冷徹な理性と熱する本能がせめぎ合う中、ユウゴはハンドルを強く握り込む。
コーナーの連なりに合わせ、ギアが何度も3速と4速を行ったり来たり。コーナー間をつなぐわずかな直線で5速に上げて速度を稼ぐ。回転計の針は一度たりともパワーバンドから外さず、場合によってはレッドゾーンに突っ込ませる。
もっと。
もっと速く。
もっと速く。もっと速く。もっと速く。
もっと。もっと。もっと。
もっと速く。
スピードが全てを削ぎ落すまで。
冷たい狂気がユウゴを満たしていく。
時速130キロで左コーナーを越えた先、角度のシビアな右コーナーが待ち構える。
ユウゴがコーナーへ飛び込むために速度を調整したわずかな間隙。
ZⅡがユウゴのイン側へ無理矢理に突っ込み、ラインから強引に弾き出す。そのまま荒々しい進入ドリフトへ入った。ぎゅるぎゅると悲鳴を上げるタイヤ。アスファルトに磨り削がれたゴムカスが飛び散る。
進入コースを潰されたが、ユウゴは諦めない。ドリフト走行ゆえにラインが流れ、ZⅡがわずかに開けてしまった最内を狙う。
ZⅡのスリップをまたぎ、さらにインを狙ってマシンを深く倒し込む。膝のプロテクターを擦り、バックステップのバンクセンサーを削り、肘のプロテクターを擦り、中央分離帯のブロックにヘルメットの先がかすめる。
ブリヂストン製タイヤは本当に端っこでしか路面を掴んでいない。400Γ改を深く寝かせながらさらに加速すべく逆シフトを踏んでギアを上げてアクセルを開ける。ずりずりずりとリアタイヤをスライドさせてマシンのフロントを最内のラインへ食らいつかせる。
ZⅡとインの狭い隙間へマシンをねじ込ませながらチョッピングポイントを越え、立ち上がり。少しでも早くマシンを起こすため、ハンドルを引き、上体を投げ、膝でタンクを押し、爪先でステップを蹴る。
車体を起こしながら水冷2ストスクエア4エンジンが爆発的加速力を発揮。400Γ改がZⅡの頭を抑えるように先んじた。
≫≫ざまぁみくされですわーっ!! 身の程をお知り下さいましーっ! おーっほっほっほっ!!
そんな快哉を上げるように4連チャンバーが叫び、痛悔するようにZⅡのかち上げマフラーが荒々しく吠える。
そうこなくっちゃな。ユウゴは薄く笑い、次のコーナーへ挑む。
遅れながらも400Γ改とZⅡの激しいバトルを目の当たりにし、スミレは歯噛みする。
あの戦いに加われない実力不足が悔しい。
同時にあの戦いの凄まじさに感動と感嘆を禁じ得ない。駆け引きなど一切ない純粋な速さの勝負。激しくぶつかり合い、ライン取りが狂っているのに、2台はまったくアベレージを落としていない。あり得ない。
「なんなの」
スミレはAGV製のスタイリッシュなヘルメットの中で思わず呟く。
「“貴方達”はいったい、なんなの」
コーナーを越えた先、霧の中で二車線とも塞ぐように点るテールランプと車影。
一般車(障害物)だ。
ユウゴは舌打ちして速度を鈍らせる。が、ZⅡも速度を削いだ。どうやらこれはZⅡの仕業ではないらしい。
停滞。
後方からZX4RRのスクリーミングサウンドが近づいてくる。覚えのない4発の重低音も届いてきた。
予期せぬ邪魔に苛立ちと焦燥が脳を焼き始めた刹那。
ZⅡがまるで怒号を上げるように強烈な排気音を奏でた。威圧的で低く重たい音色に気圧されたのか、イン側の一般車がハザードを焚いて路肩へ逃げ始めた。
わずかに開き始めた二車線の中央。その隙間へZⅡが強烈に加速。フロントタイヤを浮かせながら先んじて飛び込む。ユウゴも即座にZⅡを追いかける。路肩へ逃げた一般車を抜く際、詫びるように左手を振った。迷惑者なりのマナー。
先んじたことでごりごりと引き離そうとしてくるZⅡ。しかし、RG400Γ改の凶悪な加速力が闘争を終わらせない。
≫≫逃がしゃあしねェぞコノヤローですわっ!! 空冷4ストなんてスットロいエンジン積んだドン亀がアテクシの前を走るなんて、ぜってェに許さねェですわ―――ッ!!
そんな怒声を発するように昂る2スト水冷スクエア4エンジン。
しかし、高回転が続いたためか水温計の数値が危険値のまま下がらない。大型ラジエーターを搭載しているにもかかわらず、冷却液が熱せられたままだ。
このまま熱負荷が高い状態が続けば、ヨンダボのようにエンジンが熱ダレするかもしれない。ユウゴはZⅡの背を睨みながら推察する。
……いくら妖車といっても、空冷エンジンなら相当にキてるはず。
空冷エンジンは構造上どうしても熱ダレを起こし易い。高性能なオイルクーラーとオイルで対策しているだろうが、限界はある。ただしZ系エンジンはタフで知られてもいる。
対して、RG500/400Γのチューンド・エンジンは空燃比の調整が繊細かつシビアで、熱負荷が高くピストンが破損し易い。熱ダレによるデトネーションで破損したり、焼き付いたり。
リスクはデリケートなガンマの方が高いかもしれない。
が。ユウゴは過去二回の勝負の行く末を思い返し、
――どのみち敗けたら、またぞろ死にかけるだろうしな。
覚悟を決めたようにハンドルを握り直す。
こっちに命を懸けさせるんだ。お前にも潰れるリスクを背負って貰う。
○
ラブロードの総延長は約55キロ。鈴鹿サーキットのフルコースが一周6キロ弱。
乱暴に言って鈴鹿を10周近く走るに等しく、当然ながらライダーは相応に消耗する。ましてや事故と紙一重の違法公道レースだ。視界を塞ぐ夜闇と濃霧。霧が満ちていてもなお強い暑気。海辺特有の湿度の高さ。これら諸条件も相まって、ライダーの疲弊は激しい。
ヘルメットの中も革ツナギの中も汗みずく。インナーウェアや下着が肌に貼りついている。目元を汗が伝う。ベンチレーション効果が追いつかず、シールドの内側が微かに曇る。
マシンも無事ではない。
目一杯ぶん回し続けるエンジンは冷却が追いつかない。超ハイペースで重ねられた負荷と摩擦熱にタイヤがダレ始めている。
それでも、ユウゴはまったく諦めない。ZⅡも勝負を投げたりしない。骨身を削るようにエンジンをぶん回し、排気音を轟かせ、タイヤを摩耗させながらマシンを走らせる。
これまで以上に激しくコーナーのラインを奪い合い、競り合う。がっつんがっつんぶつかり合い、バランスを崩し、タイヤを滑らせ、やり返すように突っ込む。
≫≫ぜぇぜぇぜぇ……こンの無礼なロートルマシンめっ! しつこすぎますわっ! いい加減にアテクシの足元に這いつくばりやがれですわ――っ!!
そんなヤケッパチな罵声が聞こえてきそうな400Γ改のエンジン音と排気音。
ZⅡの頑健な空冷エンジンから放たれる駆動音にも疲弊を感じさせる。
互いに消耗と疲弊に喘ぎながら、いよいよ蛇尾岬のワインディング区間最後の大きな高速コーナーへ到達。
コーナーの入り口を塞ぐように走るダイハツ・ムーヴを機に、二台はそれぞれの突撃路を選ぶ。
400Γ改が軽ミニバンを追い越してアウト側から高速コーナーへ突入し、リアをスライドさせながらインへ向かって斬り込んでいく。
ZⅡがミニバンを追い抜いてイン側から前後二輪ドリフトを振りながらコーナーへ進入し、アウトへ向かって流れていく。
高速コーナーのチョッピングポイントで交錯する、エクスターカラーのマシンと火の玉カラーのマシン。
ぶつかれば2台共倒れは必至。
安全を期して退くか、危険を冒して突っ込み続けるか。
瞬間的な二択。生死を分かつ選択。
あるイギリス人達は言った。『危険を冒す者が勝利する』と。
スピード狂いの篠塚ユウゴも同意見。セーフ&ファストなぞクソ食らえ。
ユウゴがアクセルを更に開け、旋回速度を上げた。タイヤが削れカスをまき散らし、四連チャンバーの排気口から白煙が噴出する。
ZⅡの前輪と400Γ改の後輪が髪の毛一本分の間を空け、すれ違う。
コーナーの出口へ向け、先んじて駆けていく400Γ改。オイル混じりの白煙を浴びるZⅡ。
≫≫おーっほっほっほっ!! ざまぁみやがれですわーっ!! 今後はアテクシの前では下を向いて跪くことですわねっ! おーっほっほっ!!
勝鬨のように高々と歌うエンジン。凱歌のように吠える4連チャンバー。コーナーを越えた先、ワーレントラス構造の大きな橋へ進撃する。
ラブロード上り車線を締めくくる角守大橋ロングストレート。
コーナーで抜かれされたZⅡが狂を発したようにエンジンを回し、2スト特有の暴力的な加速で逃げる400Γ改を追いかけて
がぎゃあんっ!
4スト空冷並列4気筒エンジンから金属的な悲鳴がつんざき、ZⅡが直線ドリフトでもするように後輪を大きく滑らせた。マフラーから吐き出される黒煙。鼓動を絶やすエンジン。どこかしらが割れたのか、血を流すように真っ黒なオイルが路上に垂れて流されていく。
そして、橋の真ん中で止まってしまうZⅡ。
ZⅡを置き去りにしたことへ気づき、ユウゴは橋のたもとで400Γ改を路側帯に出して、停車。
ユウゴはZⅡに勝ったという達成感と満足感を味わいつつ、身を捩って背後を窺い、ぎょっとした。おもわずシールドを上げて目元を擦り、まじまじと凝視する。
ZⅡに跨った黒づくめライダーはがくがくと異様なほど高速で痙攣し、体のあちこちから墨汁のようにどす黒い霧が放出していた。
「――な、んだありゃあ」
奇々怪々な光景を目の当たりにし、一般人篠塚ユウゴは恐怖より当惑する。
その場に追いついてきたZX4RRのスミレも、橋の真ん中で突然発生している怪奇現象に吃驚を上げ、怯えたり慄いたりするよりも困惑した。
「な、何が起きてるのっ!?」
理解がまったく追いつかない状況を唖然愕然と見守るユウゴとスミレを余所に、今や全身から黒い霧――おどろおどろしい瘴気をまき散らしていた黒づくめライダーはぐろりと首を回し、ユウゴを見る。
『モットハヤイ、ミツケタ、オマエ、モラウ、モットハヤイ、オマエ、オレモラウ』
ラジオの不快な雑音みたいな声で意味不明なことを宣った直後。
黒づくめライダーから放出されていた漆黒の瘴気が渦を巻いて集結し、奔流となってユウゴへ襲い掛かり、
ばちぃっ!!
どす黒い瘴気の奔流は400Γ改を中心に築かれた結界へ激突し、落雷のような轟音と共に激しい閃光が走った。
ぎゃあああああああああああああああああああああああんんんんんっ!!!
瘴気の奔流から獣染みた叫喚が発せられた。ユウゴ達は吃驚や悲鳴を上げて閃光に目をくらませることしかできず、何が起きているのかまるで分からない。この場から逃げるという発想すら浮かばないほどに混乱困惑の極地にあった。
≫≫薄汚ねェ呪物上がりが御主人を食おうなんざ三千世界の理が許しても、このアテクシが許すわけねェだろうがですわーっ!!
400Γ改に宿るけったいな付喪神の神通力と、アッパーカウル内に収められた2つの御守りの加護が、どす黒い瘴気を蹴とばすように退けた。
戦いに敗れ、勝者を祟ることにもしくじり、ZⅡの黒づくめが宙を掻くように手を振るいながら橋上に倒れ込み――
刹那。
黒づくめライダーの背中がべりべりと裂け、首を断ち切られたように古いシンプソン製ヘルメットが落ちた直後。質量の法則を完全に無視した“大きな何か”がライダースーツの中から這い出てくる。
交通事故の報道でよく耳にする『体を強く打って』を具現化したように、象みたく“大きな何か”の体躯はそこら中が潰れたようにへこんだり、四肢は骨が折れ曲がったように大きく歪み、裂けた皮膚がめくれて肉が露出し、下腹部の体内出血が溜まっているようにぶくりと風船みたく膨れ上がらせている。
交通事故死という概念を露悪的かつ戯画的に表現したかのような、おぞましき姿。
そして、最後に露わとなった頭。その貌は完全にひゃげ潰れて大樹の洞みたいな穴があるだけ。
呪物から付喪神に変じ、より凶悪な怪異へ転じたバケモノが橋上に顕現し終えた。
――疫神 顕現――
「なん、なんだありゃあ」目を真ん丸にして驚愕するユウゴ。
「―――――――」あまりにも現実離れした光景に絶句して凍りつくスミレ。
≫≫あ、こりゃあ……ちょぉっとアテクシの手に余るというか……誰かぁーっ! 破邪退魔の技を扱う方をお呼びになってくださいましーっ!!
そんな2人とナニカの反応を一切合切無視し、
『食わせろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』
疫神が顔面の洞から地獄の底から轟くような雄叫びを上げ、ユウゴへ襲い掛かろうとした、その間際。
極太トルクの逞しい排気音が響き渡り、純白のケンメリがディープパープルの『バーン』を垂れ流しながら角守大橋へ突入してきた。
片手でハンドルを握る、燃えるような紅髪の美女はスッパーッと豪快かつ傲慢に大量の紫煙を燻らせながら迷うことなくアクセルをベタ踏みし、橋上で停車していたリコとスミレの脇を疾風迅雷の如く駆け抜け、
どがぁあああんんんんんんんんんっ!!
一切迷うことなく、おぞましき疫神に激突。
三重の護法防御に車内限定の土御門式結界による霊的装甲は日本史上最大の戦車90式に匹敵し、フロント周りに重ね掛けされた藤原の零式祓魔術式は最早、鉄甲艦の衝角に等しい。かつて東名高速で多くの走り屋を食い殺した近代妖怪ターボババアを轢き殺した伝承的バフ効果と相成って、その霊的破壊力はもはや災厄級。
すなわち、白鯨的純白のケンメリは激突したのではない。
疫神を、撥ねたのだ。
『だぁあっばああああああああああああああああああああああああああああっ!?』
撥ねられた疫神は野太い悲鳴と共にどす黒い液体をまき散らしつつ、高々とフルスピンしながら宙を舞い、路面に叩きつけられる。衝撃で千切れ飛んだ両足が橋から海に落ち、呑まれていく。
「「――――――――――――」」
突如として発生する伝奇系アニメのバトルシーンみたいな光景。もはやユウゴ達は言葉もない。というか、意味不明理解不能な状況にリアクションも取れない。
ディープパープルの激しくも鮮やかな旋律を流しながら、ケンメリが停車する。大排気量L型エンジンのフルマッチョなアイドリング音を奏でる旧車は傷一つ負っていなかった。
そこへ到着するXMAX。リコはシールドを上げながら橋上の非現実的光景に絶句。
ビッグスクーターのライトを浴びる純白のケンメリから、タンクトップにジャージパンツ姿の妙齢の美女が降り立つ。
暴力拝み屋マギー、推参。
手首から肩まで和彫りの刺青が走る左腕で真っ赤な髪を気だるげに掻き上げ、マギーは一瞬でズタボロにされて苦悶する疫神を見つめながら、くわえていた煙草をペッと足元へ吐き捨て、踏み消す。
『神に対して何たる乱暴狼藉っ! 度し難きその不敬不遜っ! 許さぬっ! 許せぬっ!』
怒号を発する疫神を余所に、マギーは再び運転席に潜り込み、後部シートに置いた木製バットを取り出した。神木から削り出され、護法印がびっしりと刻まれたそのバットは、あまりにもおどろおどろしい。
『無礼千万な雌畜生風情めっ! 冥府の底にて餓鬼共の慰み者に成り果てるがよいわぁっ!!』
両足を失った体躯を腕で支えながら、疫神はどす黒い体液をとめどなく垂れ流す顔面の洞をマギーへ向け、暗黒瘴気の奔流を放つ。
あらゆる命を凌辱し、あらゆる神性を穢し尽くす絶対呪殺の暴威。
が。
ディープパープルの名曲が盛り上がる中、マギーは己に向かって迫る暗黒瘴気の奔流をかわしたり、防いだりする素振りを見せるどころか、一本足打法で暗黒瘴気をワンスイング。
怖いほど強烈な風切り音を放つその一振りが禍々しく荒ぶる神のおぞましき瘴気に激突し、激甚な衝撃波を生んだ。
ぐわぁんと大きく震える角守大橋。びりびりと大きく揺れる鋼鉄製の橋梁。何が起きているか理解できないユウゴ達は、ただただ本能的に倒れそうなバイクを支えるだけで精一杯。
疫神の絶対必殺攻撃が容易く殴り払われ、マギーは真っ赤な髪を踊らせながら跳躍吶喊。
『ばかなっ!? あり得ぬっ!! 矮小なる人畜生如きがなぜ神たる我が瘴気を払えるのだっ! なぜだっ! 貴様、なんだっ!? なんだというのだっ!!』
ラストパートのサビが流れる中、動揺して詰問してくる疫神の頭へ問答無用のフルスイング。
雷が落ちたような大轟音と歌詞のラストフレーズが重なる。
打撃エネルギーがあまりにも高すぎ、打擲された頭部どころか疫神の巨躯全てが風船のように弾け飛んだ。神の身体を砕いてもなお尽きぬエネルギーにより、爆ぜた疫神の血肉は飛び散るどころか宙で燃え尽きる。
末期の呪いを残すどころか断末魔を発する暇すら許さぬ、圧倒的なまでの霊的かつ物理的“超”暴力。
名曲が最後のフレーズを終えると共に、マギーは肩にバットを置いた。
「雑魚がよ」
―――― 討滅 完了 ――――
討伐された疫神の残骸。その一片までもが消え去った直後、路上を覆っていた霧が一瞬で払われ、満天の星と煌々と輝く月がリコ達を優しく照らす。
そして、アニメ染みた戦いを繰り広げた赤髪の美女と白いケンメリは影も形もなく。
何より熱戦激闘を繰り広げたZⅡとゴーストライダーの姿もどこにもなく。
然れども、路面には女性が吐き捨てた煙草の吸殻が転がっていて。
角守大橋に残されたのは、橋上のスミレとリコ、たもとの路側帯にいるユウゴのみで。
唖然茫然としていた三人は、後方からやってきた車に警笛を鳴らされ、我に返る。
「“俺”達は何を見たんだ?」
リコの疑問に答える者はない。
感想評価登録その他を頂けると、元気になります。
他作品もよろしければどうぞ。
長編作品(いずれも未完)
転生令嬢ヴィルミーナの場合。
彼は悪名高きロッフェロー
ノヴォ・アスターテ
おススメ短編。
スペクターの献身。あるいはある愛の在り方。
1918年9月。イープルにて。
モラン・ノラン。鬼才あるいは変態。もしくは伝説。




