原野の後には
「…役立たずじゃない!少し魔力ねってただけだし!ユニエ、行くよ!」
私は強い!私は戦える!私は…足手まといにはならない!
「あ、おい待て!」
もう我慢できない。この苛立ちは、ユニエに止められても抑えきれない。ううん、ユニエだからなおさら、私は戦うんだ。ああそうだよ、私は弱い。私はまだまともに体も動かせない。精霊なんかに比べたら、私はただのお荷物。でも、私はちゃんと戦えるんだ。ユニエに守ってもらうだけじゃないんだ!
「ふっ!」
弓からナイフに持ち替えて、目の前の敵に後ろから飛びつく。抵抗される前に頸に白刃を突き立てると、呆気ないほど簡単に倒せた。ふふ、なんだ、この程度なんだ。返り血が少しついただけで何も問題はない。強いて言えば手が痺れたぐらいだし。大丈夫、これならやれる。さあ次の獲物は…あれ、ナイフが抜けな…い!
「死ねええ!」
ああもう!まだ一回しか使ってなかったのに!
「火よ!」
とっさに放った火球はギリギリで間に合ったけど、残念なことにナイフが刺さったままの体に火だるまが倒れこんだ所為で、回収が完全に不可能になっちゃった。
「ガアアアァァ…」
はあ。しょうがないなあ。ナイフは諦めるしか…でもどうしよう。今使える魔法は全部中距離用だけだし。身体強化魔法でなんとか出来るかな?あ、不味い。体が痛くなってきちゃった。使いすぎたかな。踏んだり蹴ったりだよ。
「リーシャ!どこだー!」
上を見上げると、ユニエが私を探しているみたい。ここで合流すれば、安全。ユニエがいれば後ろから奇襲されることもないだろうし、そもそもユニエ単体でも十分強い。
自分の力を試してみたい、って思ってたけど、もう強がりを言ってる場合じゃないかな。
「ここだよ!」
「おお!探したぞ!まったく、好戦的になるなといったろに。もう少し落ち着け!」
少しむきになってたのかもしれない。ユニエに心配かけちゃったし、ちゃんと自分を律しないと。
「これから気を付けるよ。さあ、やるよ!」
自分にできる範囲で頑張ろう。
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落ちていた剣を振り回しているうちに戦いは終わった。結局あの後戦果を挙げることができあかったのは残念だったけど、まあ怪我をせずに済んだし。
盗賊の組織だった抵抗がなくなってるみたい。まだ自棄になって戦っている人もいたけどけど、ほとんどはほとんどは逃げるか投降していた。
馬車の方に近づいていくと、いくつかは押し倒されていたけど無事なのもたくさんあった。北行きの馬車はどれなんだろう。ぶっじだといいんだけど。
「やはり多いな。こんなにもたくさんの馬車が来るとは。もっと少ないと思っていたぞ。」
「うん、そうだね。大所帯で移動しないと危ないぐらい、盗賊が増えたんだろうね。」
実際に襲われていたわけだし。みんながみんな北に行くわけではないだろうけど、一つだけとかじゃなくていくつもあったりするのかな。それなら安心なんだろうけど。
「そういえばナイフはどうしたんだ?そんなに大きい剣ではなかっただろう。」
「ああ、うん。一回使ったら取れなくなっちゃって。首に刺したんだけど抜けなくなっちゃって。骨に挟まったのかな?とにかく使えなくなっちゃったから、代わりにこれ拾ったの。」
ナイフなくしちゃったし、これからはこっちを使うのもいいかも。あ、持ち主不明のがたくさん落ちてるから漁れば他の業物があるかな。
「君たちが援軍かい?」
地面に視線を落としながら馬車の近くに歩いていくと、そう声をかけられた。
「そうです。他にも何人か一緒に来ましたけど。」
「そうかいそうかい。いやはや、助かったよ。霧を出したのは君の精霊だろう?あれのおかげで敵がかなり混乱してね。おかげで楽に勝てた。」
「だって、ユニエ。お手柄だね。」
ユニエが褒められると嬉しい。自分も褒められるともっと嬉しいけど。
「そうか。」
もう、素気無いんだから。
「ところでこの馬車は何を積んでいたんですか?」
間近で見ると馬車が不思議な感じの形態であることに気が付いた。商品を運んでいた馬車には見えないし、かといって人員輸送にしてはかなり大がかりで、関係ない馬車同士が安全のために共同で傭兵を雇った、ようにも見えない。
「ああ、これの中身かい。とても重要なものさ。もし盗賊たちがこれの存在を知って襲い掛かってきたんだとしたら、役人の首が飛びかねない程度には、本当に重要なものさ。」
「もったいぶらずに早く教えろ。」
ユニエも気になってるのかな?こういう時の率直さはありがたいけど。
「それはだねえ、悪魔を一網打尽にする特殊な魔道具さ!」
魔道具?ただ障壁を発生させるだけの魔道具が?
「ふふーん。悪魔が好む魔力を放出することで悪魔を一か所に集めて、そこを遠距離からの極大魔法でたたく計画なんだよ。あの村の鐘は悪魔祓いの効果があるからあそこで魔法を準備すれば安全だからね。これで竜王大戦の爪痕、悪魔の急増も片が付くんだ。」
すごい自慢げに話されたけど、私たちにしていい話だったのかな。まあ秘密にするなとも何にも言われないから大丈夫なんだろうけど。
「悪魔狩りが成功すれば、獣手の素材集めも進むし何よりも―――」
あ、早口になった。これ長い話かも。
「私たちはこの辺で。貴重なお話ありがとうございました、」
興味がないわけじゃないけど、今は戦利品探しをしないと。
獣手に魔道具、皆さん覚えているでしょうか




