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水の精霊にTS転生!   作者: アリエパ
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草河広し

1話目をいじりました。今後1,2,3話の改訂を行う予定です。物語の流れには影響しませんが、割と変わったのでよかったら見てください。

 遠くから風に乗って聞こえてくる鐘の音が、だだっ広い草原ぼ若草を揺らして響く。日頃二人でいる時でも沈黙はさほど珍しくは無いが、今回は沈黙の種類が違った。嫌悪と無関心による質の悪い静けさだ。

 不機嫌そうなリーシャから左へと視線を向けると、こちらを見ていた少年と目があった。慌てて逸らされる赤面にどうしようもない気まずさを感じて、救いを求めるつもりで空を見上げる。パッとしない天気だ。


「リーシャ、拗ねるのはやめろ。」


「拗ねてるんじゃないよ。でも嫌なものは嫌なの。」


「仲良くしろとは言わんから、せめて相談だけでもしたらどうだ。」


「い・や・な・の!」


 語気を強くした拒絶に、ぽっきりと心が折れた。ああ、うん。私は努力した。充分努力した。もう良いや。

 はあ、リーシャめ、何で昨日と今日だけでこんなに悪感情を覚えているのだか。ああ、昨日の時点でこんな感じだったか。こんな調子で大丈夫だろうか。

 二人を見比べても片方は視界に入れないように前だけを向き、もう片方は私の方ばかりチラチラ見ている。アシダカだっけか?こいつの私に対する態度が気にくわないのか?それにしては苛烈すぎる対応だが、もしそうならそうでちゃんと注意して欲しい。当事者同士で話し合うにはデリケートは問題なのだ。

 いや、人任せにしていても解決はせんか。二人がこんな感じな以上、私が何とかするしかあるまい。リーシャがだめならこいつから何とかするか。


「おいアシダカ。」


「え、な、何、どうしたんだい?」


 声を詰まらせながら頰を赤くする様子に、何とか言葉を紡ごうとしたが無理だった。こっち見んな、うざったい、とでも言ってやろうと思っていたが無理だ。こんなに心が疲れたのは初めてだ。


「なんでも無い。」


 こんなんで仕事がこなせるのか甚だ怪しいが、うん、何とかなる。何とかしよう…


~~~~~~~

〈少し前〉


 門前には私たちと同じ訪問者なのか、この村に着てから初めて会ったうさ耳以外の人種だった。くたびれた感じの皮鎧を着た、街で偶に見かけた傭兵のような雰囲気の連中だが、みなバラバラの装備をしているから仲間と言うわけでは無いようだ。


「お前はまだ身体強化魔法が使えんのか。」


 挨拶でもするか、と近づいて行ったら先に声をかけられた。壮年ぐらいの鬼人だ。


「完璧にでは有りませんが、使えない事もないです。」


「それは使えないと言うのだよ。」


 どうやら私たち」が参加するのに反対のようである。まあそうだな、ただの子供にしか見えんしな。


「馬車が無事でないと困るんです。」


「我々もそうだ。だから君達が出る必要は無い。それに正直に言って、身体強化魔法も使えん足手まといはいらんのだよ。たとえ精霊使いと言えどもね。」


 辛辣な言葉にリーシャは顔をしかめていたが、戦わなくていいならそのほうがいいと思うんだがな。路銀の心配もないと言っていたし、わざわざ危ないことをする必要もなかろうに。

 そんなことを考えていたら他の傭兵が口をはさんできた。


「いや、人数は多い方がいいだろ。5人しか居ないんだ。」


「囮に使うならな。生憎俺はそこまで冷淡では無いのだよ」


 これを機にガヤガヤと話し相が始まったが、弱い、と言う言葉に関しては誰も翻さなかった。リーシャは唇を噛んで言い出しっぺを睨んでいたがいたが、ありがたいことじゃないか。弱いと理解されているなら任される仕事量も少なくて済む。

 もう帰らないか、とリーシャに意見しようとした矢先、新たな声が入って来た。


「何を揉めている。早く行かないか。」


 門番だった。もう跳ね橋が上げ終わっていたようで、言葉通り早くしろと焦れた表情である。


「彼女達は足手まといになるから一緒には連れてけない。村に置いておいてくれ。」


 一人がそう言ったが、うさ耳は首を横に振った。


「非常事態にはよそ者には村から一時的にしろ出て行ってもらうのが掟だ。例外は無い。」


 むむ、帰るのは無理か。働きに期待するとかなんとか言われたが、結局は厄介払いだったのか。まったく、最初からそう告げればいいものを。期待してしまったではないか。


「しかしだねえ、この子はまだ小さな子供じゃ無いか。」


「村で防衛戦が必要になるかもしれない時に、最近入って来たばかりのよそ者を中に入れておく訳にはいかない。それに子供だ言うのならーーーアシダカ!こい!」


 声に応じて駆け寄って来たのはあいつだった。そうか、そう言う名前だった。


「はい!」


「こいつがお前達の目付役をする。どうだ、こいつだって子供だろう。」


「え、僕がですか?」


「お前は黙っていろ。とにかくだ、子供だって戦ってもらわねば困る。なあに、精霊使いで正規の軍人だ。足手まといとはならんさ。」


 あれ、正規?そんな話聞いたことないぞ。せいぜい見習いだろうに。


「なんと。正規の。成程、嬢ちゃん、よろしくな。」


 傭兵達はこれ以上議論するのをやめたらしい。もっと粘って欲しかったのだが。いや待てよ、そもそも外に追い出すのが目的なら、村の近くで待っていても咎められはせんよな?馬車はこいつらが救出してくれるだろうし。


「リーシャ、遠くから見学するだけにするぞ。それなら安全だ。」


「何言ってるの。仕事なんだから、ちゃんと参加しないと。それに私、役立たずじゃないもん。」


 ありゃ?リーシャが闘志に燃えている。何故だ。


「その年でか。期待してるよ。」


「まだ若いのにすごいなじゃないか。」


 信頼が感じられる表情で皆リーシャの肩を叩いてから門をくぐって行く。リーシャはリーシャでそれに答えるように力強くうなずく始末だ。おいどうするんだ。明らかに戦力として数えられてるぞ。絶対最前線で体張る羽目になるじゃないか。

 意気揚々と跳ねる赤髪に不安しか感じられない。根拠がない自信に見えて仕方がない。

 しかも今回は対人戦が仕事で、もしかしたら、いや確実に人を殺すことになる。リーシャがそのことをあまり気にしていないように見えるのも不安材料だ。もし感情を押し殺してわざと好戦的にふるまっているなら止めねばならん。慣れてしまったというのならば、私が言えたことではないかもしれんが考え直させねばならん。

 街でも、こいつらも、誰もリーシャのような子供が殺し合いをするのを重く見てないない。だからこそ、せめて私が気にかけなくては。命に対して感慨が抱けなくなっても、リーシャがそれをするのはきっと悲しいことなのだと思う。

 

「えっ、本当に僕が行くんですか?」


「新入りの仕事だ。俺も昔はやったんだ、つべこべ言わず行ってこい。」


 うむ、いざとなったら私が何とかしなければな。しっかり働くとしよう。リーシャが動かなくて済むぐらいに。


「うっし、対象は村からすぐの位置、今は護衛がなんとかしているらしい。」


 覚悟を決めて門をくぐると情報の共有が始まった。


「俺たちはあったばかりで互いの事なんて知らん。連携なんて考えるだけ無駄だ。自己紹介をする時間もあまりない。使える魔法の程度だけ教えあおう。」


 そうこうして事務的な情報のやり取りが終わり、各各の動き方が決まった。リーシャも私も基本は遠距離から敵の遠距離型を仕留めろ、と言われた。まあ見方を巻き込まないようには注意しよう。友軍は全員人間以外の種族らしいし、ちゃんと選べばやりすぎることもないだろう。

 誰かの掛け声で皆が走り出した。賭け出してかけて行く背中は思った以上に早くついて行くので精いっぱいだ。強い味方がいてありがたいことだ。

 しかし本当に早いな。私は疲れるような感覚は無いものの、本気も本気でギリギリついて行ける。しかしリーシャは額に汗を流していた。着く前にへばらないように補給させるか。戦闘中に水を飲めることなんてないだろうし。


「飲め。今しか機会がないぞ。」


 水球を口元に持っていってやる。


「んっ、はあ、ありがと。」


 その後も色々となるべく疲れさせないようにと気を使ったが、誤魔化しようが無いぐらいに前方と距離が開いている。あのアシダカ、だっけか、あいつも遅れることなく前にいる。リーシャは歯を食いしばって走っているが、この様子では戦うなんて無理な気がする。


「目標発見!手筈道理にいくぞ!」


 声が聞こえて意識を前方に戻すと、話に聞いてた馬車が見えた。一つ二つでは無い。想像してたのはボロ馬車一つにおしくらまんじゅうだったが、なかなか立派な馬車が複数あった。

 作戦なんてあっても無いようなものだが、そんな雑な取り決めだけでも各々が得物を準備し始めた。リーシャは速度を落として背中に背負った弓を持ち矢を軽くつがえていた。しかし私もいるので距離の関係上はもっと接近しないと水の効果範囲に敵が捕捉できないので、実際のところ中距離戦になってしまう。この距離感だといつ敵がこちらに近づいてきてもおかしくない。油断は禁物だ。

 明確な輪郭を持って聞こえた誰かの悲鳴を合図に、戦いが始まった。

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