鐘楼天高く
当初の予定にはない話を書き始めてしまって困惑中、更新遅くてすみません。
「あー、水ー…」
村に着いてから二日目、村の中を案内される半日の間、水筒一本で耐え苦しんだ渇きをようやく癒せた。
「リーシャー、もっとだー。」
「はーい。」
あぁぁ、沁み渡る、沁み渡るぞ。体が新しくなるようだ。
「ん、おお。」
癖になったのか知らぬうちにペンダントをいじっていたら、心なし青燐の輝きが強くなっていたのに気がついた。じっとみて見ると僅かにだが明滅している。なかなか綺麗だな。
「ねえユニエ、どうしようか。馬車が来るまで2日らしいけど、観光するような場所でもないし暇になっちゃうね。」
井戸のキコキコとなっていた音が聞こえなくなると、リーシャが声をかけてきた。
「んあ、そうだな。」
そう言えばそんなこと言われた気がする。
えー、確か盗賊が増えたとかで便数が減ったんだっけか?どうしようもない事とはいえもどかしいな。
「路銀の方は大丈夫なのか?」
「それはたぶん大丈夫だよ。物価も安いし。」
「ならば問題なかろう。ゆっくりすれば良い。」
そして後4日は安定して水にありつける訳である。今後の用事は特に無かったはずだしな、今日みたいな事にはならはずだ。
「あ、でも」
もういいぞ、と言おうとした心配そうな声が聞こえてきた。
「いつもと違う音色の鐘が鳴らされたらすぐに正門に集まれって言われたし。もしかしたらだけど何かあるんじゃ。」
そういえば、盗賊が…いやいや、きっと火事の時とかの話だ。
「盗賊の被害の話とかしてたし、色々準備してたほうがいいかもよ。」
振り払おうとしていた考えを先んじて言われてしまった。むむむ、また戦うのか?あまり対人戦はリーシャにやらせたくは―――
ガラガラジャーンガラガラジャーン
…まさかな。いや、まさかな。
~~~~~~~~~
諦めて指示されたという場所に行こうと宿から出ると、目の前に出迎えがいた。おっさんと例の少年である。扉を開けたまま固まっているとおっさんが口を開いた。
「おい、お前らはどれくらい戦える?」
「それは、二人合わせてですか?」
大人とは気後れもせずにこれだけ話せるのに、もう片方には見向きもしない。普段から渉外はリーシャがやっているのに、何故か今回のこれに限っては何もしてくれない。
「そうだ。で、どうだ。」
「魔獣狩りなら何度か。」
ほら、今もこっちをチラチラ見てくるじゃないか。ほんとどうにかして欲しいぞ。
「おい新入り!煩わしいだろうが!」
「は、はい!」
怒鳴られてチラ見は止んだ。はあ、どうしたものか。私も怒鳴りつければ良いのか?
「対人経験はどれくらいあるんだ。」
「…魔獣と同じくらいには。」
「ふん。まあ良い、仕事だ。すぐ近くでここに来るはずだった馬車が襲われた。人手が足りん、お前も手伝え。」
話が不穏な方向に向かっている。半ば想定していたことではあるが。
「義務ですか?」
「お前たちが乗る予定の馬車だ。運が良ければ礼金がもらえるかもな。」
これはまた。リーシャも悩んでいるようで、意見を聞かれた。
「どうしよう?受ける?」
「気は乗らんがな。やるしかないんじゃないか。」
話を聞く限りどうしようもなさそうである。村に着くまで一度も盗賊とは遭遇してなかったから大した事は無いと思っていたが、治安問題は想像以上には深刻なのかもしれん。
「分かりました。受けます。ですが」
そこまで言った時、声を掻き消すようにガランコンと鐘の音が鳴り響いた。今まで聞いた中でも一番大きい、水の衣が波打って震える程の爆音だ。煩い以上には感じなかったが、リーシャはそうもいかなかったらしい。顔を顰めて右耳を塞いでいた。耳が効きすぎるのも考えものだな。
一方で耳がエルフよりも効きそうな兎耳は表情を変えなかったが。慣れるほどに轟音を浴びてるのか。
「新入り!」
「はい!」
怒鳴られて元気に走り出した若いのは、パシりの如く駆け出して行く。
しかし、これはなんの合図なんだ?今さっきの事を考えると防衛とかそんな感じなんだろうが、こんな大音量が必要か?
「で、引き受けるんのだな。精霊がいるんだ、働きには期待するぞ。」
鐘声の鳴り止まぬ内に話が切り出される。手筈通り正門に向かえ、と言い残しておっさんも又駆けていった。




