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水の精霊にTS転生!   作者: アリエパ
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錆びと疑惑

 おんぶは不可能だった。結局水に浮かべて運ぶ手法をとった、リーシャには不評だったが。

 今はせっかく塗った軟膏が薄れてしまったので、また塗り直している。


「そういえばさ。」


「何だ?」


 うつ伏せになったリーシャの肩と首に塗り込む。分けた髪から覗くうなじに水滴が見え隠れして実に色っぽい。子供の時点でこれだから大人になったらもっと凄くなるだろう。

 …いつかリーシャにも彼氏が出来るのか。いやいや、この子に限ってそれは…


「ユニエはあのケットシーと知り合いなの?なにか喋ってるみたいだったけど。」


「ん?ああ、ルエスの事か。」


「やっぱりそうなんだ…どんな関係?どこで知り合ったの?」


 何時もより早口な気がしたが、生憎伏せている所為でどんな表情かは分からない。そうさな、どういったものか。保護者仲間、と正直に言うのは気がひける。また揶揄からからわれそうな。


「街で偶に見かけてな。」


「名前知ってたじゃない。」


「そう呼ばれてたのを見ただけだ。」


 続けて何か言いたげな様子だが、脇腹に手を添えるとくすぐったさに気を取られてか大人しくなった。

 ふむ、軟膏がもう効いてきたのか朝起きた直後よりは体の強張りが無くなっいるな。筋肉の張りつめた感じがなくなってきている。


「終わったぞ。」


「ありがと。」


 うつ伏せのまま発せられた声は枕に吸い込まれて変な声音になっていた。ぼんやりとした頼りない声音につられてか、上下する細い背中が儚く感じる。不思議な淋しさが込み上げてきた。ルエスの事はもう気にしていないはずなんだがな、他に心が動くようなことがあっただろうか。

 いかんな、切り替えなくては。少なくともリーシャは表面上では昨日漏らしたことを気にしていないのだ。心の奥底ではどう思っているかわからんが、だからこそ私が頼りなく見えてはならない。

 そうだ、こうしてノンビリ何をするでもなくじっとしているのは久し振りだな。いつもだったらもう学校に行く時間だ。


「今日は休みなのか?」


「え?あっ、学校の事?昨日は任務があったでしょ、そういう時の翌日は休みなの。任務そのものは途中で中止されちゃったけど、今日が休みなのは違いないよ。」


 まあゆっくり休めるなら筋肉痛もしっかり治るだろう。だが私はもう少し頑張るべきだな。こんなに酷い筋肉痛なんだ、相当頑張ったんだろう。情けなくもあっさり負けた私に変わってその分たたかったんだろう。昨日の晩少し変になったのはきっとそれだけストレスだったという事だ。

 リーシャは強い子だ。瞳は常に慧知と意志に輝いている。それでも昨日は耐えれず弱さを見せた。今ではおくびにも出さんが、心にしこりが残っていても可笑しくない。

そう思っていると、


「そういえばさ。」


 唐突にさっきと同じ言葉で切り出された。


「何だ。」


 まだ痛むはずの首を回して、今度ははっきり聞こえる声で聞かれた。


「何で精霊なのに筋肉痛の事知ってるの?」


 …どう言えばいいものか。


「言っただろう。私はお姉さんなんだぞ。」


 何時ものノリで誤魔化す。真実を伝えたところでまた冗談だと思われるだけだ。


「昔、誰かに教えてもらったんじゃないの。だって、人の体の臓器の事まで知ってたじゃない。子宮とか卵巣とか。」


「そんなの常識だ。と言うか、女の子がそんな言葉口にするんじゃない。」


「ねえ、私が初めてだよね。ユニエは今まで誰とも契約した事ないよね。」


 何故こんなに質問してくるんだ?そんなに気になる事か?


「お前がはじめてだ。私にはお前だけだぞ。」


「うん。そうだよね。うん…」


 あまりぱっとしない顔色だが一応は納得してくれたようだ。しかし何が聞きたかったんだ?

 …年頃の女の子の考える事は分からんな。もしや思春期!?馬鹿な、早すぎる!

 恐れ慄いてリーシャを見るといつにも増して大人びた難しい表情をしている、気がする。なんて事だ、さっぱり原因が分からん。昨日私が寝ている間に起きた戦いがリーシャを成長させたと言うのか!?


 コンコン


 戸を叩く音で気が紛れた。いや落ち着け。少なくともついさっきまでそんな素振りは無かった。それに寝る前はいつも以上に子供らしかったのだ。きっと気のせいだ。

 気を鎮めていると、続けてアルの声が聞こえて来た。


「入っていいかしら。」


「あ、どうぞ。」


 枕に突っ伏して思案顔だったリーシャは、僅かに顔を顰めながらも寝返りを打って上体を起こした。ふむ、もうだいぶ解れてきたようだな。動けない程ではないか。


「お邪魔するわ。」

 

 アルはお盆にパンを乗せて入ってきた。


「筋肉痛かしら?朝ごはん、まだ食べてないわよね。持ってきたわ。」


「ありがと。」


 そう言えば忘れていたな。軟膏をもらう時についでに持ってくるべきだったか。腹が空かないと偶に気が付かない時が有るからな、意識しておかねば。

 リーシャがパンをモソモソと咀嚼しているのを尻目に見ていると、アルがおもむろに口を開いた。


「リーシャちゃん、昨日はあの後大丈夫だったかしら。いつもと違う気持ちになったりとか。」


 食べるのを一度やめてリーシャは手で口を覆いながら


「特にないけど…どうして?」


「いえ、問題ないならそれでいいの。」


 大ありだが。まあリーシャが言わないということはそれを隠したがっているという事だな。ならば黙しておくか。

 その後あるは私に焦点を変えて


「実はユニエちゃんに聞きたい事が有るんだけど、いいかしら?」


「構わんが。」


 しかしそう答えると、アルは言葉を探しているのか何度か言い淀んでから言いにくそうに言葉を連ねた。


「ユニエちゃんはルエスライと知り合い、だったのかしら?」


 ルエス、またそれか。リーシャもそうだったがそんなに重要な事か?しかし


「街で偶に見かけてたから興味があっただけだ。それ以上でも以下でも無い。」


 リーシャにもそう言った手前真実を語る訳にもいくまい。


「だけどそれにしては随分と親密そうじゃ無かったかしら?」


「そう見えただけだろう。」


 いつの間にかリーシャは此方をじっと見つめていた。何なんだ、本当に。


「だけどーーー


 まったくしつこいな。


「知らんと言ったら知らん!」


 少し大きな声で言うとアルはそれ以上追求しては来なかった。

 その後は一言二言訓練の日程に付いて話し部屋を去っていった。一体何が目的だったんだ?そんなに大事なことだろうか。

 …正直に言うべきだったか?


「ねえユニエ。」


「どうした。」


 リーシャに声を掛けられ振り向くと、


「信じてるからね。」


 真っ直ぐな瞳に射抜かれた。短い言葉だったが圧を感じるかのような鋭い声だった。少し嘘を吐いた事に罪悪感を感じる。いやまあ大した嘘では無いしな、ノーカンだノーカン。


「私もだ。」


 短く一言返すとリーシャは小さく頷いてから、ゆっくりと動きながらベットから降りた。


「治ったのか?」


「うん。パンを食べたら何だか余計にお腹空いちゃったから、もう少し何か貰いに行こうと思って。」


 さっきとうって変わって軽い口調であった。取り敢えずはこの件に関しては納得してくれたか。

 ああ、少し乾いてきた。リーシャが下に行くならついでだ、水を飲んでくるか。






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