雨よ再び
前話を少し変更しました。リーシャとユニエが再合流するシーンをなくしました。内容にはあまり変化がないので、読まなくても大丈夫です。
「何を言っても、何をしても人間は人間だ!融和なんて最初からどだい無理な事だ!」
叫び声の主は台に躍り出た。あれは…さっきの男か?
「俺は帝国に亡命する!こんな綺麗事ばかりの国、もう沢山だ!お前も、そこのお前も、皆んなそうだ!人間を見下してやがる!」
「何をしている!」「大人しくしろ!」「こいつめ!」
警備の者に取り押さえられた男は尚も何か叫んでいる。
一騒ぎありそうだな、早くリーシャを見つけなくては。全く、人の気も知らんで。
「君は…何でこんな事を!君は自分の父の、先代市長の名に泥を塗るつもりかね!?」
「煩い!親父の事なんか知るか!俺は俺だぁ!!」
いた!リーシャだ!
「おいリーシャ!帰るぞ!」
人を割ってリーシャの所に急いで降りると驚く声が聞こえた。少し衣が周囲の者に当たってしまったようだが、気にしたものか。今はリーシャだ。
「あ、ユニエ。どうしたの?」
「どうしたのじゃない!まったく。一悶着ありそうだ、早くここから離れるぞ。」
「でもまだ続きがありそうだし…」
「そんなの後で誰かに聞けばいいだろう!」
渋々と付いてくるリーシャの手を引いて人混みの外に向かう。
そんなに心惹かれる演説だったか?うーむ、分からん。この時ばかりは精霊の心身が悔やまれる。いまいちリーシャの感覚が察せない。
「くっ、離せ!ちっ、猫!助けろ!」
男の方を向くと揉めていた。猫?
「猫じゃ無いと何度言ったら分かるニャ。」
聞き覚えのある語尾だ。目を凝らすと誰かの頭越しに一匹の猫が飛んでいるのが見えた。
目を疑うが、やはり黒い塊は猫のシルエットだった。
「キャッットシーー流肉球パーーンチニャ!!」
気が抜けるような掛け声とともに突如突風に襲われた。
「うおっ!?」
「きゃあ!」
さっきの嵐にも勝るとも劣らない、強烈な風。それが流れ込んで来た。私もリーシャも、民衆も、悲鳴や呻き声と共にたおれこむ。
うぐぐ、早くここから離れねば。
「リーシャ、ほら行くぞ!」
体を起こしてまた走ろうとしたところ、向こうから馬に乗った何者かが見えた。それはどんどん近づいて来て、
「防衛軍だ!」
誰かの叫び声でその正体が分かった。さらにその先頭には見覚えがある姿があった。
「あら、リーシャちゃんにユニエちゃん!?」
アルだった。さっき嵐の中を行軍した時よりも大所帯を引き連れての登場だ。
良かった。味方だ。
ん?軍が出て来るとか、絶対不味い事態じゃ無いか、これ。
「市民の避難誘導をしなさい!
リーシャちゃん、何が起きたのか説明してくれる?」
アルが馬から降りて此方に近づいて来てた。リーシャが質問に答えている間、私は台の方を見ていた。
警備隊に取り押さえられていた男は自由の身となり、その他は間近で風の衝撃を受けたからか伸び上がってしまっていた。男の頭の上に佇んでいる黒い影がある。
あれはおそらくルエスだ。しかし何故こんな所に?
「ユニエちゃん、ちょっといいかしら。」
話は終わったようだ。アルに呼ばれて其方を向くと、いつにも増して緊張した面持ちだった。何だ?
「あなたに手伝ってもらいたいの。ケットシー、ルエスライを制圧してあの男を取り押さえるわ。」
ああ、彼奴の名前はそんな感じだったな。
呑気な事を考える。剣呑な言葉を無視して。
「あのケットシーの相手は精霊のあなたじゃ無いと出来ないわ。頼めるわね。」
このままトンズラこく訳にはいかないらしい。だから早く帰りたっかたのだ。
はあぁ。ルエスと戦えと、そう言う事か。それは嫌だな。
「断る。」
少なくともあれは、私の友達だ。
しかしアルは私の説得しようとはせず、リーシャへとその矛先を変えた。
「じゃあ一般兵で戦うとするわ。そういう訳でリーシャちゃん、一緒にお願い。」
アルはそう言ってチラリと私を見てから
「ユニエちゃんはともかく、リーシャは一応軍属だから、御免なさいね。」
そう続けた。
リーシャはついさっき昼寝をしたいと言っていた。絶対に疲れている筈だ。そんな状態で戦闘させるなんてな。拒否権はないのかという質問はしない。どうせないに違いない。だから軍に関わりたくなっかたのだ。危機に限って何かに巻き込まれる。危険な仕事なのは前世でも同じだ。
仕方ない、リーシャの為だ。ルエス、恨むなよ。
「分かった。私がやる。」
了承の返事をした途端にまくしたてるように
「じゃあお願いね。取り敢えずあっちに攻撃を仕掛ければターゲットが反応する筈だから、なるべく時間を稼いで頂戴。正規の応援部隊が到着したら私達が相手取るわ。」
指示が出された。ん?ルエスだけが対象ならこんなに相手は必要ないんじゃ無いか?
「私達はルエスだけをやればいいのか?」
「ルエス?…ああ、そうね、そうよ。仮に何か他にあったら、私達が対応するわ。」
うーむ。何か含みがあるような…いら、やる事は変わらんな。
さてと
「リーシャ、離れてろ。」
「ユニエーーー」
何かを言おうとしたリーシャを遮って続ける。
「心配は要らんぞ。私はお姉さんだからな。」
言葉に出して気合を入れる。
そうだ。私は姉だ。保護者だ。その為には、例え友であっても。
「そうじゃ無くて、私からユニエは25m以上離れられないんでしょ?」
あっ。
「うん、やっぱり私も戦うよ。どっちにしろ近くに居ないといけないし。」
むむ、しかしそれでは本末転倒だ。
悩んでいるとそれを見兼ねたのか、アルが
「リーシャちゃんは私が見てるから大丈夫よ。だからユニエちゃんは心配しないで、作戦に集中して。」
そう急かされて、ルエスの元へと向かうことになったが、リーシャは何故か少し不満そうだった。そんなに演説の続きが聴きたかったのか?分からんな。
色々考えながらフヨフヨ飛んで行くとお互いがはっきりと分かる距離まで近づいた時、驚きの声が聞こえた。
「ニャ!?ユニエかニャ!?なんでここに居るニャ!?」
「それはこっちのセリフだ。ルエス。」
黒猫を見て腹を据えた。ルエスが何故こんなところでこんなことをしているのか謎だが、少しは察しが付く。
頭の下の人間は、詳しい年齢はわからないが少なくとも少年ではない。親しみがあるのか何なのか、お互いに気を許しているのがわかる。こいつが例のクソガキなんだろうな。
ルエスはこの男の子守りだ、親代わりだ。だから此処にいるんだろう。恐らく、子供の我儘に付き合って。私もリーシャが大人しく宿に戻ってくれてたのならば、ここにはいなかっただろうしな。同じようなものか。
「何しに来たニャ。」
声に疑問の響きはなかった。勘付かれたか。
「お互い大変だな。」
無意味な質問には答えず、いつも通り愚痴に口をとがらせながら
「だから、恨むなよ。」
水を霧に変えた。
色々立て込んでいましたが、それも済んだのでまた投稿頻度を上げます。




