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水の精霊にTS転生!   作者: アリエパ
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雨天決行

リーシャが早めに寝たので、私も少し早過ぎると思いながらも屋上に向かったところ、もうルエスが来ていた。


「やけに早いじゃないか。」


「気まぐれニャ。ユーこそどうしたニャ。」


「明日は一日中任務で潰れるからな。リーシャが寝るのも早かったのだ。ああそうだ、明日の夜は来れんかもしれん。」


 そう告げると、ルエスは少しの間を置いて


「ニャア、ユーだったらどうするニャ?もしも子供が道を間違えそうな時ニャ。」


「なんだ唐突に。反抗期の話か?」


 ルエスから相談されるなんて珍しいな。大抵いつもの愚痴しか言わんのに。


「そうニャ。悪い事がカッコいいと思ってるとかじゃ無いニャ。マジでエライ事をやらかそうとしてる場合ニャ。」


「具体的にはなんだ?」


「察せニャ。」


 察せって…口に出すのも憚れる様な事か?

 うーむ。仮にリーシャが、そうだな、殺人とかの重犯罪を犯そうとして、私だったら…どうもしないような気がする。止めるべき、叱るべきかもしれんが、私自身が充足を求めて血を啜るのだ。その為なら殺しも厭わん。

 私は精霊だ。リーシャに道徳を説くには、あまりにも前世からの倫理観が薄れてしまった。もしもルエスが言うような事態に直面した時に、私が出来る事は多くはない。ただ単に


「側に居てやればいいんじゃないか?」


一緒にいてやる事だけだ。


「ンニャ?」


「何があっても自分だけは味方であり続ける。そこまでやれれば、飯事ままごとなどとは言えないだろう?」


 それを聞いたルエスは少し驚いているようだった。


「ニャ、そうニャ。ミーはずっと、なんとかやめさせる事しか考えてなかったニャ。でもそんな手もあったニャ。目から鱗ニャ。ユーもなかなか保護者として堂に入って来たニャ。参考になったニャ。」


 ルエスに褒められたのは初めてだ。この小さな先輩保護者に認められるのは、少なからず嬉しいな。


「ニャ、これやるニャ。」


 言葉と共に差し出されたのは小さな牙に紐のついたペンダントだった。


「それはケットシーが友と認めた相手に贈る証ニャ。他のケットシーに見せる運が良ければ助力が得られるニャ。」


 運が良ければか。気まぐれな種族なんだな、猫みたいに。


「まあ受け取っておこう。私からは…そうだ、体を洗ってやろう。」


 これくらいしか私から出来る事は無い。しかし水球を近づけるとルエスは叫びだした。


「ウニャア!!やめるニャ!濡れるニャ!」


 気持ちいいと思うんだがなあ。リーシャには好評だしな。あっ、猫だからか。


「まったくニャ。まあいいニャ。ミーはそろそろ帰るニャ。

 ニャ、忠告しとくニャ。明日は任務が終わったら外の様子を確認しとくといいニャ。いざとなったら逃げるニャ?その時の為に色々みとくべきニャ。」


「ふむ、分かった。また明後日だ。」


 そうしてルエスの後ろ姿が見えなくなった途端、雨が降って来た。

 縁起がいいな。これなら任務も頑張れそうだ。

:

:

:

 朝になってもシドシドと雨は続いていた。汗のような生暖かい雨だ。リーシャが濡れないように私が傘がわりになっているが、横雨が降ってくるのでリーシャはダボダボのカッパを着ていた。体が冷える事は無いだろうが蒸し暑そうだな。疲れなければ良いのだが。

 集合場所の門前には既に見知った顔が幾つかあった。初めての者とはリーシャが自己紹介をしていたが、ふむ、リーシャが子供である事を誰かが突っ込むかと思ったが、誰一人として何一つ触れないな。問題が起こらないのは有難いが。

 仮に起きても対人関係に関して私が出来る事は無い。人の機微が今一つ分からなくなってしまったからな。しかし、ルエスとの会話は唯一価値観を共有できる、自分の中に眠る人らしさを思い出せる貴重な時間だったのだな。

 つらつらと他愛もないことを考えていると、アルが姿を現した。


「生憎の雨だけど、始めるわよ!」


 10人ばかりの兵隊はかなり目立つ。こっそりやる割には全然隠れていないぞ。


「今回は街から近い場所にある湿地帯の調査よ!馬を用意したからそれに乗って頂戴!」


 調査?ああ、そう言う名目なのか。しかし馬か。リーシャは乗れるのか?


「リーシャちゃんは私と一緒に乗るわよ。」


 雨で地面がぬかるんでいるため、あまり早くは走れないようだったが、そのお陰で私も引き離されずについて行けた。

 そんなこんなで現地に到着すると、アルが話し始めた。


「さて、事前通告したと思うけど、対象は悪魔及びある程度の長さの手足の生えた魔獣で、それ以外を見つけても報酬にはならないわ。各員自由に動いて良いけど、悪魔に遭遇した際は近くの隊員と連携を取る事。

後はーーー


 そこまで聞いた時、にわかに雨が強まった。

 おお!こんな豪雨初めてだ!

 さっきまでの霧より重たいぐらいのじんわりとした雨が嘘のような、ザアザアと体を叩く力強い雨だ。吸収する量が段違いに増えて恍惚としてしまう。泉に全身を浸すのと同じ、強い清涼感だ。

 少しテンションが上がってきた。体が自然と踊り出す。

 あーめあーめ♪ふーれふーれたんとふれー♪


「ユニエ!ユニエ!!」


「なんだリーシャ、今いいところなんだぞ。」


 リーシャはカッパの首元を目一杯引き絞り、体を縮こめていた。


「もう始まっちゃったよ!」


 あっ。そうだった。雨が美味くてつい。

 リーシャは顔を上げるのも辛いのか俯いたままだ。取り敢えず傘の役目を果たさねば。


「すまんな。私は何をすれば良いのだ?」


「何!?聴こえないよ!」


 雨音は普通の声だと掻き消してしまう程の音量になっていた。風も強く唸りのような音も聞こえる。リーシャの耳元に口を添えて少し大きな声で言う。


「私は何をすれば良い!」


「雨で!魔獣と悪魔が!活発化するから!見つけるのは!簡単だけど!危険だから!警戒しろ!だって!」


 リーシャはイライラしてるのか?むむ、私の落ち度か。名誉挽回しなくては。

 10mぐらいの高さに浮いて周りを見渡す。雨で霞んでよく見えないが、周囲の様子が掴めて来た。

 所々にポツリポツリと動いている人影があるが、あれは私達と同じく仕事を請け負った者で、魔獣や悪魔は見当たらない。

 リーシャの近くまで降りて尋ねる。


「何も居ないぞ!どうするのだ!?」


 怒鳴るように大声を出さないと自分の声すら霞んでしまう。ごうごうと雄叫ぶ風はいよいよ脅威を増し、流れに逆らうようにしていないと吹き飛ばされてしまいそうだ。


「雨が降ってると!そのうち沼から出て来るから!そこを叩くんだって!」


 そうは言ってもあまりの強風でリーシャの小さい体が吹き飛ばされそうだ。雨と言ってもこんな嵐のような天候で活発になる生き物はいないと思うが。

 もう一度浮上を試みた時


「うお!?」


 突然の突風で体の制御を失い、地面に叩きつけられる。うげぇ、泥水マッズ!


「ユニエー!?」


「大丈夫だー!!」


 風に乗って僅かに聴こえて来る声に全力で叫ぶ。うーむ、伝わったか?

 リーシャの方に戻ろうとするが、とても宙に浮いては近づけない。風に逆らうので精一杯だ。

 ぐぐぐ。仕方ない、這って進むか。ああ、不味い。泥水が不味い。なんでもかんでも節操無しに液体とあらば自動的に吸収するこの体を、ここまで恨めしく思ったのは初めてだぞ!

クソ、不味い不味い不味い!

 こんなにも心踊らない風の悪戯があるとは。しかし苦労の甲斐あって何とかリーシャと合流する。


「リーシャ!!」


「ユニエ!!」


 抱き合ってお互いの無事を確認する。いつの間にか私の水の衣は吹き飛ばされていた。

 その時、辺りが一瞬明るくなった。か、雷?


「ユニエ!あっちだよ!あっちに行こ!」


 リーシャが指差す方向を見ると、輝点が一つ浮かんでいた。まるで照明弾だな。


「あれは何だ!?」


「合流の合図!」


 二人で支え合い泥水をかき分けながら近づいていくと、途端に無風状態になった。それだけでは無い。そこだけ雨が降っていない。

 リーシャに質問しようとしたが、向こうも不思議そうにキョトンとしていた。お互いに狐につまされたような思いで顔を見合わせる。

 空は曇天。吹き荒む風雨は大地をかき混ぜる。しかしここだけは平和だ。

 まるで魔法のようだな。いや、正にその通りなのか?

 不思議に思っていたが、リーシャに手を引かれて歩き出す。地面は少しぬかるんでいるが、殆ど泥だからか吸収は起こらないようだ。ホッ。


「取り敢えず、あの光ってるのが集合地点だよ。あれは…アルかな?」


「アルか。そう言えば確か奴は風魔法使いだったか。だとしたら、これもか?」


「うーん。行ってみないと分かんないよ。」


 久しぶりに歩いたが、私の足さばきはブランクがあった割にはしっかりしていた。恐らく疲労のせいだろうが、おぼつかない足取りのリーシャに肩を貸し、アルの元に進んで行った。


「二人とも大丈夫かしら?あっ、ユニエちゃん、服無くなってるわよ。」


 ああ、そうだった。私が空に浮かび服を着ようとすると、リーシャはへたり込んでしまった。いつもだったら裸で人前に出る事に大して何かしらの苦言を呈してくるが、今ばかりはその余力が無いようだ。後で体も服も洗ってやらねばな。泥とまみれだ。

 そう思ってリーシャを見ていると、リーシャは体の節を伸ばしながら


「ううー、はあ。これ、アルがやったの?外って言うか、まったく違う環境になってるんだけど。」


「そうよ。風魔法で結界を作ったのよ。かなり魔力を消費する上に、こんな時しか使い道が無いんだけどね。」


 成る程な。まるで天気が操れているかのようだ。ふむ、聞いてみるか。


「風魔法を極めると天候も操れるのか?」


「それは無理ね。私がやってるのはせいぜい高さ20mでの出来事よ。どんなに風に長けていても、操れる距離に限度があるもの。最高位精霊や竜王なら、可能かもしれないわね。」


 何だと!?最高位精霊!如何にすれば其処に至るのだ!?進化か!?


「どうや「中尉!!少佐からの緊急連絡です!!大至急帰還せよ、と!!」れば…」


 興奮して聞こうとした矢先、質問は私よりも遥かに大きな声にかき消された。


「理由は!?」


「不明です!嵐の影響で風が乱されています!」


「えーと、考えられる理由は… まさか!?」


 なんかあったのか?完全に蚊帳の外だ。


「集合状況は!?何人帰って来た!?」


「まだ軍曹が…」


「だったら少尉と伍長で結界の維持に当たりなさい!その他の者は帰還するわよ!」


 今までに見たことの無い、鬼気迫る表情のアルがいた。幾つもの指示を矢継ぎ早に繰り出し、誰もがきびきびと動きあっという間に準備が整う。なんと言うか、本当に軍人だったのだな。


「リーシャちゃん、急いで戻るわよ。私には行きの時のようにフォローする余裕がないわ。だけど御免なさい、なんとか一緒に来て欲しいの。」


「心配要らないよ。まだ行けるから。」


 無理はしない方が良いと言おうと思ったが、リーシャにも又鬼気迫る物を感じ、私は口を閉ざした。

 リーシャが何を思ってそうするのか、検討もつかん。私もまだまだだな。


「いい子ね。よっと。良し、行くわよ!!」


 アルはリーシャを馬を乗せ、自分も続いて騎馬すると一気に馬を駆って走り出した。うぐぐ、随分と駆け足だな。行きより地面の状態が悪いとゆうに。ギリギリ追いつける程の速度だ。

 リーシャはアルの背中の陰になって様子を伺う事は出来ない。万が一落馬したら、私がなんとかせねば。


~~~~~~~~~

《ある屋敷の一室》


「本当にやるニャ?やめた方が良いニャ。雨も降ってるニャ。」


「うるさい!!今日こそだ!今日こそ奴らに目に物見せてやる!俺は、親父とは違う!!なのに奴らときたら、事ある毎に…クソ!!」


 みっともないニャ。もーすぐ大人なのにニャ。他人のせいにしても何も変わらないニャ。どこで間違えたニャ?


「ふニャア。ニャ、もう諦めたニャ。」


 過ぎた事ニャ。


「ふん!力尽くで止めるか?俺だって戦うぞ!!」


「ユーなんか小物過ぎて過ぎて止める気にもならんニャ。」


「なんだとお!!」


 ニャ、こんなクソガキでもやっぱりミーの子供ニャ。


「しゃーないニャ。ミーが面倒見てやるニャ。」


 血の繋がりも種族も違うニャ。


「ミーだけはユーの味方ニャ。」


 でもミーが親ニャ。


「素晴らしいですな!天下の大ケットシー、ルエスライ・ブラア・タジクス様のご助力が頂けるとは!!我輩感謝感激雨霰でございます!!」


 変なのが湧いたニャ。そもそもこいつらが悪いニャ。こいつらの所為でクソガキがこんな大それた事やろうとしてんニャ。

 ミーの名前を珍しく一発で覚えたからって油断してたニャ。


「フシャー!勘違いするんじゃ無いニャ!!誰がユーなんかに!!ミーが助けてやるのはあくまでクソガキニャ!!」


「分かっていますとも!!ホホホホ!!」


 こいつ何とかしないとニャ。

 ウニャ、雨も強くなる一方ニャ。憂鬱ニャ…



戦闘シーン?

内は内、他所は他所。

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