猫から学ぶ
おかしい、一話一話がどうしても短くなる…
リーシャが寝静まったころに屋上に行くと
「ニャ、来たニャ。」
一日会わなかっただけなのに、久しぶりに感じるな。
「来たニャ、じゃない、肝心な時に限って居ないとは。昨日は色々相談したかったんだぞ。」
「しゃーないニャ。ケットシーは濡れるのが嫌いニャ。」
やはり猫じゃないか、と言いかけた言葉をなんとか飲み込む。やれやれ。
「はあ。まあ良い。所でな、リーシャがな、危ない事に首を突っ込みたがるのだ。今回なんか極秘任務だかに参加する事になってな。任務の意義もどうやら高度に政治的らしいのだ。気が進まん。」
報酬がどんなものかは覚えてないが、例え好条件でも関わるべきで無いような気がする。
「子供は子供なりの哲学を持ってるニャ。だから無闇矢鱈にあれこれ口を出すのは間違ってるニャ。でもいざという時は口煩さも必要ニャ。ホントにヤバイと思ったらだけどニャ。」
ホントにヤバイと思ったら、か。首を捻って考える。今回の件はこれに当たるだろうか。
「あまり難しく考え無い事ニャ。うまく行くときもいかない時もあるニャ。
アドバイスしとくニャ。ユーは契約者と仲いいニャ。でも意見が食い違う事もあるニャ。そんな時はケンカも大切ニャ。ケンカして意見をぶつけ合うニャ。何時もあっちに擦り寄るだけじゃ足りんニャ。」
流石、長年保護者をやっている奴の言葉は違うな。ただ気まぐれなだけかもしれんが。
しかし喧嘩か。リーシャとやった事あったか?パンツやトイレの時のあれは喧嘩、なのか?違う気がするな。野盗に襲われたときの殺し屋発言もあまり重くはならなかったしな。
「たぶん無いな。ちぃっとしたおふざけ程度だ。した方が良いのか?」
「それはただ遠慮し合ってるだけニャ。子供に遠慮するのもされるのもよく無いニャ。それは保護者じゃ無いニャ。」
むむ、なるほど。一理ある。
「遠慮か。そうだな、リーシャと良く話し合ってみよう。」
「そうするといいニャ。」
ルエスは月を仰いで伸びをした。
「もう一つ最後に言っとくニャ。ミーもユーも保護者を名乗ってもホントの親じゃないニャ。血が繋がってないどころか人類ですらないニャ。言ってしまえばミー達がやってるのはオママゴトだニャ。」
「その言い方はないんじゃないか。」
少なくとも遊びでリーシャと一緒にいる訳じゃない。真剣にリーシャと向き合おうとしているつもりだ。
「ミーもユーも勝手に親だとか姉だとか名乗ってるだけニャ。あのクソガキもユーの契約者もミー達を親だと思う義務は無いニャ。結局のところクソガキの人生はクソガキのものニャ。そのことは忘れちゃいけないニャ。」
言いたい事は分かる。しかしそれではあまりにも投げやりだ。私はリーシャの面倒を見ると決めたのだから、大人に成るまでは守ってやらねばならん。
「それはお前の指針であって、私のでは無い。リーシャはまだ子供だ。10歳の弱く儚い少女に過ぎん。年の割に落ち着いてはいるが、それでも私はあの子の姉に、そしていつかは親、はたまたそれに近い者になる。それが私の目標だ。」
「ニャ。でも子供はすぐ大きくなるニャ。親も子供と一緒に成長するニャ。でも子供だけが成長して親が成長しなかったら悲惨ニャ。血の繋がりがあればそれでもなんとかなるニャ。
でもミーもユーも血の繋がりどころか寿命からして違うニャ。
ミーはケットシーでクソガキは人間ニャ。寿命が違えば一日の価値からして違うニャ。ユーもそうニャ。契約者がエルフでユーは精霊ニャ。
覚悟しとくニャ。子供は子供のままではいてくれないニャ。ユーが思ってるよりずっと早く大人になるニャ。それはエルフも人間も関係ないニャ。」
寿命。それを考えると空恐ろしくなった。置いて逝かれることが、では無い。ルエスの言った一日の価値という言葉に驚愕したからだ。
急いで何かしようとした事なんて水以外にあったかどうか。雨を降らせると言う目標すら、早く達成しようと思っては無い。これは人間だった頃からの性格か、それとも寿命が無い精霊である事に起因するのか。 前世はどうだった?私は毎日を有限だと考えて居たか?…思い出せん。自分の思考回路が今とどう違うのか。どちらなせよ、その事に胡座をかいて居た可能性は充分にある。
「悩んでも答えは出ないニャ。寿命が違うのはどうしようも無いニャ。子供が生き急いでるように見える時があるニャ。それが当たり前かもしれないニャ。でもホントに生き急いでる時もあるかもニャ。大切なのは寄り添う事ニャ。」
「難しいな…」
何をすべきか。どうなるべきか。私はリーシャにどうしたいのか、どうして欲しいのか。
「ニャオーン!!考えるが良いニャ。ミーも100年かけて色々決めたニャ。ユーはまだまだニャ。それじゃあニャ。」
そう言ってルエスは去って行った。100年か。まあ、エルフは100年経ってもそれから200年も有るんだ。ゆっくり考えよう。その時にはリーシャは子供じゃ無いが、何、姉にとって、親にとって、いつまで経っても妹は妹で子は子だ。
月夜は更けて行く。リーシャが寝ている間に私も進んでいけば良い。リーシャよりも少しだけ先に。
:
:
:
いつもはリーシャからされる朝の挨拶を、今日は私からした。
「おはよう、リーシャ。」
「おはよう、ユニエ。」
リーシャは軍に関わる道を選んだ。私もそれを認めた。だったら、
「今日からしばらく訓練か。頑張ろうな!」
協力しなければならない。共にやらねばならん。
「何かいい事あったの?」
「水が美味かっただけだ。」
いざとなれば逃げればいいしな。
「ふーん。まっ、そうだね、頑張ろ!」
一日一日をしっかり、一緒に、歩んで行こう。生を共有して、今日を生きよう。
これが私のやり方だ。




