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水の精霊にTS転生!   作者: アリエパ
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それは常に唐突に

 リーシャが軍学校に入ってから数日、危惧していた戦争に駆り出されるな気配は全くしない。まあ、ろくな装備も教育も施されぬまま使い捨てられることはなさそうで何よりだ。好条件は真実であった。

 制服を着たリーシャと共に学校に通い、授業を受ける。周囲は少し年上ぐらいの年齢だが、リーシャは優秀な生徒らしく飲み込みが早い。分からなかった所を私がリーシャに教えてもらう事もしばしばだ。威厳…本当に字を学ぶべきか?


「ユニエ?もう授業終わったよ?」


 リーシャに顔を覗き込まれる。あっ、最後の方の所聞き忘れた。いかんいかん、考え事をし過ぎだ。歴史の授業がどれだけ私に関係するのか謎だが、話を聞いてなっかた事が露見してはまた呆れられてしまう。


「ほら、行こ?」


「うむ。喉が渇いたな。」


 差し出された水筒に口をつけ。そのままリーシャに連れられて早々に教室から立ち去る。

 この後の遊びの相談が廊下にも響いて来ても、リーシャは振り向きもしない。周囲と壁を作ってるように思うがそれについて聞くと、どうせいつかこの街から去るんだから仲良くなっても意味が無い、との事である。

 いやまあ、ドロンする時に無用な繋がりが足枷になる可能性があるのは確かだが、いくら何でもなあ。しかしアルを始めとした大人に対しては素っ気無いという事は無い。アルが苦手だと漏らしていたが、普段はおくびにも出さない。

 子供嫌いなのか?自分も子供の癖に。


「今日の授業、ちゃんと分かった?」


「…精霊にはあまり関係無い事が分かった。」


 そんなこんなで宿に着いた。

 最近のリーシャは学校が終わると真っ直ぐ宿へ戻り、自分の部屋の階下にある小さな書架に足を運び本の虫と化している。私は退屈である。


「アルラシアよ!今良いかしら!」


 不意にドアが叩かれた。アルか。久し振りだな、入学初日に会ったきりだった。

 リーシャが解錠してドアを開けると、アルの他に一人いる。鬼人だが、両腕がやたらと長くてテカテカ反射している。


「さて、あなた達口は堅いかしら?」


 怪しさ満点の第一声。今度は何なんだ。

:

:

:

「つまり、獣手を量産する為に悪魔や魔獣を生け捕る手伝いをしろって事?しかも秘密裏に遂行しろって、後ろめたい事なの?」


 獣手、四肢を欠損した者に悪魔や魔獣の部位を移植し新たな手足とする、らしい。免疫拒否かどうかは不明だが死亡率が高い、らしい。故に生命力が高い鬼人か獣人しか術式不可、らしい。

 アルから説明を聞いたがよく分からんな。まあ細かい事は今は関係無い。要旨は危険な任務につかされそうだという事だ。


「違法性は無いわよ。ただ高度に政治的かつデリケートな問題を、あまり褒められたものじゃ無い方法で解決しようとしてるから、なるべくこっそり進めたいの。」


 違法性は無い。なんか政治家が使いそうな言葉だな。


「…その任務の報酬と、背景を教えて。」


リーシャの声は堅い。


「報酬は歩合制よ。比率は後で話すわ。それと、そうね、最初からは話すわ。少し長くなるけど。

 帝国人の流入に苦慮してる話はしたわね。

 帝国難民に関して連邦での意見は二つよ。多数の拒否派と、少数ながら無視出来ない受容派。連邦政府はその少数派を満足させる為に、難民の受け入れに条件をつけたわ。

 それは、社会的、生物的弱者の最である身体障害児である事よ。」


 随分と、こう、エグい話だな。


「この条件なら該当者はまず連邦領内にまで辿り着けないし仮にいてもごく少数、しかも子供なら再教育して連邦の価値観を丁寧に刷り込んで、社会に適用させられる。これなら拒否派も反対は小さいだろうし、受容派も譲歩した事である程度は矛を収める、それが政府見解だったの。」


 その程度で本当に意味があるのか?身も蓋も無いが自己満足に過ぎんぞ。


「でも予想より遥かに多い人数の子供が来てしまったの。色々要因はあるんだろうけど、見通しが甘かったのね。これだと教育体制も満足に出来ないから、更に篩にかける必要が出て来たわ。

 そこで、獣手を用いる案が出てきたの。人間で獣手、それも子供が。たぶん殆ど生き残らないけど、それで目標数までは削れるわ。表面上は子供に新たな手足を与える、だけど実態は…そういうわけで、余り大々的にはやれないのよ。」


 これでは悪事の片棒を担がされるようなものだ。あまりにも醜悪、苛虐。私がどうこう言える立場では無いし、勝手にやれば良いと思う。生き血を啜り糧にしてるのだ、今更どうだって良い。

 しかし、リーシャにはやって欲しく無い。まだ子供なのだ。せめて、せめて私が側にいる内は、美しい、優しいものだけを見ていて欲しい。社会の汚れた面を見せないで欲しい。


「報酬はーーー」


 殺したり殺されたり。それはリーシャにはまだ早い。まだ一度だけなのだから、人の死に関わるのはこれ以上は。せめて、大人になるまでは。


「ユニエ。」


 いつの間にかアルともう一人は帰っていた。リーシャが佇み、口を開いた。


「私、この仕事やってみようと思うの。」


「そうか。」


 やめてろ。止めたい。考え直せ。諫めたい。しかしそれらはの言葉は出なかった。黒猫の顔が頭をよぎった。


「私は何をすれば良い?」


 子供が決めた道に文句はつけないもんニャ、…もんニャ……ニャ………


 今夜の相談は長くなりそうだ。




投稿ペースを落とそうと思います。一話一話もっと読み応えのある、推敲を重ねた話にしたいと思いました。週に数度の投稿にします。

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