真意と新衣
リーシャ視点です
「さあ、今日は街に出るわよ!準備は良い!?」
朝ご飯を食べ終わったらアルラシアが来た。
「できてるよ。ね、ユニエ。」
「うむ、行こうか。あっ、途中で井戸とかに寄ってくれると助かる。」
ユニエはやっぱりそれしか気にして無いみたい。精霊だから当たり前かもしれないなけど、他の事にも気を配れば良いのに。装いとか文字の勉強とか。
「大丈夫よ!街中に水場はあるもの!行きましょう!」
アルラシアは昨日より気合が入ってる気がする。何でだろう?街を案内するから張り切ってるのかな。やっぱり都会の人だとエネルギッシュになるの?疲れないと良いな。
建物の外に出ると石造りの街並みに出迎えられる。一日経った今でも見慣れないね。集落は豊富な木材資源を使った建築が多かったから、石しか無いと違和感というか圧迫感があって落ち着かないよ。
「あの種族は何だ?」
上を飛んでいたユニエから声をかけられてそっちを向くと、前を指して不思議そうな顔をしてた。前方をよく見てみるけど
「人影にで見えないよ。」
「うーむ。角の生えた鬼人?なんだが手がやたらと毛深くて長いぞ。ハーフなのか?」
記憶を探るけど、それに該当する種族は思い当たらないかな。ハーフにしても手が毛深くて長いなんて、どんな組み合わせでも産まれそうに無いよ。
「それは多分、獣手ね。」
横を少し前を歩いてたアルが軽く振り返りながら話しかけて来る。
「街中でする話でも無いから、後で話すわ。」
ふーん、獣手ね。まだまだ知らない事だらけ。もっと色々調べないと。
歩いて行くと、小さな建物に小さな看板のついた服屋さんに着いた。
「ここが今日の目的地の一つよ。ワゴン!私よ!アルラシアよ!」
アルが小さな戸を叩きながら呼びかけてる。ワゴンって、昨日の昼に食堂で会ったドワーフの人?
「へいへい。本日はようこそらっしゃい。中尉に嬢ちゃん方、どうぞ中に入っちょって下せえ。」
予想通りドワーフが店から出て来た。招かれるまま店内に入ると、色とりどりの布があちこちに散りばめられたカラフルな内装で、結構可愛い。店主と思わしき筋肉ダルマのドワーフを除けば、だけどね。
「この子の為の制服と軍服をお願い。」
制服に軍服?服をくれるんだとしても、軍服?子供に?何でかな?
「へい、承りやした。セレナ!来い!採寸だ!」
ワゴンに呼ばれて出て来たのは、私と同じくらいの背丈の女の子だった。
「大声出さない。耳がバカになる。あっ、アルさん。お久しぶり。元気?」
「セレナちゃん、久しぶりね。ええ、元気よ。ああ、紹介するわね。この子達はリーシャちゃんとユニエちゃん。」
「エルフのリーシャです。」
「ユニエだ。」
ユニエはそれだけ言うと店内を物珍しそうにキョロキョロしてる。それだけだと伝わらないじゃない。
「ユニエは水の精霊なんです。」
一言付け加える。
「セレナよ。ドワーフと人間のハーフで、これが親父のワゴン。ドワーフの血が流れてるから幼く見えるかもしれないけど、これでも15歳よ。」
年上だったみたい。
「じゃ、サイズ測るからじっとしてて。」
そう言ってセレナはメジャーを広げて、私の腕の長さだったり肩幅なんかの色々な場所を調べ始めた。少しくすぐったいかな。
「これで良し。親父、計測データこれ。リーシャ、来て。靴のサイズ選ばなきゃ。」
店の奥に入って行くセレナの背中を追おうとした時、
「あっ、ユニエちゃんは待ってて。そっちは狭くなってるから、商品が濡れてしまうかもしれないわ。」
一緒に行こうとしたユニエがアルラシアに呼び止められた。ユニエは直ぐに
「脱げば問題なかろう?」
と言って、水の衣を外そうとしていた。止めなきゃ!
「ユニエ、ダメだよ!そんな事しちゃ!」
「む、そうか?」
ユニエは基本的に水の事以外には無頓着過ぎるよ。精霊ってみんなこうなの?
「仕方ないか。待ってるとしよう。」
まったく。
「早く来な!」
セレナに呼ばれて店の奥に入って行くと、沢山の靴が並んでる。赤も青も、黒も白も、多種多様な靴の並んでて凄いなあ。
「そこの台に乗って。」
メモリのついた台に乗ると、またメジャーを広げて今度は足を調べられる。一頻り測り終えると一つの靴を勧められて、言われるままに履いてみると、少しの余裕を持ってフィトした。
黒い革で光沢のある、丈夫そうながっしりとした靴。今までは木の蔦で編まれた靴だったから、初めての感覚で不思議。
歩いてみるとカツカツと硬い音が響く。変なの。
「合ってるみたいだから、こっちも履いてみて。」
そう言って差し出された靴は、編み上げのロングブーツだった。大きすぎないかな?
とにかく履いてみると、案の定少しブカブカ。ふくらはぎの半分を覆ってるんじゃないかな。紐を縛って結ぶと脱げないようにはなった。
「大丈夫そうだな。それ履いたままでいいから、あっちに戻るよ。」
隣の部屋に戻ると、ワゴンが二着の服を持って待ってた。
「靴は大丈夫でちょっか。今度はこの服を試着して下せえ。」
一つはスカートとシャツにベストの組み合わせ、たぶんこっちが制服かな。もう一つは素人目でも戦闘用だと分かる、所々に金属板が施された黒っぽい服。アルが着てる服と似てる?でもそっちのには金属板がついてないけど。
まず制服の方を手渡されて、ブーツを脱いで試着室に入る。着替えてみるとしっかりフィットした。
「終わったよ。どう?」
カーテンを開けて外に出ると
「おー、似合ってるじゃないか、可愛いぞ。」
まさかユニエが一番に褒めてくれるなんて意外。でも嬉しいな。大切な人に褒めてもらえると。
「ふふ、そう?ありがとう。」
ユニエは偶に気が効くと言うか、嬉しい事を言ってくれる。昨夜も、森にいた時も。水にしか興味が無いと思えて、実は私の事も考えてくれてる。うん、ユニエは私と水以外に無頓着なんだよね。
優先順位は水が一番で、二番が私。でもそれ以外に大切なものなんて、ユニエには無いんだ。
ユニエに大事に思われる。それは何よりも幸せを実感できる、とっても素晴らしこと。幸せだなあ。
「よろしいですかな?次はこれを着ちょって下さい。」
あっ、いけない。周りが見えてなかった。今度は重い戦闘服に着替えなきゃ。
ブーツも一緒に履くように言われた。履き方にも方法があるらしくて、ズボンの裾を靴の中に押し込めるらしい。とにかく言われたようにする。
「いい感じね。ありがとう、ワゴン!」
「いえいえ、お安い御用でさ。」
「じゃ、一旦宿に戻りましょう。荷物を置いてかないとね。」
アルラシアは外に出て行った。私はワゴンとセレナに一礼して
「ありがとうございました。」
戸をくぐった。
宿へと戻って、元々着てた服と制服を部屋に置く。武器を持って来いと言われたけど、何に使うんだろう。服とブーツは戦闘服のままだから、何かと戦わされるのかな。
とにかく下に戻らないと。
「来たわね。この子がリーシャちゃんよ。」
階段を降りた先には、アルの他にもう一人いた。ボサボサ頭の人間。
「初めやして。俺は人間のカートです。階級は軍曹。」
昨日本の部屋からアルラシアに追い出された人だ。
「ユニエちゃんは…戻ってきたわね。」
ユニエも紹介されたところで、アルは予想通りと言うか
「リーシャちゃんとユニエちゃんの実力、見せてもらうわよ!」
やっぱり戦うのね。
次回もリーシャ視点です




