今という時
短めです
ーーーてな感じでまさにクソガキニャ。かなり遅めの思春期で大変ニャ。反抗期ニャ。やってられないニャ。」
「そうかそうか。大変だな。」
ルエスの愚痴は長い。しかしなんだかんだ言ってクソガキとやらを大切に思っているのが伝わってくる。
「ユーも他人事じゃ無いニャ。リーシャって子は10歳だったニャ?」
「自己申告に依ればそうだ。」
「だったら後2年もしないうちに思春期突入ニャ。そんでしばらくしたら反抗期のダブルコンボニャ。可愛いのは今だけニャ。甘えた考えだと痛い目見るニャ。」
甘えた考え、か。リーシャとしっかり向き合わなくては駄目か。しかしなあ
「虐待されてたみたいなんだ…」
「んニャア?」
「あの子は虐待されてたらしいんだ。髪や目、肌の色が周りとは違うとか、特別な魔法が使えるとかで、忌子と呼ばれ牢に入れられてたらしい。」
「ウニャ。ヘビーな境遇ニャ。」
「せめて私が、保護者役をすべきなんだろうがなぁ…難しいな…」
ルエスは私の足に肉球でポンと叩いて
「難しいのは誰でも同じニャ。辛くて放り出したくなるニャ。でもミーは長いこと一緒にいた所為で今更さよなら出来ないニャ。ジジイの代から見てきたニャ。クソガキのオヤジもミーがオムツ変えてやったニャ。あのクソガキが初めて覚えた言葉はね…ケットシーだったニャ。」
今、猫って言いかけなかったか?突っ込めるような雰囲気では無いが。
「あれのオヤジからクソガキの事を頼まれたニャ。だからミーは諦めて最後まであのクソガキに付き合う事にしたニャ。頑張るしかないニャ。」
だからお前も頑張るニャ。そう言ってルエスは月を仰ぎ見た。
そうだな。猫に出来るんだ、私にも出来る。
「これからどうなるかは分からん。だが、私はあの子の、せめて姉ぐらいにはなろう。」
「ニャ、その意気ニャ。お互い頑張るニャ!」
そしてルエスは立ち上がって月に吠えた。月の優しい銀色の輝きに照れされたルエスは艶やかだった。
「ニャオーン!!…ミーはそろそろ帰るニャ。また明日来れたら来るニャ。さよならニャ。」
「じゃあな。」
また明日。手を振ると、ルエスは建物から飛び降り、背の低い屋根に着地して走り去って行った。
夜の暇つぶしが増えたな。あいつは猫だが保護者としては私の先達だ。何か学べるかもしれないな。
もう一度街を見渡す。遠くに明々とした光が空へと溢れている。あそこが街の中心部なのだろうか?明日はアルが街を案内してくれるらしいし、いずれ分かる事か。
「帰るか。」
また独り言を漏らしてしまった。リーシャの寝顔を無性に見たくなった。
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〈とある基地〉
「少佐殿?」
部下の呼び声でふと我に返る。精霊が竜の魔力が濃い鎮竜樹海から精霊がやってきたと云う報告は、余りにも異質だった。
「アルラシア中尉、君が市長ではなく、最初に私を選んだのは良い判断だった。」
市長は老齢の人間の男だが、最近不審な動きがある。
スパイを送り込んだが、未だ情報を掴めていない。連邦 は多種族が暮らしているだけあり、よく他国から差別主義の宣教師が入り込む事もある。それの排除に日々努めているので、我が国の諜報機関は三国一の練度を誇る。
その力を持ってしてもまったく尻尾が掴めない現状が、不気味さを加速させる要因になっている。
「光栄であります!」
「この件は私が預ろう。最近市長にはきな臭い動きがある。くれぐれも口には気をつけ給え。」
「はっ!」
彼女は明日、例のペアの街案内をするんだったな。
「クライラン防衛隊司令官としてアルラシア中尉に命ずる。明日、君はこのエルフと精霊を観察し、二人の関係性、人格、目的などを聞き出し、私に報告せよ。」
「ご命令、承知致しました!」
「下がって良い。」
「はっ!」
部下が去った後再び考え込む。
10年前の事件の時も、竜の魔力が濃い南方の火山で精霊が誕生したらしい。噂話だと思っていたが、今回の報告も合わせると…
議会に報告すべきだな。




