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水の精霊にTS転生!   作者: アリエパ
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保護者会

「待て。」


「ウニァ!?」


 井戸から上がりながら声をかける。空が赤から再び青へと変わる僅かな時間、残照の仄暗い明かりに紛れる黒猫がいた。


「女の子が外で裸になっちゃダメニャ!て、そうじゃないニャ!大丈夫だったのニャ!?」


 ニャ、語尾がニャ。精霊は猫の言葉も分かるのか。


「心配するな、猫よ。私は精霊だ。」


「ミーは猫じゃないニャ。ケットシーだニャ。ケットシーのルエスライ・ブラア・タジクスだニャ。そしてユーは早く服を着るニャ。精霊でも服は着なきゃダメニャ。」


 ケットシー?猫の妖怪だったか?めんどくさい、猫でいいや。名前長いし。とにかく


「私は水を飲む途中だ。話は後だ。」


 まだ渇きは収まってない。とにかくもう一度井戸に飛び込む。綺麗に足から着水し、水を吸収する。あぁー、満たされる。全身から吸収すると、やっぱり気持ちいい。

 しばし満喫した後上に戻ると、猫が待ち構えていた。


「服を着るニャ!見っともないニャ!」


 やたら服を着せたがるな。まあ、反発する理由もないから取り敢えず作るか。

 水を手のひらから出して、そのまま体の周りに纏わせていく。しっかりパンツも作った所でクルリと宙返りをして具合を確かめる。うむ。問題ないな。


「これで良いだろう。私は待ち人がいるのでもう行く。さらばだ、猫。」


「ケットシーだニャ!猫じゃないニャ!ケットシーのエルスライーーー」


 叫びを無視して扉を押して建物に入る。人の上を飛んで階段の所まで行くと、リーシャが料理を持って待っていた。


「待たせたな。」


「今終わったとこだよ。行こ。」


 3階まで薄暗い階段を登り部屋に戻る。日は沈み部屋はすっかり暗くなっていたが、リーシャが壁に取り付けてある燭台に火を灯して一応は明るくなった。


「そういえば、どうやって飯を買ったんだ?金なんてあったか?」


「話を聞いてなかったの?アルが食券くれたんだよ。」


 関係無いと思って聞き飛ばしてたな。

 それを悟られたのかリーシャが呆れた表情で見てくる。話題を変えなくては。


「そういえば、ケットシーとは何か知ってるか?」


「え?えっと、確か…」


 リーシャはベットに腰掛け、机の上の本を漁りだした。


「あった。ここら辺に…うん。これだよ。

 ケットシー。姿は猫と変わらないが、知能は人類と同等であり、魔法の行使も可能。連邦では人権が認められており、共和国でも二等市民権、即ち連邦で言う所の人権「もう良い分かった。」…そう?」


 とにかく人と同じぐらい頭が良くて、魔法も使える猫だと言う事は分かった。人権がどうたらは正直興味が無い。猫なのに人権…そこだけは微妙に気になるが。

 リーシャは開いた本をそのまま読み始めた。蝋燭の灯りがあるとは言えあまり明るくは無い。暗い中で本を読むと目が悪くなると聞いた事があるし、やめさせるか。弓使いが目を悪くしたら事だ。


「リーシャ、もう暗いんだから本はやめたらどうだ?目が悪くなるぞ。」


「そうなの?でも、昔牢に入れられてた時はこれと同じぐらい暗かったけど、ずっと本を読んでたし、大丈夫だよ。」


 牢って…虐待かそれに近いものを受けてたのは察していたが、牢…やはり不憫だ。優しくしてやろう。お姉さんらしい事をちゃんとしてやろう。

 ベットを濡らしては不味いから取り敢え水の服は外す。リーシャが座っている後ろに着地して、頭をナデナデしてやる。昼間と同じ轍は踏まない。


「今日はもう寝ろ。その分、明日は早起きして、太陽の光で続きを読めば良い。な?」


 リーシャは不安を感じたのかもしれない、街について環境が変わった事で。

 しかし私は水の心配ばかりだった。それは当然の事なのだが、水の次に大切なのはリーシャなのだ。リーシャがいないと、悲しーーーん?悲しい?

 なんでこんなにリーシャの事を気にかけてるんだ?ただの依り代としてなら、こんなに色々としなくてもいい筈だ。そもそも何故、面倒を見てやろうと思ったんだ?私は精霊。水以外に大事なものは…


「ユニエ?」


 いつの間にか撫でる手が止まっていた。考えても仕方ないな。きっと前世は人間だったころの名残だろう。

 水を吸収して直ぐの、渇水の欲求が薄い今のような時ぐらいは、ちゃんとお姉さんらしくしないといけないな。

 頭から手を離して、後ろから抱きつく。よく心音を聞くと人は安心すると言うが、生憎あいにく私には出来ない芸当だ。それを補う為にも、きつく密着して抱きつく。側にいるぞ、と気持ちを込めて。


「私が一緒にいてやる。」


「ふふふ、そうだね。今日はもう寝るよ。ありがとう。」


 もう一度頭を軽く撫でてから、リーシャから離れる。宙に浮きそのまま水の衣装を纏う。


「蝋燭の火を消して良いか?」


「うん、良いよ。おやすみ、ユニエ。」


「おやすみ、リーシャ。」


 蝋燭の灯りに水で触れ、ジュッと光が消え去る。

 リーシャは何時も寝つきが良いから、直ぐに眠る事だろう。

 あっ、そうだ、一応ここから井戸まで行けるか試しておくか。夜中にリーシャを起こすのはなるべく避けたいが、いざとなったら付いてきて貰わないといけなくなる。

 部屋は内側から掛けられる鍵が付いている。リーシャは耳が良いし、もし盗人が強引に開ける音がしたら気がつくだろう。

 この部屋は外から開ける鍵が付いてないしな、飛べるんだから、窓から出ていけばいいか。


「行ってきます。」


 小声でつぶやいてから窓を開けて外に出る。しっかりと窓を締めなおしてから、そのままの高さのまま壁伝いに動いていくと、井戸のある中庭が下に見えた。降りて行き、衣を外して井戸に入る。水面にギリギリ着水した所で、これ以上は下がれなくなった。何とかセーフ。


「ふう、これなら大丈夫だな。」


 あっ、久しぶりに一人言を言ったな。リーシャ所で出会ってからはめっきりしなくなっていた。何だかシミジミとする。

 さて、水も充分吸収したし戻るか。いや、折角だし街を高所から見てみるか。魔法には高度制限があるって話だったが、建物の上だと、、、何だっけ?まあ良いいか。取り敢えず屋上まで行ってみよう。


「おお、これはなかなか。」


 屋上まで上がっていくと、街の全貌が見えた。周囲にはこれより高い建物はないから、遠くまでしっかり見渡せる。所々に他の建物から飛び出たのがある。明日はアルが街を案内してくれるらしいから、それで判明するだろう。


「ニャア?ユーは確か、、、中庭に居た精霊かニャ?」


 後ろから特徴的な語尾の声が聞こえた。振り向くと、見覚えのある猫が座っていた。


「ね、、、「ケットシーだニャ!」ケットシーの、、、また会ったな、ケットシー。」


 なんか長い名前だったのは覚えている。


「失礼ニャ!ちゃんとケットシーの名前は覚えるニャ!ミーはルエラスイ・ブラア・タジクスだニャ!」


「ルエス…なんだった?」


「ニャア…もうルエスで良いニャ。ユーの名前は何ニャ?」


 諦めたらしい。


「ユニエだ。水の精霊のユニエだ。ルエ…ヌ?」


「ヌってなんニャ!ルエスだニャ!ル・エ・ス!ニャ!」


 ルエス、ルエスね。大丈夫。今度こそ覚えた。


「お前はこんな所で何をしてるんだ?」


「それはミーのセリフニャ。ここは景色が良いからミーのお散歩コースなのニャ。」


「私は暇だから何となく来ただけだ。」


「ウニャ?ニャー、契約者が寝てるのニャ。ニャ?ユーは高位精霊だったのニャ?全然そうは見えないけどニャ。」


 ニャァニャアうるさい。


「ニャアニャアうるさい。」


「ニャんだとニャ!」


 おっと、本音が漏れてしまった。


「やっぱり精霊はみんな常識が無いニャ。服はすぐ脱ぐし破廉恥で礼儀知らずだニャ。」


 滅茶苦茶言われたな。いやまあ、今のは私が悪かったか。


「すまんかったな。許してくれ。」


 謝って軽く頭を下げると、猫…ルエスはため息を吐いた。


「もう良いニャ。ユーは謝れるだけまだ常識人ニャ。ミーも少し失礼な事を言ったニャ。悪かったかニャ。」


 失礼な事?何か言われたか?ハテナマークが湧く。


「気が付かなかったニャ?そこはやっぱり精霊だニャ。高位精霊には見えないとミーが言った事ニャ。」


 ああ、それか。ニャアが気になって気付かなかった。高位精霊って何だ?名前の通り偉い精霊か?


「たぶん私は高位精霊では無いな。」


「んニャア?契約者との関係はどんなんニャ?」


 私とリーシャの関係か。何だろうな。私が目指してるのは…分からん。今はお姉さんだと自分では思っているが、私は保護者でも無いしな。保護者を名乗れるような人柄じゃない。


「おそらく、今は姉妹だ。たぶん。きっと。」


「随分と自信無いニャ?」


「リーシャが、ああ、私の契約者?なんだが、あの子が私をどう思っているかは知らん。下手したら私の方が妹のように思われてるのかもしれん。」


 偶に子供扱いされるしな。リーシャには前に子供扱いするなと言ったが、覚えてるか怪しい。


「ニャー。ユーの所は随分と良い信頼関係なのニャ。羨ましいぐらいニャ。ミーのと交換して欲しいニャ。」


「交換?」


「ミーは家ケットシーニャ。ある家系を三世代に渡って子供の世話してるニャ。今面倒見てやってるのがひどいクソガキだニャ。」


 なんか大変そうだな。


「うちのも生意気でな、敬意が足らんのだ。私の方が年上だというに。」


「子育てはどこも大変ニャ。ミーの所もーーー


 夜が更けていく中、一匹の黒猫との小さな保護者会が始まった。












語尾がこんなに疲れるなて…

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