溢れる
青い火にぶつかる。不思議だな、確かに命中した筈なのに、痛くも熱くもない。まあ、苦しまずに逝けるのは、そう悪くはないか。
「グギャース!!」
あれ?後ろから汚い叫び声が聞こえるぞ。そう思った次の瞬間、体が宙に放り出された。何だ?後ろを振り返ると、怪物が蒼炎に包まれてのたうちまわる姿があった。疑問が頭を埋める。なぜ私では無く、こいつが?リーシャが何かしたのか?だとしたら、あの涙は演技だったのか?あり得る。何たってあのリーシャだからな。
「おーい、リーシャ。ん?寝てる、、、」
リーシャは地面に横たわっているな。そう言えば、象に対して一度蒼炎を使っていたか。魔力切れで失神したんだな。とりあえず、リーシャは後回しだ。今は怪物だな。
「グがガぁぁぁ、、、」
そう思って振り返ると、こいつも地面に倒れ込んでいた。えっ、倒せちゃたのか?上半身は所々炭化し、僅かに頭がくっついている状態だった。今なら喉潰しも効くんじゃないか?試しにやってみるか。
「えいっ。」
「ムゴゴごご、、、」
案の定、何の抵抗も無く口に水を入れられ、喉を塞げた。ボロボロと今にも崩れ落ちそうになる手で、首を掻きむしっているが、暫くするとそれもパタリと止まり、手がだらんと投げ出された。何だか随分とあっさり死んでしまったな。
熊みたいに、復活したりするのか?そう思って警戒していたが、何の変化もなく死体のままだ。本当に倒したのか。危うく殺されかけたのが嘘みたいな、呆気ない最期だったな。
ふう、リーシャを起こすか。
近づいていくと、顔には涙の跡があるが、寝顔そのものは安らかだな。
「リーシャ、起きろー。勝ったぞー。」
ユサユサと体を揺するが、一向に起きる気配がない。困ったな、そろそろ喉が渇い、、、てない。最後に吸収してからだいぶ時間が経ったのに、渇いてない。いや、もしかして、あの時あれの唾液を、、、そこまで思い出して、また気分が悪くなる。もういいや。細かい事は気にしても仕方がないな、うん。
「おーい、リーシャ。」
「うーん。むにゅう。」
もう少しで起きそうだな。水をぶっかけてみるか?もし濡れてもこの体は乾燥機みたいな物だし、大丈夫だろ。
「それ。」
バシャ
「わあ!」
リーシャが飛び起きた。
「あ、ユニエ。おはよう。」
「もう昼過ぎだがな。おはよう。」
リーシャは寝ぼけているのか、目を擦りながらあくびをしている。
「あれ、何で寝れてるんだろー、、、あっ!ユニエ大丈夫なの!?」
「ああ、大丈夫だったぞ。」
目が覚めたようだ。心配そうにこちらを見上げている。
「そっかあ。ふふ、間に合ったんだ。感謝してよね、ユニエ。私がんばったんだから。」
「おお、やはりお前の仕業だったのか。どうやったんだ?」
まさかと言うかやはりと言うか、あの泣き顔が全部演技だったとは。私を炎が貫通してあの怪物だけを焼いたのは、リーシャが策を講じたのか。
「ユニエが捕まったでしょ、だから超特急で蒼炎を作って、あいつの無防備な背中にお見舞いしてやったの。まさかに私を無視してユニエを襲うとは思わなかったけど、おかげで防御も回避もされなかったからね。でもあんなに早く蒼炎を作れるとは思わなかったよ。火事場の馬鹿力って事なのかな?」
ん?話が噛み合っていないような気がするぞ。
「えっと、怪物に言霊を使われたんだよな。それに操られてるふりをして、蒼炎を撃って、それで私だけ燃やされなくて、、、」
話していたら混乱してきた。リーシャが始終怪訝な表情をするものだから、考えがまとまらず上手く説明できない。
「言霊?何言ってるの?私はユニエが食べられそうになったから、急いで蒼炎を、、、う、くっ、」
そこまで言って、リーシャは頭を抱えてうずくまってしまった。まさか記憶喪失?ショッキングな事だったから、無理やり忘れたとか?
「私は蒼炎をあの化け物に、、、それからユニエが人質、私は操られてるユニエを、、、」
「おい、リーシャ、しっかりしろ!そうだ、お前の言う通り、私が喰われそうになった所を間一髪で助けられただけだったな!その後何てなかったな、うん。私の思い違いだな!!」
地面に降りて、リーシャの前に立つ。頬を両手で挟んで、頭を上向かせながら目を見て、言い聞かせるように語りかける。顔は蒼白で、歯がカチカチとなっていた。
よほど私を攻撃した事がトラウマになったのか、強引に忘れようとしているのかもしれん。そこまで想われるのは嬉しく無くも無いが、あまり重く受け止められても困る。
「そうだよね、うん、何もなかったなよね。大丈夫、ユニエは無事で、、、」
そして抱きすくめられた。こうして肩に手を回されるのも、久しぶりだな。いや、そもそも頻繁にやる事でも無いのだから、当然か。
暫くそうしていると、肩が小刻みに震え出した。思い出したのか、それとも悪夢のようにぼんやりと脳裏に浮かんでいるだけなのか。
震えを止めあげたくて、その私よりも少しだけ大きな体を掻き抱く。赤子をあやすように、ポンポンと背中を叩いて語りかける。
「私はここにいる。お前と一緒にな。」
「うん。うん、そうだね、だから、もう少しだけ、このままで居させて、、、」
こうしていると、やはり、リーシャはまだ子供なのだと実感するな。私が、姉としてしっかり導いてやらねば。
どれくらい経ったか、リーシャが顔を上げた。目がいつもより少し光って見えたが、それを確認する暇もなく私から離れていった。
「ユニエ、私頑張るから、頑張るから、私から離れないでね。」
「ふっ、当然だ。なんたって私は、お姉さんなんだからな!」
せめてこの子が大人になるまでは、面倒を見てやろう。導いてやろう。
胸を張りながら、決意した。
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何故リーシャの炎が私を燃やさなかったのか、わかっていない。リーシャは忘れているのかどうか判断つかないが、何となく私たちの間では怪物の事は触れないかとが、暗黙の了解になっている。
いずれ理由が判明するだろう。今はとにかく、そっとしておこう。
シリアス書くのムズイ




