炎獄
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やろうとは言ったものの
「どうやって動きを止めるんだ。火も水も効かないんだぞ?」
「魔法が効かないんなら、物理だよ。弓矢が大活躍だね。」
自信満々に矢をつがえているが、弓矢程度で動きが鈍るのか?
「象にとってはチクリと刺されような物だと思うが。」
「古今東西、膝に矢を受けて無事だった者はいないの。きっと大丈夫!」
その自信はどこからきたんだ。
不安だ。非常に不安だ。何が不安って、山火事になった時の想定がまったくされていない。
「火事になったらどうするんだ。」
「、、、その時はお願いします。」
「おい!」
森林火災はまずい。
「ほら、それよりも象が起き上がったよ。さ、始めよ。」
「おいったら!!」
「火よ!」
まったく、人の話も聞かないで始めるとは。
本当に火事になったらどうするんだ?5000Lも無いのに、それだけで消しきれるかわからないし、そもそも全部再吸収できる訳では無いのだから、水をだいぶ消費してしまう。
作戦が無謀というか雑と言うか、油断しているんじゃないか?
しかしもう始まってしまった以上止める事は出来ない。
「はあ、不安だ。」
本当に大丈夫か?
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「ダメじゃん!!ちょ、リーシャー!?」
威厳を取り繕う余裕なんかない。象が動いた所為であちこちに火の手が回り、エライ事になってしまった。
「失敗失敗、ごめんね♪」
ごめんね♪じゃねー!!何その「てへ」って感じの言い方!?
「あー、もう!どうするんだ、この惨状!!」
既に5本の木が焼け落ち、ボヤでは済まされないぞ。さっきから水をかけて鎮火しようしたが、その度にリーシャに「ちょっとだけ、ちょっとだけだから!」と、止められた。そのせいで、水を全部使っても消せるか怪しい。初期消火ができていればもっと軽くて済んだだろうに。
怪我の功名と言うか、怪我が致命傷レベルの気もするが、象は無事焼け焦げた。背中の火を消す為に暴れ、その拍子に燃えて脆くなった大木に衝突、倒れてきた木の下敷きになった。
ときせつ聞こえる「パオーン、、、」と言う弱々しい鳴き声は、憐れみさえ感じる切ないものだった。まさにこれは
「かわいそうな象だったな、、、」
しみじみと呟く。状況こそ違うが、あの悲哀に満ちた鳴き声は、前世で読んだ絵本を思い出させるな。
なんとも言えない気持ちに浸っていると
「急にどうしたの?」
リーシャが訝しげに聞いてきた。
「何、象が悲惨で少し悲しくなってな。」
「それより、火をどうにかするんじゃなかったの?」
やれやれ、という表情で呆れられた。
「お前のせいだろうが!!」
せっかく忘れかけてたのに!
「もうどうにもならん。逃げるしか無いんじゃないか。そのうち雨が降るだろ。」
どうにもならん。流石に水が使えなくなるのは看過出来ないしな。
「うん。じゃあそうしよう。」
やけにあっさりしてるな。
「まさか、最初からこのつもりだったのか?」
「言ったでしょ、ダメだったら逃げればいいかなって。この森にはたくさんの川があるし、森が全焼する事はないと思うよ。」
「はあぁ、ほら、走れ走れ。火の粉は払ってやるが、木が倒れてきたらどうしようもないぞ。」
まったく。逃げる方角をちゃんと考えないと、燃やされてしまうぞ。
ん?風?
「リーシャ、風が強くないか?」
「うん、、、なんだろう。」
森の中ではありえない、突風と思うかのような。何なんだ?
突如とりわけ強い一陣の風が吹いた。風は燃え盛る炎を全て吹き飛ばし、大量の黒と白の塵が舞い上げられている。なのに火の粉は1つも吹かなかった。強まる違和感。
風が止み舞い散るモヤが晴れた時、目の前に
「ギギぎ、ゴチそう、こちそウ。」
あの怪物がいた。




