苔むして
熊との戦いから3日経ったが、最近は魔獣にも遭遇せず、順調な行程だ。川も度々発見し、今では北東と川の向きが一致しているので、とても快適。
それにしても相変わらず森は終わりが見えないな。リーシャもどこまで森が深いのかは知らないらしい。 まあ、そのうち出れるだろう。
今日も朝からだいぶ歩いた。日が高く登っていた。
「そろそろ昼飯にするか?」
「うん、そうだね。私は山菜を採りに行くよ。」
リーシャが山菜採り、私が水分補給兼漁をすると言うのが、最近の日常だ。
川に行こうとすると、霧が何かを捉えた。岩?かなり大きいな。
そして川に着くと、見覚えのあるものが。蔦と苔に覆われた巨岩ーーー
「パオオォォーン!!」
岩が動き出した。
「ズズゥゥ」
落ち着け。これは岩だ。
「バオオォォォーン!!」
ドッカーン!!
「ぎゃー!!」
岩がこちらに撃たれた。象だ!しかもこないだと同じ奴!?
「リーシャー!!逃げろー!!象だー!!」
「えっ?何にがーーーきゃあー!!」
嘘ーん!?木が薙ぎ倒されていく!?
「くそっ!喰らえ!!」
その巨体が走るだけでもかなりの威力。水を目隠しに飛ばすが、鼻で払われて終わる。喉潰しも試そうとしたが、鼻のガードが固すぎて為すすべがない。
「ユニエ!霧を使って!!私が側面に出て魔法を使うから、時間を稼いで!!」
「わかった!」
霧を噴射して辺りを白く染める。リーシャは右手に回り込むが、象はそれに気付かない。真正面にいる私に釘付けのままだ。取り敢えず足止めをしないと。水を纏わりつかせる。
しかし一向に勢いが止まる気配がない。その時
「バオオ、、、」
一際太い木に激突してやっと止まった。目を回してフラフラしている。前が見えないのに走るからだ。
「炎よ!」
リーシャが魔法を使ったようだ。象の右半身が火に包まれる。しかし火がいきなり弱まった。何故だ?
すると、リーシャが近寄ってきた。
「ユニエ、象の苔が水魔法を使ってる。火は効きそうにないよ。」
「苔が魔法を使うとはな、、、熊の木も勝手に動いていたし、魔獣の植物は意志を持っているのか?」
「わからないけど、おそらく。」
「逃げるか?」
まだ象は目を回している。今なら逃げられる。
「うん、そうだね。ちゃんと準備してからじゃないと。」
こっそりと歩き始める。川まで遠回りで戻り、それに沿って歩いて行った。
夜になったので、夜営の準備をしようとした時、それはきた。
「リーシャ、やばいぞ、象だ。象がきた。」
走っては無いが、後ろから歩いてくる。
「ほ、本当?どうしよう、追いかけてきたのかな。」
「隠れるか逃げるか、、、」
「迎撃すべきだよ。もし追いかけてきたのなら、これからもまたあるかもしれないし。」
「しかし、どうするのだ?火も水も効かないなら打つ手なしだぞ。」
有効な攻撃手段が無い。水は攻撃力が弱く、今回は火も効かない。
「これの出番だね。」
そう言ってリーシャが取り出したのは
「弓矢か。」
物理攻撃なら効くだろうが、
「矢が刺さった程度で殺せるのか?」
人や普通の動物ならまだしも、象に効果があるのか疑問だ。
「これだけじゃ無理だけど、矢を足がかりにするの。」
リーシャの作戦は、無帽に思えるものだった。水で上に登り、背中に矢を放つ。背中は象の上で夜営しようとした時に蔦と苔を払ったから、他の部分よりは植物が薄いはず。刺さった矢を手すりに背中の上に飛び乗り、残っている苔と蔦を払いそこに火をぶち込む。
いくつも問題がありそうだが。
「魔法は集中しないと出来ないのだろう?」
荒れ狂う象の上で大丈夫なのだろうか。
「出来る出来ないじゃない、やるかやられるか、でしょ。何とかやってみるよ。」
その場の勢いで言った言葉を引用されるとむず痒いな。だが、この調子ならいけそうだな。
「良し、ならば私はまた敵の注意を引くことに専念しよう。だがリーシャ、気をつけろよ。あの象は遠距離攻撃が出来るし、それが無くても鼻が直接届くかも知れん。私もいざという時はフォローするが、いつでも可能かはわからん。くどいようだが、くれぐれも気をつけろ。」
「うん、油断はしないよ。さあ、勝とう。」
作戦開始。




