閑話 共同作業
今後の熊の鳴き声は「ベアァァァ~」になりそうです。使う機会があれば、いずれ
「ユニエ、私は戦いたい。こんなのから逃げてるようじゃ、いつまで経っても森から出るなんて出来ないもの。」
私だって戦えるんだ。ユニエの陰に隠れてばかりじゃないだ。
「それでこそ、私のリーシャだ。さて、どうやって狩る?」
「わ、私のリーシャ///。」
本当にユニエが私の旦那さんになったかのようなセリフ///
「何て言ったんだ?」
「ごほん、なんでも無いよ。あれほどの再生能力をそう何度も使えるとは思えないし、あと何回か倒せば殺しきれると思うの。」
「ふむ、ならばまずは目を覆うか潰すか。」
攻撃を避けて、木の陰に隠れ色々と相談する。
時間が欲しいと言ったら、
「私が注意を引きつける。今朝話した空を飛んで避難するやつを覚えているな。。あれをやる。お前は上で魔法の準備をしてろ。」
えっ!
「ま、待ってよ!私泳げないよ!」
溺れかけたことは記憶に新しく、水に全身を委ねる事に抵抗を感じるのに。
「ユニエが支えてくれならできるかもってだけで、そうじゃなかったら私。それに魔法の準備だって集中出来ないと無理だし。それにーーー」
それに、水が恐いし。しかしその言葉は遮られた。
「それに それに言うな!お前は泳げないんじゃない!泳いだことがないだけだ!魔法の準備も同じだ!出来る出来ないじゃ無い、やるかやられるかだ!私はこんな所で死ぬつもりはないぞ!」
険しい顔つきのユニエに叱責される。目が覚めるような気持ちになった。
そうだ、私は戦える。出来ない理由を探しても意味がないんだ。何を泣き言を言ってたんだろう。やらなきゃ、やられる。なら、やるしかないんだね。
「リーシャ、逃げるという手も「私は戦う!!」う、うむ。」
一転して再びユニエは、逃げるか?と聞いてきた。ついさっき、「ユニエの陰に隠れてばかりじゃない。」と考えていたのに、もう怖気付いていた。それが恥ずかしい。逃げる?とんでもない。ユニエの隣に 並ぶんだ。それが私の当面の目標。
もし達成できたら、ユニエと一緒に夢を探しに行こう。手伝ってもらおう。
「では魔法の準備が出来たら、先程と同じように合図しろ。」
「分かったよ。私は頭を狙うから、それで殺しきれなかったらユニエがあれの喉を潰して。さすがに頭の覆いは焼き尽くせると思うから。」
上級魔法は、1日に2度しか使えない。既に何発か魔法を撃っているから、少し足りないぐらいかもしれない。まだまだユニエに頼りっぱなしだけど、いつか、きっと。
「そうか、了解した。先ずは上に送ろう。」
よし、覚悟完了。私は、戦える!
「リーシャ、服を着たままだと動きにくいぞ。頭に狙いをつけて魔法を撃たなければならないのだから、脱いだらどうだ?」
「えっ、、、そう、、だね。うん。そうするよ。」
出鼻を挫かれた気分。でも確かにその通りだし、脱いだ方がいいな。まさか戦闘中に裸になる事になるとは、、、
「下着まで脱ぐ意味はあるのか?」
「へ?あっ、あうぅ///」
動き易くするだけなら、下着は脱ぐ必要がない。
それでも脱いだ私は、まるで全裸になりたかったみたいじゃない///
やだ、もしかしてユニエにそう思われてる?
「い、いいから早くして///」
は、恥ずかしい〜。
恥ずかしさを押し流して、再び覚悟を決める。水の中に入って脱力しようとするけど、それでもやっぱり 緊張するからうまく力を抜けない。その様子を見かねたのか、ユニエが話しかけてきた。
「リーシャ、私を誰だと思っている。水の精霊だぞ。」
「でも危うく溺れかけたんだけど。」
少し恨めしそうにジト目をする。水が恐いそもそもの原因はユニエだ。
「だからこそだ。同じ過ちを二度は繰り返さん。」
失敗は無いと断言するユニエ。ここまで自信満々に断言されるといっそ清々しいぐらい。
「クスッ、はいはい。信用するね。」
不安に思ってたのがアホらしくなるな。もしかして狙ってやった?まさかね。
水に身を任せる。ユニエは枝と枝の間に私を置いて、熊と戦いに行った。私は私がやるべき事をやろう。
自分の中に意識を集中する。下腹部にあるユニエの魔力。この感覚が私に勇気を与えてくれる。一人じゃ無いと実感させてくれる。ふふ、これで集中出来るかな。
さてと。今度は体中を廻る火の魔力を意識する。魔力の動きを認識し、練り始める。
実は私は上級魔法を知らない。エルフは火属性を嫌うため、実家の図書館には風や水、土に関しては詳しく記述された本があったけど、火に関しては魔法の初歩についての本に、少し申し訳程度に書かれた物しか無かった。だから私は、初級と中級しか知らない。だけど、ずっと磨いてきたある技術を使えば、上級にも勝るとも劣らない火力を出せる。
それは火の温度を上げる事。だだ単に大量の魔力を使っても炎の量が増えるだけで、熱くなるわけじゃ無い。より高温にするには、魔力を収斂して密度を高めないといけない。魔力を収束させる技術は、魔法よりも魔術の部類になる。魔法使いなら誰でも出来る事だからこそ、力量を図る指針にもなる。
牢屋の中でまさか魔法をバンバン使うわけにもいかなかったから、魔法の練習は指先に限界まで高温の炎を灯す事に終始していた。それが功を奏して、私は使える魔法こそ数少ないけど、魔力の制御や感知にはだいぶ自信を持出るようになれた。奴にも挑もうと思える程に。
良し、魔力が掴めた。考えごとをしながらでもここまでは出来る。だけどこれからやる作業には、めいいっぱい集中しないと。仰向けに浮かびながら、両手を天に突き出す。そして両手の間に魔力を集中させる。蝋燭ぐらいの小さい火が灯る。それに魔力を注入して、拳大のサイズに成長させる。これからが肝心。魔力をだだ注ぎ込むのではなく、圧縮して密度を高める。目を瞑り雑音を消す。ユニエの戦闘音、水の動く音、木のざわめき、自分の心音。心の中で思い浮かべるのは青き炎。静かな、けれども全てを屠る激情を秘めた、蒼い煌めき。
ひたすらに極める。自分の魔力で作られた魔法は、自分に影響しない。だから熱を感じる事は出来ない。でも、それは好都合。冷たさを連想させる青い炎には、ぴったりなイメージ。
やがて、今の自分にはこれ以上は無理だと思える地点まで来た。目を開ける。両手の間には青く煌々と輝く球体状の炎があった。
【蒼炎】これがこの技に私がつけた名前。
ユニエと奴は私のすぐ下で戦っていた。これなら当てられる。両手を離せないので、脚を使って合図の為の水球を蹴り上げる。ユニエが水を回収する。動きが止まった熊目掛けて、蒼炎を放つ。
音はしなかった。だだ奴の叫び声だけが響く。そして倒れ込んだ。
様子を見守っていると、再生を始めた。ユニエが水を放つ。ギリギリ間に合った?再生が終わり立ち上がる姿からは、窒息しているようには見えない。少し息苦しいのか動作が緩慢そうだけど、それだけ。ユニエが霧を放ってからこちらに来る。
「リーシャ、熊に喉潰しをしても窒息しない。おそらく植物が代わりに呼吸していると思うぞ。」
植物の呼吸だけであの運動量を賄えるのか不思議だけど、今は関係無い。
「だったら、あいつごと水で覆うのは?」
「木に触れたら直ぐにただの水に戻るんだぞ。いくらあっても足りない。」
「そうね、、、だったら、私がもう一度上級魔法を使うよ。頭とかじゃなくて、なるべくたくさん燃えるように当てる。それでも無理だったら、逃げればいいよね。」
どうしても勝てない時は逃げるしか無い。ユニエは怒るかな。
「そうだな、それで行こう。だいぶ喉が渇いてきたから、早めに頼むぞ。」
違った。渇いてきたから、あいつの血でも他でもなんでも良いからのみたいのかな?ご要望にお応えする為にも、早く準備しないと。
さっきは拳ぐらいのサイズだったけど、今度はもっと大きくしないと。その分魔力も消費するけど、なんとかするしか無い。もう一度、集中を始める。




