空爆
復活というか、パワーアップしてないか?最初よりも木がもっさりしてる。焦げた毛皮の代わりに木の表皮に似た物体が体表を覆っている。リーシャは魔法を止めていた。ダメージが入るより再生速度の方が早いからだ。
熊はギラついた眼光を持って睨みつけてくる。何がなんでも喰らってやろうという強い意志が宿っている。ちょうど私も喉が渇いてきた所だ。食うか食われるかだ。
「逃げるか?」
こいつの血を吸収してやる。そう強く思う一方、リーシャの意志も尊重したい。リーシャが死んでは元も子もないない。やる気が無いのに戦っても仕方がない。水で目隠しをして霧をばら撒けば視界も嗅覚も誤魔化せそうだしな。
「ユニエ、私は戦いたい。こんなのから逃げてるようじゃ、いつまで経っても森から出るなんて出来ないもの。」
期待していた答えが返ってきて嬉しいな。さすがは私の妹分だ。
「それでこそ、私のリーシャだ。さて、どうやって狩る?」
「わ、私のリーシャ///。」
うん?
「何て言ったんだ?」
「ごほん、なんでも無いよ。あれほどの再生能力をそう何度も使えるとは思えないし、あと何回か倒せば殺しきれると思うの。」
「ふむ、ならばまずは目を覆うか潰すか。」
熊が突進してきたので、その動きに合わせて水を目隠しに纏わりつかせる。私は上に、リーシャは横に避け、そのまま木の裏に隠れた。合流して相談する。
「あれはどこに魔力をまとっている?」
「たぶん、、、体の表面全てにかな。木の部分は特に強いよ。」
「今までのように窒息させるのも無理か。」
木の陰から覗き込む。口の周りは特に葉が生い茂り、マズルガードのようになっている。魔力で相殺されてただの水にしてしまうので、到底口に水を入れられそうに無い。
すでに目隠しの水は拭い取られてしまい、鼻息を荒くして周囲を探っている。もう一度作っておくか。
「私の魔法もある程度相殺されちゃうし、大火力で一気に決めないと。持久戦になると、他の魔獣が騒ぎを聞きつけてやって来るかもしれないし。」
リーシャの話に耳を傾けながら水を操る。木や草で隠しながら移動させ、後ろから目隠しをする。熊の動きに合わせながら目隠しも動かす。
「火属性魔法は後どれくらい使える?」
「下級魔法は10回、中級魔法、さっき顔に向けて撃ったのだと5回。上級魔法は2回ぐらいかな。上級魔法じゃ無いと、あの木の鎧を壊して本体にダメージを与えるのは難しいね。」
「じゃあ、上級魔法を使えばいいんじゃ無いか?」
あ、手で擦り取られた。鼻を動かして辺りを探っている。
「そうだけど、あれは準備に時間がかかるーーー」
「リーシャ!」
「ゴオァァァー!」
熊に勘付かれた!木を右から避けて来る。
「左に飛べ!」
リーシャは紙一重で躱す。
「怪我は!」
「いてて、大丈夫だよ。ちょっと着地に失敗しただけだから。」
そうだ、左目が無いんだった。
「すまん、もう少し早く気付けていれば。」
「大丈夫だって。それよりも今は、こいつをなんとかしないと。」
こちらを向いて今にも飛びかからんとしている熊に、霧を噴射する。
「ガウアァ!」
突然のことに驚いているうちに移動した。手早く段取りを決めよう。
「リーシャ、上級魔法にはどれくらいかかる。」
「、、、30分は欲しいかな。」
「私が注意を引きつける。今朝話した空を飛んで避難するやつを覚えているな。。あれをやる。お前は上で魔法の準備をしてろ。」
「ま、待ってよ!私泳げないよ!ユニエが支えてくれならできるかもってだけで、そうじゃなかったら私。それに魔法の準備だって集中出来ないと無理だし。それにーーー」
何を今更怖気付いている、まったく。
「それに それに言うな!お前は泳げないんじゃない!泳いだことがないだけだ!魔法の準備も同じだ!出来る出来ないじゃ無い、やるかやられるかだ!私はこんな所で死ぬつもりはないぞ!」
あれ?別に、いざとなったら逃げればいいだけじゃないか?渇いているからちょっと頭に血(水?)が上っていたが、冷静になったら自分の言ってる事のおかしさに気がついた。どうしよう、馬鹿だと思われた?
「リーシャ、逃げるという手も「私は戦う!!」う、うむ。」
気がつかれなかったようだ。
「では魔法の準備が出来たら、先程と同じように合図しろ。」
「分かったよ。私は頭を狙うから、それで殺しきれなかったらユニエがあれの喉を潰して。さすがに頭の覆いは焼き尽くせると思うから。」
「そうか、了解した。先ずは上に送ろう。」
水を長方形にする。3000L以上の水を使う。いざリーシャを入れようとした時、思いついた。
「リーシャ、服を着たままだと動きにくいぞ。頭に狙いをつけて魔法を撃たなければならないのだから、脱いだらどうだ?」
「えっ、、、そう、、だね。うん。そうするよ。」
厳かさを感じさせる、とても真面目な顔で全裸になるリーシャ。下着まで脱ぐ意味はあるのか?
「下着まで脱ぐ意味はあるのか?」
心の声がつい口に出ていた。いや、だって着てても下着なら大丈夫だろ。
「へ?あっ、あうぅ///」
何度か裸を見られたことがあるのに、なぜ照れる。
「い、いいから早くして///」
わからないやつだ。
用意してあった水の中に入るリーシャ。谷を渡る時に窒息した事を思い出してか、少し緊張している。
「リーシャ、私を誰だと思っている。水の精霊だぞ。」
「でも危うく溺れかけたんだけど。」
「だからこそだ。同じ過ちを二度は繰り返さん。」
緊張している人を安心させるには、とにかく自信を持った態度で接しなければな。私が不安がっていたら、リーシャは余計不安になる。
「クスッ、はいはい。信用するね。」
笑えるなら平気だろう。水をゆっくり持ち上げる。しかし、いつもより重いな。橋を架けた時はリーシャに丸太まで支えても、それほど感じなかったが。不純物を多く含ませてしまうと動かせなくなるが、それに似ている?その内確かめるか。
木の枝が生い茂るギリギリ下の、枝と枝の隙間にリーシャを設置する。だいたい4m。熊は届きそうに無い。あれなら木の枝が射線を妨害する事も少ないはずだ。
「さあ、始めよう。名もなき熊よ!」
「グガアアァァー!」
言葉が通じたとは思えないが、返事をするように雄叫びをあげた。




