焼畑
「もう、、だ、め、、、ユニエ、周囲に何か、いる?」
寝ようとしたところで鬼ごっこをする羽目になったリーシャは、息も絶え絶えだ。
「敵影なし。今のところは安全だな。」
なんとか振り切ったようだ。それにしても水が効かないとは、由々しき事態だな。
「今度からは索敵をより慎重にしよう。水が効きそうになかったら、弓か火魔法を頼むぞ。」
「ごめん、もう寝かして。明日話そうよ。おやすみ。」
よっぽど疲れたのか、地面にある石を適当に退けて、矢筒を枕にして予備のもう一枚の服を毛布がわりに、すぐに横になって寝息を立てている。
いざという時はどうするか。寝ないで済むこの体を使って、色々考えておこう。
まず一つ目の案は、水柱を作り、リーシャを中に入れて上まで泳がせ、宙に浮かべる事だ。橋を作った時の物を横ではなく縦にやる。泳げないと言っていたから不可能だと思っていたが、そこは私がなんとかしよう。顔の周りだけ空洞にしたりして。
そこで疑問が生まれた。今までは水平方向にしか水を操ってこなかったが、上空まで行けるのか?この方法だと、理論上空も飛べる。試しに水柱を作る。木が邪魔だが、細くして上まで登らせる。25mまでは行けた。もしかして、これで空を飛べるんじゃないか!?依り代であるリーシャが共に上がれば、限界はないはず!
うん、このアイディアはいけてるぞ。
第二案は、水糸電話である。水を媒体に声を届ける事で、2方向からの同時奇襲が可能となる。水は透明だから、よほど太くしなければバレない。問題は森の中は障害物が多すぎて、動きながらだと使いにくい事、そもそも声が聞こえるかという事だ。
これらは朝になったら相談しよう。今は何か狩っておくか。ああ、狼しかいないのか。狼なら私一人でも大丈夫だと思うが、もしも襲ってきたら念のためにリーシャを起こさないと行けないな。それにあまり側を離れるわけにもいかないし、朝になってからだな。少し渇いているが、仕方ない。我慢しよう。
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「んー。よく寝たー。ユニエ、おはよう。」
水
「ユニエ?」
水を
「どうしたのユニエ?」
「水をくれ、、、」
血でも良い。
「水?あっ!」
もう良いだろう。あそこに狼がいる。やろう。
「血、、、」
殺し、吸収する。
「はああぁぁ、、、生き返る〜。」
いつの間にか三匹の狼を殺していた。もうすぐで衝動がくるところだった。ギリギリセーフ。リーシャを起こすことも考えたが、まだ耐えられると思っている内に水のことしか考えられなくなってしまった。霧を使って動物を探しまくっていたが、僅かに残った理性がリーシャから離れることを拒み、にっちもさっちも行かなかった。普段は不味く感じる血も、今では渇きを充たす清涼剤だ。
さて、残った1匹はリーシャにやるか。
「リーシャ、今日の朝飯が取れたぞ。」
持って行けないので報告する。しかし
「ユニエ、なんであんなになるまで我慢したの!」
「いや、お前の側を離れるわけには「起こしてくれれば良いじゃない!そんなことを遠慮する仲じゃないでしょ!!」あ、ああ。」
説教されてしまった。ただ忘れてたと言ったら格好悪いな。よし、こういう時は
「寝顔が可愛くてな。ついつい眺めてたら、いつの間にかにな。」
褒めて誤魔化す。
「え!///」
なんか照れてるな。
「愛い奴め。」
「もっ、もう///。私は朝ごはん食べるから!」
うまく誤魔化せたか。
そしてリーシャが食事を終えて
「こんなのを考えたんだがどうだ?」
例の構想を伝える。
「水柱の方は、無理かな。確か、水魔法は30m以上の高さだと使えなくなるから。でも空を飛ぶのは出来なくても、避難するには良いかもね。まあ、魔法を受けたら水が使え無くなって落下するから、敵が遠距離攻撃をしてこない事が前提だけど。」
「高度制限があるのか?」
「うん。大体土魔法は10m、水魔法は30m、風と火は制限なしだよ。山とか建物や木の上とかにいるなら、その分使える高さが増えるけど。なんでも大地の魔力から離れすぎると、土と水は使えないらしいよ。」
「うーむ。やはり早く魔法を体系的に学びたいな。街で判れば良いが。」
「その前に森を抜けないとね。糸電話の方は、その形にこだわる必要はあるの?普通に幾つか合図を決めけばいいんじゃないかな?待機は✖︎、攻撃は○とか、水を私の周りに置いておいて、それを動かして合図するとかはどう?」
確かに。糸電話の問題点が全て解決する。欠点があるとすれば
「簡単な指示ならそれでもいいが、細かな事はどうする?私はたぶん文字の読み書きが出来ん。だから水で字を書くことも難しいぞ。後は、連絡が一方通行になってしまう。」
「文字の事はおいおい考えよ?連絡の双方向性に関しては、私がユニエの水に触れるとかはどう?例えば判断に困る事があったら、ユニエが選択肢を提示して私が良いと思った方を触るの。」
試してみるか。水を○✖︎の形状に形成して目を閉じる。
「リーシャ、選んでくれ。」
「うん。えーと、こっち。」
わからん。
「もっとがっつり触ってくれ。」
今度は分かった。水が変形した。
「○だな。」
「正解!これで大丈夫そうだね。」
「うむ、次に何かあったらやってみるか。」
話も纏まったところで、今日もまた歩き始める。昨日はめちゃくちゃに走りまわったが、大丈夫か?まあ何にせよ、歩くしかないか。そして
「3時の方向に熊がいるぞ。結構大きい。」
「了解。あれは、、、魔獣だね。体に色々木が生えてるし。」
体のあちこちから小さな木が生えていた。
「木が生えてると魔獣なのか?」
確かあの象も苔が生えていた。
「魔獣の外見は普通の動物とは明らかに違うからね。一目でわかるの。」
「なるほど。あれには火が効きそうだな。リーシャ、頼んだぞ。私は熊の注意を引こう。水球を置いておくから、魔法を使うときは合図をしてくれ。」
「うん。任せて。」
そう言ってリーシャは魔力を練り始めた。
私はリーシャから離れ、円を描くようにして移動し、熊を挟んでリーシャと対面する位置に移動する。そして水を熊の周りに動かしたりして、こちらに注意を向けさせる。水球が潰れた。周りの水を引き上げる。直後、炎の塊が熊にぶつかる。
「グオオオーン!」
背中に火が直撃して苦しんでいる。後ろを向こうとするので、目を覆うように水を纏わりつかせる。顔を拭おうとする間に、今度は腹に命中した。纏わりつかせていた水で目を狙う。視界が潰れて混乱している所に特大の炎で顔を焼く。全身が火の玉と化し、暴れ狂っている。
とりあえずリーシャの元に戻る。
「うまくいったな。」
「そうだね。普通は森の中で火魔法は使わないんだけど。もしも火事になりそうだったら、お願いね。」
「うむ。」
火の粉が舞い散り危ないので、水で壁を作っておく。完全に密閉すると火が消えてしまうから、上は塞がない。
「だいぶ動きが鈍くなってきたな。」
「そうだね。もう直ぐかな?」
その後しばらくして完全に停止した。ところどころ火が燻っているがだいぶ火勢が弱まってきた。壁を取り払う。木の部分はほとんど炭化し、毛皮も肉も焼け焦げて判がつかない。熊は黒い塊に成り果てた。
「やったの?」
フラグだ。嫌な予感がする。
「気を緩めるな。」
「うん。魔獣だもんね。こんなにあっさり倒せるわけないよ。」
その直後、黒焦げた下から木の枝が突き出した。続いて葉が全身から生え出し緑に包まれた。な、何だ?
はっ!呆気に取られている場合じゃない!
「リーシャ!早く魔法を!」
「分かってるよ!」
火の玉が炸裂する。しかし燃えるよりも再生速度の方が早い!
リーシャがさらに炎を放つが、再生が遅くなるだけで時間稼ぎにしかならない。
そして
「ゴオァァァー!」
完全に復活されてしまった。




