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神に選ばれた娘  作者: 雲乃琳雨


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3/12

3、夜の訪問

 夜になり、小蓮は白い寝巻に着替えて、寝台に座っていた。鏡で見た自分は、どこからどう見てもきれいに手入れされた娘だ。香油を付けた髪は美しく梳かれ、肌も高級な保湿液でツヤツヤだ。今までで見たことがない、一番きれいな自分だった。


 今日の朝まで、固い布団に寝て粗末な食事をしていたのに、今は侍女に風呂と着替えの世話をされて、おいしいご飯を食べて、ふかふかの布団の上にいる。藍英は、きれいにした小蓮に始めは気が付かなかった。侍女の咳払いで気が付いた。侍女の一人だと思ったらしい。

 夜のご飯はとても豪華で、藍英と一緒に食べて、誕生日も祝ってくれた。実家を出てから、ちゃんと祝ってもらったのは久しぶりで、夢のようだった。


(いや、上手い話はそんなには続かない!! 手厚いもてなしは、私が伝承の娘だからだ)


 トントンと小さく戸を叩く音がする。


「入るぞ」


 扉が開いて、寝巻姿の藍英が入ってきた。小蓮は焦る。


(やっぱり! いきなり夜を共にする気なの⁉)


「待ってください!! 私が()()()()()()()ダメなんですよ!」


 目をつむって顔を背け、両手を突き出して止めの姿勢をとる。テンぱりながらも、言いたいことは言った。


「はぁ」


 藍英はため息をついて、小蓮の横にどさっと座って下を向いて頭をかく。


「お前に選ばれるには、どうすればいい? 俺はこういったことに慣れていない」


(え? 私より年上なのに。……なんだかかわいいと思ってしまった)


「とりあえず、話でもしましょう。将軍は何歳ですか?」

「25だ」


(8歳も年上か。将軍からしたら、私はただの小娘だな。そういえば先生は年齢を教えてくれなかった。わざとだと思う。おそらく70代後半ぐらいか)


「将軍が伝説を知っていたきっかけはなんですか? 私は今日、先生から聞くまで知りませんでした」


 藍英は、ぽつりと静かに話し始めた。


「幼い頃に、父から聞いたのだ。

 父は視察中に、大荷物を持って運ぶのに難儀していた老人に出会った。老人と荷物を運ぶのを手伝うと、老人は父の耳元で伝承の話を囁いた。


『今年、その娘が生まれているはずです』


 父は王宮の記録保管庫で、神殿に関する文献を探して、その伝承を見つけた。その話が本当だと思った父は、家に帰ると俺にその話をした。


『お前の時代に、太平の世が来る』


 小さな俺の頭に手を置いて父はそう言った。父は戦死したから、それを見ることは叶わなかったが。

 俺にはもう、時間がない。(いくさ)には疲れた。争いのない世の中にしたい」


(? 診療所に行っていたから、何か病気なのかな? 目にクマがあるから睡眠不足のようだけど)


「それが、伝承の娘を探していた理由なんですね」


 将軍の話は、至極全うだったので、小蓮は一まず安心した。そのお父さんの息子だから、光の玉も推したのかな?

 将軍のお父さんは、自分の息子に託した。片や先生は、自分が対象者だと考えて、それで結婚しなったと思う。先生は将軍のお父さんの親世代なのに、自分のことしか考えていない! えらい違いだ。

 小蓮は、苦虫を噛みつぶしたような顔をする。


「その老人は、『不吉とされているので、今は誰も知りません』と言っていたそうだ」

(不吉? それは先生の話にはなかった)


「くっ」


 藍英は急に、小さく呻いた。左肩を押さえて顔をしかめる。


「今日はいろいろあっただろうから、ゆっくり休め」


 そう言うと、少しよろけながら背中を丸めて出ていった。


(調子悪そうだな……。明日にでも聞いてみるか。今日はとにかく疲れた!)


 布団がふかふかすぎて、小蓮は秒で寝ることができた。


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