11、犯人の最後
皇宮の奥にある小さい部屋に、皇帝と宰相、張将軍がいた。皇帝は黒髪がつややかで、いつもけだるそうな顔をしている。宰相は60代半ばぐらいで、いかめしい顔つきをしている。皇帝と宰相は背が高くなく、いかにも文人といった感じで、物静かだ。
ここは少人数が内密で話をするときに使う部屋だ。張将軍は何も聞かされていないので、落ち着かなかった。戴将軍が亡くなったばかりだ。そのことと関係があるのだろうか……。
「他の将軍も来ますから、お待ちください」
張将軍の様子を見て宰相が言った。
扉が開き、藍英が顔を布で隠したまま入ってくる。張将軍は、藍英だと気が付いた。
「まさか、戴将軍か!」
「そうです」
「ど、どういうことですか⁉」
張将軍は、宰相や皇帝の方を向く。死んだ人間がいるのだから、驚くのも無理はない。そこへ、皇宮の兵に連れられて姜将軍が現れた。両手には木の手かせがはめられている。呪殺の罪で連行されたのだ。姜将軍は大人しく捕まりたくはなかったが、皇宮の兵が勅命を持ってきたので、黒の部隊がいると思い連行されるしかなかった。逆らえばその場で、消される可能性がある。
姜将軍は藍英の姿を見てギョッとする。
「どうして、死んだのではなかったのか?」
「犯人を捕まえるために、死んだことにしたのだ」
宰相が姜将軍に説明した。
計画前に、小蓮は藍英にこう伝えていた。
『今後のためにも、計画は皇帝陛下や宰相様には言っておいた方がよいです』
と言っていたのでその通りすることにした。
藍英は自分のあざを皇帝と宰相に見せ、二人に協力してもらっていた。
『私が死ねば、次は他の者を狙うでしょう。最終的には、皇帝の座を狙うやもしれません』
皇帝は、張将軍に向けて冷ややかに言う。
「次に死んでいたのは、張将軍かもな」
「! なんてことを姜将軍は、戴将軍に恨みでもあったのか?」
「私ではありません!!」
「証拠がある」
宰相は、名前がしっかりと書いてある、呪いの紙を見せた。
姜将軍は、何とか言い逃れしようとする。
「……誰かが、私を陥れようとしたのです!」
「占い師の女が全て話した。呪い返しでその女はもう死ぬ。嘘をつくことはないと言ったぞ」
花緒の取り調べは、事を内密にするために、宰相が直々に行っていた。花緒は横になりながら、苦しいながらも全てを話した。
姜将軍は膝をついた。
「女が言うには、お前は戴将軍を妬んでいた。自分より先に出世しないようにと依頼したそうだ」
藍英の父は前総大将で、本人も最年少で大将軍まで上り詰め、将来有望だった。
皇帝はあえて褒めた。
「確かに、自分で呪いまで解くとは、見事な手腕だ」
(それについては、ほぼ小蓮のお陰だ)
小蓮がいなければ、呪いは成就していた。藍英が打開策を見つけたことを、皇帝が疑っているのは分かっているが、小蓮のことは秘密にしておかなければならない。
「本当は、呪いの効果を試すためではないか?」
皇帝は椅子のひじ掛けを叩く。
「邪魔なものを消して、この座に就こうとしたのだろう? こ奴の処分は戴将軍に任せよう」
「私が受けた痛みを返すために、苦刑にするつもりでしたが、慈悲を与え斬首刑にします」
藍英は、姜将軍を見おろしていたが、片膝をつき姜将軍を見据えて言う。
「良いな」
姜将軍は苦刑に震えたが、藍英の言葉に、全てを受け入れてうなずいた。
皇帝は、藍英の真意に不満を見せた。
「ふむ、お前は、父親と似て優しすぎるな」
その後すぐに、藍英が生きていると公表され、藍英は職務に復帰した。呪いの件は伏せられて、姜将軍が戴将軍を毒殺しようとした、ということになった。伏せたのは、呪いが再び使われないようにするためだ。犯人の一人が占い師ということも伏せられて、使用人を使ったことになった。
黄の軍は新たな将軍を立てずに、三分の二を赤の軍が管轄、三分の一を青の軍が管轄し、一時解体となった。姜家は取り潰しになる。
取り調べが終了すると、姜将軍は処刑された。花緒は牢屋で死ぬまで放っておかれ、まもなく生贄の鼠のように干からびて死んだ。美紅は、生涯流刑地で強制労働となった。下女を暗殺しようとした男は余罪を含めて、処刑された。玥は、家族共々首都から追放され、10年の間、監視下で暮らすことになった。
藍英の呪いの症状は、占い師の店の前で待機していた時に、左肩の重さが突然消えたので、呪いが解かれたのがすぐ分かった。それを機に突入したのだった。
あざは呪いが解けた後、すぐに赤く血の気を戻し、翌日には跡形もなく消えていた。




