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軟体魔忍マダコ  作者: ペプシンタロウ
第二章~中央事変~
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旅の終わりに報告会

マダコちゃんのイメージ画像はこちら(外部サイト)

https://tw6.jp/gallery/?id=4955

「う、うぅん……」


「あっ! 目が覚めたの、コーちゃん?」


真多子(マダコ)……? ここは……」


 身体中が痛い。

 軋む筋肉を無理やり動かし、なんとか上半身を起こした。


 どうやらソファーの上に寝かされていたらしい。

 体温で暖かく籠っていた背中の空気が霧散し、冷たい夜風が汗を冷やしていく。


「も~、無理しちゃ駄目だよ? 屋根から降りたいなら、そういえば良かったのに~」


「いや、散々叫んでけど……」


 それはもう泣き叫ぶような勢いで喚いていたはずだ。


「そうなの? でも、うちに着いてから様子を見に行ったら、コーちゃん倒れてるんだもん驚いちゃった」


「おかげさまでな……て、もしかして、もう()の国にいるのか!?」


「うん! 帰って来るの大変だったんだから! 警備の人達はしつこいし、門は閉じてるし……」


「なんというか、僕達はよく無事だったな……」


 そして、僕は一晩中死に物狂いで屋根にしがみついていたのか。

 どうりで身体が痛いわけだ。


「兄貴達は?」


「フカ君は運転で疲れて寝ちゃってるよ。 ミーちゃんは夜遅いからおじいちゃんと一緒に寝てもらってるんだ~」


「そうか、なら先々代に挨拶するのは明けてからでいいな」


 留守を預かってもらったのだから、しっかりと礼の言葉と今回の報告だけは忘れないでおこう。

 遅れれば、また長い説教で耳にタコができてしまう。


「それよりコーちゃん、国主(こくしゅ)様の官邸にいたサバサバしてるお姉さんから言伝預かってるよ~」


「サーヴァントの佐場(サバ)さんのことか? なら国主直々の言葉ってことか」


「なんかね、人目の無いうちに来てくれって。 この前は明るい内に行ったけど、今日は駄目なんだね~?」


「それは……たぶん、僕達が中央で散々暴れたのもあると思うぞ……」


 あれだけ国を荒らすように走り回ったのだから、お尋ね者になってない方がおかしいくらいだ。

 ほとぼりが冷めるまで、これ以上は出来るだけ大人しくしてくれという事だろう。


「まぁとりあえず、先にその要件を済ませてしまおう」


「おっけ~!」


 こんな夜更けまで僕の看病をしてくれた真多子を連れ回すのも忍びないが、言伝の内容から察するに彼女も必要だろう。


 おそらくは、ガネー社ビルの最上階で見たことについてのはずだ。

 となれば、あの場にいた僕と真多子の二人揃って出向かなければなるまい。


 まだ多少おぼつかない足元を彼女に支えてもらいながら蒸気屋台の外へ出る。


 あれほどネオンで眩かった中央と違い、ここ大干支(オオエド)は電気など無い。

 暗い夜道を照らしてくれるのは、手に下げた紅い提灯の光だけ。


 夏の潮風で儚い灯火が消えぬよう、和紙の柔らかなドームが包み込んでぼんやりと道を示していた。






 夜中まで起きる酔狂ものなんて、この大干支にはあまりいない。

 沿岸部へ鮮魚の買い付けに出向く問屋くらいのものだろう。


 シンと静まり返った通りを進むと、ぽつと真多子が語り掛けて来た。


「人の気が無いと、なんだかあっという間に着いちゃうね~」


「いつもは大通りも人でごった返してるからな。 お前が寄り道したりもしないし」


「アタシのせいじゃないも~ん! コーちゃんだって可愛い女の子見て立ち止まるじゃん!」


「ご、誤解だって!! 誓ってそんなことしてないぞ!!」


「ふ~ん……うそうそ! あっ、門が開いてるよ! 門番さん今日だけお休みなのかな?」


 わざわざ呼び出したくらいなのだ、これくらい手配済みか。

 僕達は悪びれることなくそっと門の隙間をくぐって向こうに抜ける。


 無駄にだだっ広い御庭も、真っ直ぐに進むだけなので迷うこともない。


 和式の城に似た官邸に入ると、あとは慣れた順路で上へと昇って行った。


 随分と不用心のように思えるが、夜目の効く魔人類(キマイラ)国守(くにもり)として常駐しているはずだから気が付いてはいるだろう。

 戦争の時代は終わったとはいえ、まだまだ不遜な輩が後を絶たないのだ。


 階段を登りきると、そう日は空けていないはずだが、なんだか久方ぶりに見るような気がする扉が目の前に現れた。


 相変わらず飾り気のない普通の扉。

 だがこの中に、この国を統治する国主が待ち構えているはずなのである。


「入りますよ」


 扉をノックして声を掛け、一拍置いてからノブを回す。

 いつも案内の佐場さんがやっていた手順を真似してみたのだ。


「やぁ、思ったよりも遅かったジャないか、タコロウ君」


小太郎(コタロウ)ですってば……」


「こんばんわ~国主様~!」


 部屋の中が見えるようになると、すぐにデジャヴを感じる台詞が迎えてくれる。

 声の主は、奥に鎮座する中性的な顔立ちの国主様だ。


 夜中だというのに、相変わらずこの部屋に引き籠っているらしい。

 ろうそくの橙色した明かりが頬を照らし、昼間よりもむしろ血色が良さそうにさえ見える。


「まぁ名前なんてどうでもいいジャない。 それよりもご苦労だったね。 無事に届けられたそうジャないか」


「耳が早いですね。 こっちは馬も走らない時間を駆けて来たというのに」


「ふふ、それくらいジャないと、国は治められないよ」


「企業秘密ってやつだね、コーちゃん!」


「合ってるのか、それは……?」


 いつもはヘビに睨まれたように緊張する謁見だが、隣に真多子が居るおかげか今日は落ち着けている。

 毎度のように押されている僕だが、今日くらいはもっと前進姿勢で話を持っていきたいところだ。


「あの、一つ聞いていいでしょうか」


「いいんジャないかな、答えられるものなら……だけど」


 あの黄金竜に気圧されながらも引かなかった経験が生きたのか、あっさりと僕の意見は通った。

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