屋上の金閣寺
マダコちゃんのイメージ画像はこちら(外部サイト)
https://tw6.jp/gallery/?id=4955
黄金竜の姿はコチラ(外部サイト)
https://tw6.jp/gallery/?id=123319
もしかして、僕達はまんまとネズミ捕りに迷い込んでしまったのかと覚悟した。
ところが何時まで経っても、何が起きるでもなくただただ煌々と明かりが照っているだけである。
「…………なんだったんだ?」
反射光に怯み瞑っていた目をゆっくり開く。
するとそこには、まるで黄金郷のような悪趣味とすら思える金箔だらけの部屋。
なるほど、これのせいで無駄に乱反射していたのか。
「あぅぅぅ……コーちゃん、眼が痛いよ~!」
「うぅ、僕も眼がチカチカする……ん? あれは……?」
ようやく慣れて来た目を擦ると、部屋の奥に金貨の山がうずたかく盛られているのに気が付いた。
倉庫というより、金庫だったというわけか。
「おぉ~! 見て見てコーちゃん! 見たことないお金が一杯あるよ!」
「ふぅん、確かに知らない硬貨だ。 僕達の通貨は『円』だもんな。 伊華賀流はこんなものが目当てだったというのか?」
真多子と一緒に山へ近づき、手近にあった一枚をつまむ。
金は確かに貴重品だが、これで直接取引するところなんてほとんどない。
軽くて価値の保証された貨幣があるのだから、こんな重い物を持ち運ぶ意味なんてないのだ。
そもそも、ただの金庫であるならば何故こんなに大仰な部屋の作りにしているのか。
分からないことばかりが積もり、僕の思考はまとまらない。
「綺麗だね~……あれ? コーちゃん、ここに何か埋まってるよ」
「なんだって?」
金貨はカモフラージュだったとういことだろうか。
真多子の声に導かれて目線をやると、丁度そのとき金貨の山がザラザラと音を立てて崩れ出した。
「おわっ!?」
「なになになに~!?」
まず現れたのは顔の無いヘビ、というよりは何かの尻尾なのだろう。
毛は見当たらず、根元へ向かう程に太くなっている。
見えているだけでもかなり大きく、この尻尾だけでも僕より大きいだろう。
まだ見えぬ全長を想像するだけでも恐ろしい。
続けて金山を割って出て来たのは赤い珊瑚のような角。
工芸品のようにツヤと磨きが掛かっており、それはそれは高価な代物に見えるそれがトカゲの額に載っていた。
ザラリと纏わりつく金貨を振るって落とし切ると、巨大なトカゲの頭がギロリと眼を見開いた。
角と同じように人を狂わせそうな紅い瞳は、すぐに侵入者たる僕達を睨み付ける。
「これって……外にあったヘンテコ像と同じだ~!」
「黄金竜……」
商売人達の間で流行り祀られている神。
まさかこんなところにいるなんて、まったくの予想外な事態で僕は声も出せず固まった。
この世界に魔物は数あれど、その中でもドラゴンは別格だ。
魔物でありながら、知性を持つのだという。
学生時代は眉唾ものだと思っていたが、いざ目の前にするとハッキリわかる。
これは知的生命体だ。
僕に向ける視線のそれには、間違いなく意思を感じるからである。
「お前ら、何用カネ」
「しゃ、しゃべった!? コーちゃん、これ生きてるよ!!」
「あ……あぁ」
口まで聞けるとは驚いた。
そして、ガネー社がこの竜をわざわざここへ住まわせるということには訳があるはずだ。
慎重に返答しなければ、僕達の身も危ないかもしれない。
見上げるほどの巨躯を目の当たりにして圧倒される。
バクバクと鼓動の止まらない心臓が今にも喉から出ていきそうだ。
それでも僕は顔を逸らさず、しっかりと眼を合わせながら口を開いた。
「これを……届けに。 この国から盗まれたものだと聞いています」
懐にしまっていた巾着を取り出し、頭上へ掲げる。
中は見るなと言われているため、この場で開いてもいいのか迷った末にそのままにしておいた。
すると、金色のドラゴンが鱗を鳴らしながら鼻先を近づけ鼻腔を広げる。
「ほぉ、契りの印カネ。 ならばそこへ置いていくガネ」
「……ひとつ、聞いてもいいでしょうか」
「なにカネ?」
「なぜ、ここに……? 人の世に住まう竜なんて、聞いたことがありません」
ただのシノビ風情が出過ぎたことだとは承知している。
それでも、魔物が人間のテリトリーにいることが不思議でならなかったのだ。
そんな怖気ず物言う僕を気にしないのか、機嫌を損ねた様子もなく黄金竜は答え始める。
「お前ら人間が必要とするから此処に居る、それだけだガネ」
「へぇ~、ねぇねぇ神様なんでしょ? 何か出来るの?」
「お、おい真多子……!!」
「神、ではないガネ。 半神であり、強欲を司る竜の一柱だガネ」
「半神……?」
転生者が転生時に出会うモアイのような者、それは神なのだという。
しかし、こちらで姿を見た物はいない。
僕が神を信じていない理由の一つだ。
見えない物をいまいち信用出来ないのだ。
だが、半神というものはこちらの世界にも存在出来るらしい。
この黄金竜がその確たる生き証人である。
そして一柱ということは、そんな半神が他にもいるということだ。
「ふ~ん。 強欲ってことは、やっぱり商売の神様なんだね」
「間違いではないカネ。 こと経済とは強欲の渦、人の業を煮詰めた仕組みに他ならないガネ」
「だからガネー社が祀っているのか……」
なぜこの世界で最も成功した会社に成りえたのか。
そのカラクリの裏には、この竜の恩恵があったということだ。
そして、このことを他言できない理由も分かった。
何故巳の国主が口出ししたがらないか。
それはこんな力が露呈すれば、また戦乱の時代が来るのは確実だから。
誰もが欲し、血を流してでも手に入れようとするからだろう。
平和を願う国主様にとって、なんとしても蓋をしておきたいデリケートな問題だったわけだ。
「真多子、このことは口外するなよ」
「そうなの? 分かった~!」
「ちょっと僕達には荷が重すぎる話を知ってしまったみたいだ……応えてくれてありがとうございます。 それでは……」
「待つガネ。 お前、不思議な眼をしているみたいだガネ?」
その言葉に、僕は思わず右眼を隠す動作を取ってしまう。
前髪で隠しているはずなのに、いったいどうして分かったのだろうか。
評価や感想をいただけると励みになります。
よろしくお願いします。




