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軟体魔忍マダコ  作者: ペプシンタロウ
第二章~中央事変~
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去り際の忠告

マダコちゃんの私服はこちら(外部サイト)

https://tw6.jp/gallery/?id=156623


マイカのイメージ画像はこちら(外部サイト)

https://tw6.jp/gallery/?id=41285

「我ら軟体魔忍(なんたいまにん)は影に生きる者。 その行方で何をするかなど今更聞くまでもあるまい」


「な、なるほど……」


 思っていたよりも予想外の返答が返って来た。

 もう少し隠す素振りくらい見せるものだと身構えていたからだ。


 こんなにも素直に返してくるとは、逆に何か裏があるのではないかと勘ぐってしまう。


「え? じゃぁマイカちゃん今はこっちに住んでるんだ! 都会っ子なんだね~」


「そうでもない。 こうやって表に上がる機会は稀、所詮は裏方だ」


「しかし、なぜ今日はコチラに? ガネー社ビルなんて目立つでしょうに」


 僕がふと頭に浮かんだ疑問を口にすると、一瞬だけだが舞華(マイカ)の目がキッとキツク吊り上がる。

 まるで余計なことを聞くなとばかりに。


 しかし、僕は怯んで瞬きする間に、再びもとに戻っていた。

 見間違いだったと思いたい。


 時折見せるこの敵意、僕の心臓が最後まで保ってくれるだろうか。


「ふん、呼ばれたからに決まっているだろう。 マダコを寄越したくらいだ、それくらい一々聞くな」


「ぐ……」


「コーちゃん、マイカちゃんを困らせちゃダメだよ!」


「ぐぬぬ……」


 味方のいない四面楚歌。

 女性陣からめためたに釘を刺されて、ぐぅの音しか出せなかった。


「こちらもの時間が無い、さっさと本題に入れ」


 どうせこの部屋にいた奴らのことを聞きたいのだろうとばかりに、舞華が僕を見据えた。


 この際、下手な建前などはもう無駄だろう。

 しぶしぶ決心すると、深く息を整えて口を開く。


「ここを出ていった二人組、アイツ等は何を企んでいるです? 僕等は一度襲撃されているんだ、知る権利くらいはあってもいいでしょう」


「うんうん、アタシもバッチリこの眼で見たよ! 間違いなくあの二人だった!」


 僕達の確たる強い意思を見せると、舞華は数秒目を閉じてなにやら思案する。


 その答えが出たのだろう。

 ゆっくりと開かれた彼女の瞳にもまた、しっかりとした強い意思のようなものを感じ取る。


「彼らとは今日初めて会った。 偽名を名乗られ素性も知らん。 話の内容は口に出来ん、これで満足か?」


「まぁ、そうなるか……」


 同郷の同士といえ、仕事の内容まで喋ってしまうようでは影に足りえない。

 当然の結果だろう。


「ねぇねぇ、なんであの人達はアタシ達を襲ったの? マイカちゃんは何もしてこないよ?」


 徒労感に打ちひしがれている僕をよそに、真多子(マダコ)が横から質問を投げかける。


 言われてみれば、巾着が目的なら今すぐにでも実力行使すればいいのだ。

 なぜ微動だにせず会話に応じてくれるのだろう。


「……彼らはある物を探していると言っていた」


「えッ!?」


 真多子からの質問だからか、本来口にしてはいけないであろう情報を漏らしてくれた。

 そのことに驚き、僕は思わず驚嘆の声を上げてしまう。


「それってコーちゃんが持ってる巾着のこと?」


「お、おい真多子!!」


 真多子の嘘を付けない悪い所がでてしまい、大事な預かりものの所在をバラシてしまった。

 慌てて口を塞ごうと手を伸ばすが、顔をそむけて阻止されてしまう。


 あわやと思って舞華の顔色を窺うと、苦悶したような複雑な表情を浮かべている。


「そうか、貴様がそれを……ならばこの国からすぐ去ることだ」


「え、っと……どういうことです?」


「アタシ達、まだ任務終わってないよ?」


「それでもだ。 このままここに滞在すれば、貴様らの命を保証できん」


 つまり殺してでも奪いに来るということだ。


 その言葉に僕はゴクリと喉を鳴らし、緊張でカラカラに乾いた口を開ける。


「なぜ今は見逃してくれるんですか。 本当に逃げるかもしれませんよ」


「そうしろと言っているだろう」


 分からない。

 何故彼女は僕等をみすみす逃そうとするのか。


 伊華賀(いかが)流にとって、功績を上げるまたとないチャンスだろうに。


 もしや、この巾着の中身がなくともガネー社乗っ取りは成就するというのか。


「コーちゃんは逃げないよ! アタシ達のリーダーだもん!」


 張り詰めた空気を一変する真多子の声が部屋に木霊する。

 その言葉に微塵も嘘は無く、自信と信頼に満ちた太陽のように明るい声。


 この場において、誰よりも僕を勇気づけてくれる救いだった。


「だろうな。 だからマダコが着いていくのだろう」


「真多子……」


「にへへ! 流石マイカちゃん、分かってるね~!」


 思わぬところで感動に震えていると、舞華は窓に登る陽を横目に確認して立ち上がる。


「もう時間だ、帰るぞ。 それと、死にたがりに置き土産だ。 『上を目指せ』」


「上……?」


 その言葉通り受け取るならば、ガネー社の上層へ上がれということか。


 ここより上の階は、勤務している会社の人間だけしか立ち入れない。

 危険を侵してまで潜入したその先に、いったい何が待っているというのだろう。


 僕がその真意を問い前に、彼女はすぐに出口へと向かってしまった。


「待ッ……!!」


「待たね~マイカちゃん!」


 僕のすがるような言葉は、真多子の別れのあいさつで掻き消える。

 後には、緊張の解けた居心地の良い座敷だけが残っていた。


「はぁ、仕方ない。 兄貴達もまだ戻らないし、言われた通り動いてみるか?」


「あっ! またまた軟体魔忍のお仕事再開だね! アタシに任せて!」


 不安に胸いっぱいの僕に対し、わくわくと心躍らせる真多子の対照的なコンビ。


 これから先、互いの命運を握った者同士となる。

 どちらともなく小指を差し出すと、二人だけの習慣となった指切りをして成功を祈るのであった。

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