去り際の忠告
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「我ら軟体魔忍は影に生きる者。 その行方で何をするかなど今更聞くまでもあるまい」
「な、なるほど……」
思っていたよりも予想外の返答が返って来た。
もう少し隠す素振りくらい見せるものだと身構えていたからだ。
こんなにも素直に返してくるとは、逆に何か裏があるのではないかと勘ぐってしまう。
「え? じゃぁマイカちゃん今はこっちに住んでるんだ! 都会っ子なんだね~」
「そうでもない。 こうやって表に上がる機会は稀、所詮は裏方だ」
「しかし、なぜ今日はコチラに? ガネー社ビルなんて目立つでしょうに」
僕がふと頭に浮かんだ疑問を口にすると、一瞬だけだが舞華の目がキッとキツク吊り上がる。
まるで余計なことを聞くなとばかりに。
しかし、僕は怯んで瞬きする間に、再びもとに戻っていた。
見間違いだったと思いたい。
時折見せるこの敵意、僕の心臓が最後まで保ってくれるだろうか。
「ふん、呼ばれたからに決まっているだろう。 マダコを寄越したくらいだ、それくらい一々聞くな」
「ぐ……」
「コーちゃん、マイカちゃんを困らせちゃダメだよ!」
「ぐぬぬ……」
味方のいない四面楚歌。
女性陣からめためたに釘を刺されて、ぐぅの音しか出せなかった。
「こちらもの時間が無い、さっさと本題に入れ」
どうせこの部屋にいた奴らのことを聞きたいのだろうとばかりに、舞華が僕を見据えた。
この際、下手な建前などはもう無駄だろう。
しぶしぶ決心すると、深く息を整えて口を開く。
「ここを出ていった二人組、アイツ等は何を企んでいるです? 僕等は一度襲撃されているんだ、知る権利くらいはあってもいいでしょう」
「うんうん、アタシもバッチリこの眼で見たよ! 間違いなくあの二人だった!」
僕達の確たる強い意思を見せると、舞華は数秒目を閉じてなにやら思案する。
その答えが出たのだろう。
ゆっくりと開かれた彼女の瞳にもまた、しっかりとした強い意思のようなものを感じ取る。
「彼らとは今日初めて会った。 偽名を名乗られ素性も知らん。 話の内容は口に出来ん、これで満足か?」
「まぁ、そうなるか……」
同郷の同士といえ、仕事の内容まで喋ってしまうようでは影に足りえない。
当然の結果だろう。
「ねぇねぇ、なんであの人達はアタシ達を襲ったの? マイカちゃんは何もしてこないよ?」
徒労感に打ちひしがれている僕をよそに、真多子が横から質問を投げかける。
言われてみれば、巾着が目的なら今すぐにでも実力行使すればいいのだ。
なぜ微動だにせず会話に応じてくれるのだろう。
「……彼らはある物を探していると言っていた」
「えッ!?」
真多子からの質問だからか、本来口にしてはいけないであろう情報を漏らしてくれた。
そのことに驚き、僕は思わず驚嘆の声を上げてしまう。
「それってコーちゃんが持ってる巾着のこと?」
「お、おい真多子!!」
真多子の嘘を付けない悪い所がでてしまい、大事な預かりものの所在をバラシてしまった。
慌てて口を塞ごうと手を伸ばすが、顔をそむけて阻止されてしまう。
あわやと思って舞華の顔色を窺うと、苦悶したような複雑な表情を浮かべている。
「そうか、貴様がそれを……ならばこの国からすぐ去ることだ」
「え、っと……どういうことです?」
「アタシ達、まだ任務終わってないよ?」
「それでもだ。 このままここに滞在すれば、貴様らの命を保証できん」
つまり殺してでも奪いに来るということだ。
その言葉に僕はゴクリと喉を鳴らし、緊張でカラカラに乾いた口を開ける。
「なぜ今は見逃してくれるんですか。 本当に逃げるかもしれませんよ」
「そうしろと言っているだろう」
分からない。
何故彼女は僕等をみすみす逃そうとするのか。
伊華賀流にとって、功績を上げるまたとないチャンスだろうに。
もしや、この巾着の中身がなくともガネー社乗っ取りは成就するというのか。
「コーちゃんは逃げないよ! アタシ達のリーダーだもん!」
張り詰めた空気を一変する真多子の声が部屋に木霊する。
その言葉に微塵も嘘は無く、自信と信頼に満ちた太陽のように明るい声。
この場において、誰よりも僕を勇気づけてくれる救いだった。
「だろうな。 だからマダコが着いていくのだろう」
「真多子……」
「にへへ! 流石マイカちゃん、分かってるね~!」
思わぬところで感動に震えていると、舞華は窓に登る陽を横目に確認して立ち上がる。
「もう時間だ、帰るぞ。 それと、死にたがりに置き土産だ。 『上を目指せ』」
「上……?」
その言葉通り受け取るならば、ガネー社の上層へ上がれということか。
ここより上の階は、勤務している会社の人間だけしか立ち入れない。
危険を侵してまで潜入したその先に、いったい何が待っているというのだろう。
僕がその真意を問い前に、彼女はすぐに出口へと向かってしまった。
「待ッ……!!」
「待たね~マイカちゃん!」
僕のすがるような言葉は、真多子の別れのあいさつで掻き消える。
後には、緊張の解けた居心地の良い座敷だけが残っていた。
「はぁ、仕方ない。 兄貴達もまだ戻らないし、言われた通り動いてみるか?」
「あっ! またまた軟体魔忍のお仕事再開だね! アタシに任せて!」
不安に胸いっぱいの僕に対し、わくわくと心躍らせる真多子の対照的なコンビ。
これから先、互いの命運を握った者同士となる。
どちらともなく小指を差し出すと、二人だけの習慣となった指切りをして成功を祈るのであった。
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