聞き覚えのある声
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進んでいくにつれて徐々に増えるカラーコーン。
道を半分塞ぐように置かれた工具棚、組み立て足場やネコ車。
だんだんと、とても人に見せるよう整理されたとは言えない様相を見せ始める。
「工事中につき……ご迷惑を……おかけします……だって~! 歩きながら読むとちゃんと繋がってる! すごいねコーちゃん!!」
等間隔に置かれたコーンの間に吊るされた長い布。
そこには断片的に文字が印字されており、真多子が口に出しながら先頭を切っていた。
「これも転生者が考えた横断幕だろうな。 それにしても、修理してる箇所が多くて狭苦しい……もしかして停電騒ぎの後遺症か?」
赤く揺れる髪を追うように、その後ろには僕が続く。
何しろ通路が狭まっており、一列に並ばないと身体のアチコチをぶつけてしまいそうなのだ。
そして彼女の言葉を呼び水に、右眼に残る記憶を掘り起こす。
異世界の方では確かこういうのが一般的な工事現場風景だったはずだ。
オレンジ色の警告色がよく目に付き、なかなか考えてあるなと感心する。
「オレは落ち着くけどなぁ。 作業場を思い出すぜ」
「う~ん、それはフカくんだけじゃないかな……爆発しない分、こっちの方が居心地はいいと思うよ~」
「兄貴には悪いけど、そこだけは真多子に賛成かな」
なにせ爆発騒ぎなんて日常茶飯事なせいで、深角の兄貴の作業場周りはご近所さんが誰もいない空き地帯なのだ。
兄貴も魔人類の頑丈な身体を持って産まれてこなければ、とっくにあの世へ旅だっているに違いない。
「おいッ! お前ぇら薄情だぞ!! 誰のおかげでここまで来れたと思ってやがる!!」
「バット! 皆で協力したから完成したのデース! 蒸気屋台は一人の功績じゃないデスヨ!」
「グゥ……の音しか出ねぇ……」
小さいお子様の星美に正論を返されては、流石の兄貴も折れたらしい。
最後尾で白旗代わりにパタパタと手を振っている。
「あっ! 誰かいるみたいだよ! お~い!!」
先頭を往く真多子が突然声を上げる。
彼女の影にいるせいで見えないが、前方に人がいるようだ。
おそらく受付で説明のあった作業員だろう。
ということ、やっとこの長い通路も終わりか。
向こうもコチラに気が付いたのか、ズッタズッタとゴム長靴を凹ます足音が近づいてくる。
「いやぁ~待ってったっス~。 お客さん達は見学希望で間違いないッスか?」
「そうで~す! みんなで発電施設を見に来ました~!」
「そうッスか。 えぇっと、ひぃふぅみぃ……四人いるッスね。 随分遅かったッスけど、クソでもしてたんスか?」
「ううん、アタシ達はね~もがっ!?」
「ははは……まぁ、そんなところです」
(こら、真多子! バレたら警備を呼ばれるだろ!?)
(あっ、そっか!)
素直過ぎる真多子が口を滑らしそうになったので、僕はすかさず口を覆って物理的に発言を遮る。
こういうことがあるから、あまり離れないように距離を近く心がけていた賜物だ。
嘘が付けない性格というのも時には考えものである。
「……? まぁとりあえずコッチに着いて来てほしいッス~。 説明は適宜するっス」
これから悪党共の動向を探ろうという時に、警戒を無為に強めたくはない。
幸い、大雑把というか勤務態度があまり熱心な作業員ではないらしく、なんとか誤魔化せた。
しかし、本職の受付嬢と比べるとかなりフランクな喋り方だ。
とはいえ施設に詳しいからあてがわれた作業員なのだろうし、贅沢は言えないか。
(そういえば……真多子に気を取られてたけど、この作業員の声は何処かで聞いたことがあるような……?)
「ほらほら、コーちゃん! ぼぅっとしてると置いていかれちゃうよ!」
「あ、あぁうん……」
まだ頭に引っ掛かるところはあったが、真多子にせっつかれて脚を動かす。
いつの間にか隊列は前後逆に変わり、彼女が僕の背を押す形になっていた。
事前説明通り、発電施設自体はまだ復旧箇所が多いらしく近付くことはできない。
なので臨時で造られた格子状の鉄板を足場にした道を歩かされている。
鉄製だし丈夫なのは頭で理解できていても、こうも下が透けて見えるような足場は不安で落ち着かない。
気持ちばかりの心許無い手すりに掴まり、慎重に一歩を踏み締める。
注意が足元に向かっている今、目の前をチョコチョコと小刻みに動かす小さい脚が目につく。
「気を付けろよ星美。 お前小さいから、隙間から落ちるかもしれないぞ」
「ノープロブレム! 余計なお世話デース!!」
「いでっ!?」
藪蛇だったか。
余計な一言のお礼とばかりに、向う脛を思いきり蹴りつけられた。
「も~、コーちゃんそういうところだよ? ミーちゃんにツンツンされちゃうの」
「お~い、タコロウ! 揺れるんだから騒ぐんじゃねぇ!」
(ここぞとばかりに責められてる……おのれチビっ子め!)
今回ばかりは自分が悪いのを理解しているが、感情論は別だ。
いつものほんの仕返し程度だったのに、なんで皆にまで窘められるのか納得いかない。
僕が不貞腐れていると、ようやく前方集団が立ち止まる。
どうやら何か見せる物があるのだろう。
広い空間に出たのか、鉄の焦げる臭いと共に生暖かい風が顔を撫でていく。
そっぽ向いていた視線を戻すと、そこには地上の煌びやかさとは対極の光景が広がっていた。
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