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軟体魔忍マダコ  作者: ペプシンタロウ
第二章~中央事変~
33/66

大事な巾着はどこへいく

マダコちゃんの私服はこちら(外部サイト)

https://tw6.jp/gallery/?id=156623


星美ちゃんの私服はこちら(外部サイト)

https://tw6.jp/gallery/?id=49772


円稼ちゃんの私服はこちら(外部サイト)

https://tw6.jp/gallery/?id=126924

「ともかく、だ。 僕達は人助けなんてしてる暇はないだろ? コイツの探し物は後回しだ」


 円稼(マドカ)が僕達の探している仲介人だという保証はない。

 見極めるにしても、今すぐになんて時期尚早だ。


 もう少し泳がせて、様子を探っておきたい。


「え~、固いこと言わないでよコーちゃん。 困っている人は助けてあげないと! それに、アタシ達も探してる人がいるんだし、そのついでにでも探してあげられるもん。 ね?」


「オフコース! 情けは人のためならずデスヨ! マスターも困っている人を見掛けたら、買ってでも人手を貸しなさいって言ってたデース!」


 慎重に動きたい僕とは裏腹に、真多子(マダコ)星美(スターミー)はこの黒猫娘の味方に付く気のようだ。


 マスター、軟体魔忍(なんたいまにん)の先々代頭目である真多子のお爺さんも、こういうところだけは二人へしっかりと教育しているのが恨めしい。

 普段は全然何も教えてくれないくせに……!!


 今は白黒ハッキリしない円稼の耳がある。

 あまり部外者に任務のことを口外したくないため、注意出来ないのがもどかしい。


(そうじゃないんだよ二人共! あぁ、彼女らに読唇術(どくしんじゅつ)があれば、こっそりと伝えられたのに……!!)


 懐へ忍ばせた巾着と、円稼の停電事件に、繋がりがあると気が付いているのは僕だけらしい。


「そうにゃ、そうにゃ! 男ならケチケチすんニャよ! 困り果てた可哀想なアタシよりも大事なコトなんてニャいはずにゃ!」


 味方を付けて、すっかり調子に乗っている円稼まで騒ぎ始めた。


 自分で自分を『可哀想』とほざくヤツが、本当に困ってるわけあるものか。

 人の好意に甘えるのもいい加減にしろよな。


 人の気も知らないで、我が物顔の猫耳娘への文句を精一杯に喉元で押し留める。

 すると、真多子が横から割って入ってきた。


「えっとねぇ、アタシ達は『大事な預かり物』を渡しにこの中央まで来たんだよね。 さっき言った探してる人っていうのは、それが入った巾着を受け取る人のことなんだ~」


 『大事な預かり物』、その言葉を耳にした途端、円稼の身体がピクリと反応する。


 その僅かな所作を僕は見逃さなかった。

 やはり、コイツは何か知っているのか?


「へ、へぇ~……大事な巾着にゃす?」


(真多子ぉぉ!! 言っちゃダメだって!! 言・う・な!)


 円稼の注意が真多子へと移ったため、ここぞとばかりに口だけを動かして気持ちを伝える。


 この際、読唇術がなくても長年の付き合いで伝わるはずだ。

 頼むから伝わってくれ。


 そんな僕の必死な気持ちが伝播したのか、真多子がハッとした表情を浮かべた。


「あっ、そうだったね!」


(分かってくれたか!)


 僕達に間に言葉なんていらなかったのだ。

 僕の頬も自然と緩む。


 幼馴染として、幼少のころから連れ添った二人の仲だ。

 きっと以心伝心に心が一つになると信じていたとも。


「そうそう、巾着といえば……はいコレ! コーちゃんに返してなかったもんね。 また大事にしまっておいてね!」


 そう言って、真多子が『丸に魚』の印が入った巾着を手渡して来た。


 出店通りの魚丸屋(うおまるや)に貰った、干し物の詰まった袋だ。

 猫まんまを作る時にカツオ節が必要だから渡したのだったな。


(伝わってない……まるで伝わってなかった!!)


 思い通じる仲だと思っていたから、結構心にクルものがある。

 硝子(がらす)で出来た心臓だったら、今頃は粉々に違いない。


 僕の一方通行の気持ちだったのだろうか。


 だが落ち込んでいる暇はない。

 とにもかくにも、この話題は打ち切らなければ。


 そう決心した矢先、円稼が蒸気屋台の窓を指して叫び出した。


「あにゃにゃぁ!! アレはなんなんにゃ!?」


「は?」


「え? なになに?」


「ワッツハプン?」


 前触れの無い唐突な叫び声で、その場にいた全員はつられて窓へと視線を集めた。


 ところが、窓の外は先程と同じように、背の高いガネー(しゃ)ビルが建っているだけ。


 平常そのものであり、特に騒ぎ立てるものは何もない。


「アレってなんだよ……って、あ、あれ!?」


 窓から視線を戻すと、騒ぎの張本人は既にいない。

 忽然(こつぜん)と姿を消していた。


 さらに視線を落とすと、僕の手にしていた巾着まで煙のように消えている。

 何かに化かされたような不思議な気分だ。


 何が起こったのかと混乱していると、蒸気屋台の後部扉がバタンと音を鳴らす。


「今度はなんだ!?」


 音の出所を辿ると、道路へと飛び出し身体を(ひるがえ)す円稼の姿。

 その手元には巾着が握られていた。


 ちゃっかり、元々着ていた自分の服も抱えている。


「にょほほほ! これさえあれば、アタシの借金はチャラにゃ! お人好しの田舎者には悪いにゃが、アタシも生活がかかっているのにゃす!」


 捨て台詞を吐いていくと、クルリと回転して綺麗に着地する。


 走行中の車体から飛び出せるとは、流石は猫の特性持ちだ。

 だが、そんなことに感心している場合ではない。


「あ、あの恩知らずめぇ!」


「えっ!? なになに、どういうこと!?」


 真多子達はまだ混乱しているようだが、僕はすぐさま伝声管へと駆け寄った。


「兄貴! 屋台を止めて! 今すぐ!」


「はぁ!? タコロウ、どうしたんだ急によぉ!? 無理だ、コイツはすぐには止まれねぇって!」


 運転席にいる深角(フカク)の兄貴は、こちらの状況を知らないだろう。

 でもやってもらうしかない。


 そうこうしている今も、走行してどんどんとアイツと距離が離されてしまうのだ。


 金属を引っ掻くような、鋭いブレーキ音が街を騒がす。

 車内にいた僕達の身体も、慣性に持っていかれて大きく揺らいでいる。


(一刻も早く追わないと! 大事な巾着を盗まれて……大事な?)


 どうやら自分は焦りのあまり、思い違いをしていたらしい。


 恐る恐ると懐へ手を忍ばせると、()()()巾着が確かにそこにあった。


「あ……ということは、アイツが持って行ったのは干し物の方か」


 安堵すると、途端に身体から力が抜けて座り込む。

 不幸中の幸いというか、相手が馬間抜けで助かった。


「ねぇってば、だからどうなってるのコーちゃん!」


 事情を飲み込めていない真多子が僕の肩を揺すぶっている。

 もう追う必要はないと分かったし、落ち着いて事情を説明しよう。


 僕はソファーに座りなおして深く腰を落とすと、残っている巾着を手に取った。


「あの泥棒猫、どうやら僕達の預かりものが狙いだったみたいだ。 勘違いして別の物を盗んで行ったけどね」


 目立たないように、何の変哲もない巾着に入れておいた結果だ。

 それでたまたま似ていた、魚丸屋の巾着と取り違えたのだろう。


「え~!? アタシはてっきり、あの子がお腹空いてたのかと思ってた!」


「そんなんじゃ腹の足しにはなっても、借金の足しにはならないだろ」


 おそらく、『ブツは巾着に入っている』という情報だけを握らされていたに違いない。


 それを知っているということは、やはり昨晩の襲撃者達の手の者ということになる。

 僕も知らない巾着の中身を知っていたようだし。


「アイツの最後の言動から、たぶんガネー社ビルから『盗まれた物』を取り返せば借金帳消しの取引を持ち掛けられていたんだと思う。 そしてそれは、ガネー社からの依頼じゃない。 あの悪党共の手引きだとみている」


「悪党……昨日の人達だよね?」


 あの暗がりの激闘を思い出し、真多子の顔にも剣幕な雰囲気が漂う。


 悪党共があれで全てとは思えなかった。

 あの装甲車を用意できるとは、よほどのバックがいるに違いない。


「あぁ。 そして、僕達の探す仲介人はおそらくガネー社ビルにいるはずだ。 停電時に盗まれた物とは、まさにコレのことなんだろう」


 僕は真多子達にしっかりと見せつけるように巾着を掲げた。


 何が入っているのかは知らないが、ここまで妨害が入る代物だ。

 長く手元に置いておきたくはない。


 まずは行くべき場所が見つかったのだ、兄貴へも事情を伝えなくては。


 ようやく完全に停止した蒸気屋台の伝声管に向けて、僕はゆっくりと歩き出した。

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