第93話 それぞれの後始末
いつも応援ありがとうございます。
ここの所誤字があるよとのご指摘を多くいただき、大変申し訳なく思っております。
ですが当方本作の執筆以外にも書籍化作業や仕事がありますので、誤字等のチェックが甘くなる事はご理解いただけると幸いです。
もし気になるようでしたら、ここが間違っていると指摘してくださいますと時間が許す限り修正に励む次第です。
「おーのーれー! ライズ=テイマーッ!」
フリーダ将軍は激怒していた。
原因は先日の非常線の件だ。
国王や大臣達の許可もなく非常線を設置し、あまつさえ一切の説明を行わなかった事でフリーダ将軍は貴族達から猛バッシングを受けた。
だが真相を話す訳にもいかず困り果てていたフリーダ将軍だったが、メルクの機転によりデクスシの町でライズを影ながら護衛していた特殊部隊からの情報で、封魔の術宝が何者かに盗難され、犯人が王都方面に逃走、潜伏したとの情報を得ての緊急措置だったと説明した。
その甲斐あって実際は盗みを命じたのはフリーダ将軍であり、雇った犯人は実は敵国のスパイだったという大スキャンダルを何とか誤魔化す事に成功した。
と思っているのは実は彼等二人だけであり、実際のところスパイは自白を誘う魔法によって自身が敵国のスパイであり、情報を得る為に素性を偽ってフリーダ将軍に雇われていた事を白状させられていた。
この自白魔法であるが、騎士団の魔法使いが調べたものではなく、マルド元将軍の子飼いの部下によって自白させられたものだった。
自白魔法はその性質から国家機密とされているが、国家間においては公然の秘密だ。
当然各国は自白魔法に対する対策を講じており、そして国家もより強力な自白魔法の開発を続けていた。
マルド元将軍が長年将軍を続ける事が出来たのも、こうした技術を政敵に知られる事なく秘密裏に開発し続けていた事が大きい。
しかし自国の将軍がこのような不祥事を起こしたと明らかになれば、彼の政敵のみならず周辺国に大きく付け入るスキを与えてしまう為に表ざたにする事は出来なかった。
こうしてフリーダ将軍の首は皮一枚でつながったのであった。
だが長年政治抗争で敵を作り続けていた事が災いし、フリーダ将軍の政敵達はここぞとばかりに彼を攻撃した。
誘拐された息子達の捜索を求めても、放蕩息子の道楽だろうと言われて無視された事、非常線を張った直後に行うべき説明責任を無視した事、そしてこれまで騎士団長の地位を利用して行ってきたこれまでの横暴をここぞとばかりに追求されてしまう。
果てはドラゴンを使役するライズを放逐した事にまで言及され、貴族達はフリーダ将軍に国防を任せるは能力不足、即刻将軍の地位を降りる事、つまり辞任を要求してきた。
正に四面楚歌の状況であった彼を救ったのは、なんと国王であった。
国王は現状で騎士団長を辞任させても騎士団をまとめる事のできる人材を即座に用意する事は不可能であると言ってフリーダ団長の辞任に待ったをかけた。
だがその代役としてマルド元将軍を相談役として騎士団に復帰させるという条件を提示し、国王の命令ならと貴族達もそれを受け入れる事とした。
つまりは国王推薦のお目付け役が付いた訳である。
そうした事から好き勝手出来なくなったフリーダ将軍は荒れに荒れた。
具体的にはティータイムの楽しみである甘味の量を二倍に増やす程に荒れた。
高級料亭のコックを呼び出して最高級料理と高級なワイン食い漁るという贅沢を尽くした。
女遊びに耽らなかったのは奥方を恐れた為である。彼は恐妻家であった。
もしかしたら家庭でのストレスの捌け口を政治抗争に求めていたのかもしれない。
そしてそんなフリーダ将軍の我が儘と癇癪の被害を一手に受ける男が居た。
ライズの友人であるメルクである。
彼は騎士団長であるフリーダ将軍に取り入る事で騎士団内での地位を保証されていた。
だが今回の件でフリーダ将軍が政治抗争から放り出された事で、彼の立場は非常に微妙なものとなっていた。
(沈む船に乗り続ける事程愚かな事は無い。ここはフリーダ将軍の秘密の情報を土産に他の派閥に取り入るか? いや、今更フリーダ将軍の情報なんて大した価値もないか)
既に上司の価値が限りなくゼロになった事を冷静に判断するメルク。
だがそれは自分の価値も同様に暴落しているという事でもある。
(なんとか次の騎士団長が誰かを調べ、その人が求める情報やモノを用意しないと)
メルクは既に新しい上司に媚を売る算段を練っていた。
「聞いているのかメルク!」
「はい、フリーダ将軍が再び返り咲く方法ですね」
メルクは上司の愚痴を話半分で流しながら方策を練っていく。
(フリーダ将軍の性格なら次の発言は……)
「分かっているのならさっさと行動に移れ!」
(これだよね)
「承知いたしました」
自分は構わないが、部下には有能である事を求めるフリーダ将軍の性格を熟知したメルクは、これ幸いと団長室を出て自身の延命を図るべく行動を開始した。
◆
「ド、ドライアドさん!」
「あらエディル……さんでしたわね」
「は、、はい! エディルです!」
エディルは、自分達を救ってくれた礼をライズにするという名目でマルド元将軍の屋敷へと来ていた。
そして屋敷の敷地内に入った彼は、中庭で寛ぐドライアドの姿をみて即座に彼女に駆け寄った。
ライズへの礼など方便。彼の目的はドライアドに会う事に他ならなかったのだから。
「この度はライズ殿の従魔に危ない所を助けられ、そのお礼に参った次第です!」
ドライアドと話すエディルはガチガチに緊張しており、部下達に見られたら間違いなく笑われる事請け合いの様子であった。
「お話は伺っておりますわ。封魔の術宝を盗んだ賊を足止めしてくださったとか」
「え、ええ! 我々にかかればスパイなどものの数ではありませんでしたが、奴らは卑怯にも悪魔の力を利用した武具で我々に襲い掛かって来たのです!」
自らの武勇伝を語るエディルであったが、その内容は上層部に知られたら間違いなく処罰を受けるものである事に気付いていない。
なにしろ悪魔の力を利用する武器など、教会からすれば神への冒涜に等しい。
間違いなく秘さねばならない内容なのは新人の聖騎士であっても理解できる事だった。
正に恋は盲目である。
もっとも、これに関してはドライアドが男を惑わす森の娘としての美貌の持ち主である事も少なからず影響しているのだが。
そもそもドライアドという種族は植物の魔物。本来なら人と同じ姿を取る必要などないのだ。
彼女達が人の姿をしている理由はひとえに人間をたぶらかし、養分とする為。
彼女達にとって人間とは喋る栄養でしかないのだ。
もっとも、ソレが彼女達の誤算でもあった。
人間を模して生まれた彼女達だったが、より人間を誘惑できる様に人間と意思疎通が出来る様に成長していった。
結果彼女達は誘惑する人間を自分の意思で選ぶようになり、養分となる人間を愛する様になった。
愛してしまったのだ。
そこから全ては反転した。
栄養とする為に愛されるのではなく、愛した男を栄養にしたいと考える様になったのだ。
その為に愛した男以外の人間には目もくれなくなったドライアド達。
生物としては甚だ矛盾した在り様だが、その在り様こそが男を深く惹きつける魅力として変じた。
それはもしかしたら長い時を生きる存在の遊興であったのかもしれない。
だが間違いなく彼女達は自分が栄養にすると決めた相手を心の底から愛した。
そうした経緯から、ドライアドは更に女としての魅力を増し、出会う男のことごとくを魅了する存在へと変貌していくのであった。
つまり無意識に男を誘惑しておきながら本命以外はなしのつぶて悪女の誕生である。
「残念ながら賊が悪魔の封印を解いてしまった事で準備の不十分であった我々は不覚をとってしまいましたが……」
と、ドライアドが内心どうでもいいと思っている間にもエディルの武勇伝は続いてゆく。
若干自分達の力不足を隠す為に内容が盛られているがそれはささやかな男心である。
「ですが私は修行により確実に聖騎士としての力を蓄えております! いずれは単独での悪魔の討伐も可能でしょう!」
「まぁ、それは頼もしいですわ!(眷属程度に苦戦するようでは無理でしょうに)」
本音を隠しつつ、ドライアドは会話を切り上げるタイミングを計る。
「それでですね、私の修業が完了して王都に戻ったあかつきには……」
エディルが一拍間をおいて溜めをはかる。
「私の妻として王都で暮らしてはくださいませんか⁉」
「お断りしますわ」
キッパリと断るドライアド。
「……」
即答された事を必死で理解しようとするエディルの頭脳を無視してドライアドが彼の横をすり抜ける。
「わたくし、ライズ様に(種植えの)操をささげておりますので」
そして、ドライアドが愛しのライズの下へと向かうべく屋敷の中に入った所で、男の叫び声が響いた。
「おのれライズ=テイマー!」
それは哀しいアンダードッグの遠吠えであった。
◆
「テンド王国で発見された封魔の術宝はドラゴンによって破壊された模様です」
装飾の無い部屋で感情の無い男の声が響き渡る。
「またあの男か。いい加減邪魔だな」
部屋に響く声は一人のものだけではなかった。
「ですが奴には多くの魔物がついております。たとえ一人になっても油断はできません」
「分かっている。何しろ、我が国を実質一人で打倒したのだからな」
何故か、男の声は愉快そうにも聞こえる。
まるで手ごわい遊び相手と相対している様な声音だ。
「かえすがえすも忌々しいのはドラゴンですな」
「あのドラゴンは何故あの人間に味方するのか。ドラゴンが悪魔の天敵であるというだけでは説明が付きませんな」
「ならば調べよう。ドラゴンとあの人間の結びつきを。ライズ=テイマーとは一体何者なのかを」
ライズの過去を、魔が追及する。




