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第85話 犯人と追手と将軍

お待たせしました! 最新話更新です!

アマゾンの販売ページにて表紙イラストが公開されました!

そして書籍化に伴い、タイトルが「ようこそモンスターズギルド」に変更となります!

(アマゾンではまだ修正対応待ちなのでモンスターズギルド名義です)

今後はこちらのタイトルでよろしくお願い致します!


城下町のとある一角にその男達は居た。


「例のモノは手に入れた。後は受け渡しを待つだけだ」


「受取人はいつ来る?」


「一週間以内には来る」


「それまで我々はどうすれば良い? 魔物に与える食事も必要だ。この町の魔物使いのネットワークに怪しまれないようにしないといけない。あまり長居は出来んぞ」


「潜伏しろ。魔物のエサについてはこちらで用意する。気取られる様な真似はするな」


 男の片割れが不機嫌そうに眉を顰める。


「そう腐るな。アレの引き渡しが完了したらお前も本国に戻って出世できる。それまでの辛抱だ」


 もう片割れの男は、目の前の男が上の対応に不満を持っているのだと思った。

 事実、彼もまた上司の対応の遅さにはいつも辟易していたからだ。


「分かったよ。だがオレムの実は多めに仕入れてくれ。こんな場所に閉じ込めておくんだ。なるべく好物を食べさせてやりたい」


「分かった分かった。拗ねて仕事に影響が出たら困るからな。それじゃあ大人しくしてろよ」


 それだけ言うと、男は部屋を出て行った。

 残された男は部屋の隅に目を向ける。


「そういう訳だ。悪いが暫く我慢してくれ。俺も一緒だからな」


 そういって男が部屋の隅にいる何者かに近づいてゆく。

 ソレは男にすり寄り、飼い犬の様に体を預ける。

 男もまたソレを愛おしそに撫でる。

 そして、ボソリと呟いた。


「……エサじゃない、食事だ」


 ◇


「はー、引き受けたは良いが、これからどうするかなぁ」


 王都の道を歩きながらライズは溜息を吐く。

 彼はマルド元将軍から受けた行方不明者捜索依頼をどうやって解決したものかと頭を悩ませる。


「さすがに今回の依頼をお受けになったのは失敗だったのでは?」


 ドライアドがライズに苦言を呈する。


「王都は広いですよ。そこから目的の人を探すとなると……それにわたくし達は行方不明になった方々の顔をしりませねん。この資料だけで探すのは困難では?」


 そういってドライアドは、帰り際マルド元将軍の執事から渡された鞄を開き、中の書類を取り出す。

 そこには、王都で行方不明になった人間の人相書きと、名前、素性、特徴などが記載されていた。


「分かっているだけで15人。スラムの人間や、まだ失踪した事が判明していない人達を含めると更に増えそうです」


 やるべき事があるのに、他の事をする余裕などあるのか? そうドライアドは言っていた。


「いやまぁ、金に目がくらんだのは確かだ。そこはすまないと思っている」


「でしたら!」


 今からでも戻って依頼を取る止めるべきだ、そう言おうとしたドライアドをライズは制止した。


「この状況、似ているとは思わないか?」


「え?」


 ドライアドはライズの言葉にキョトンとする。


「かつて隣国との戦争中、悪魔の力を利用する為の実験として多くの人間が生贄として秘密研究施設に集められた」


 それはライズ達が軍に属していた時の事だった。


「研究所の連中は捕らえた人間を無理やり悪魔と契約させ、呪いで力を得た実験体達を無理やり操ろうとしていた」


「ですがその計画は失敗しました」


「ああ、そうだな」


 事実、悪魔の力を得た実験体達だったが、無理やり実験動物にされた怒りと憎しみで暴走、呪いの強制力を無視して見境なく暴れまわった事で実験は完全に失敗した。

 直後に突入してきたライズ達は、その凄惨な光景を見て絶句、そのまま襲ってきた実験体との戦闘に突入し研究所の人間には逃げられてしまった。

 施設には研究資料の類は一切残っておらず、大半は持ち出されたか燃やされていた。

 残ったのは僅かな資料のかけらと破壊された実験装置、そして悪魔と契約した人間の成れの果てだけだった。


「あの時実験施設にあった装置、アレにも大きな宝石が核として使用されていた。俺達が見つけた時には粉々に砕けていたけどな」


「と言う事は、隣国がこの国で同じ実験を行おうとしていると?」


 ドライアドが緊迫した表情になる。

 彼女もまた、あの戦いで危険な思いをしたのだから当然の反応だ。


「まだ確信はない。だが奪われた悪魔関連の品、それに他人の姿を盗み取る力を持った存在、そして王都で行方不明になっている人間達。それが王都という場所に繋がっているのなら、何らかの関係があると考える方が自然だろうさ」


 そこにあったのは、いつもの飄々とした表情のライズではなく、かつての英雄と呼ばれた漢の横顔だった。


「はぅ! ライズ様……素敵ですわ」


 ドライアドが乙女の顔でライズの横顔を見つめる。


「ああ……やっぱり死体に種を植え付けるならライズ様しかありえませんわ!」


 狂気に満ちた発言に聞こえるが、これはれっきとしたドライアドの愛情表現である。

 死したる伴侶の死体を養分として己の種を発芽させる事は、ドライアドにとって二人の愛の結晶を育む行為にほかならないからだ。

 絵図は相当アレであるが。


「さぁ、レティ達と合流して今後の方針を決めよう!」


「かしこまりましたわ!」


 と、歩き出そうとしたライズだったが、何かを見つけたのか歩みを止める。


「なんだありゃ?」


 ◇


 メルクは歩いていた。

 上司からの呼び出しを受け、騎士団長の執務室へと。


(犯人の捜索は進んでいるのかを聞きたいのかな? それともライズの事かな? どちらにしてもまだ捜索を始めたばかりなんだから、仕事の邪魔をしないでほしいなぁ)


 メルクは、上司であるフリーダ団長からどんな無理難題が飛び出すのかと頭を悩ませる。

 正直脇腹辺りがキリキリと痛い。

 

「フリーダ団長、お呼びでしょうか?」


「おお、メルクか」


 フリーダ団長はご機嫌だ。


(こういう時は間違いなく碌でもない事を言いだすんだ。覚悟を決めろ僕!)


「ご機嫌ですね将軍」


「うむ、分かるかね?」


「ええ、何か良いアイデアを思い浮かばれたのでしょう?」


「はははっ、さすがは我が忠実な部下。良くわかっているではないか」


(ええ、分かっていますとも、分かっていますとも)


 メルクは上司の想像を超えるであろう碌でもない思い付きに耐えるべく、腹に力を入れる。


「喜びたまえ、私から財宝を奪った犯人を捕らえるべく、非常線を張る事を決定したぞ!」


「っっっっっ!?」


 メルクは衝撃を受けた!

 フリーダ将軍は非常線を張ると言った。

 それはつまり、王都で何か非常事態が起きていると宣言していると言っているのと同じだ。


「しょ、将軍……それはまさか将軍名義の命令ではないですよね?」


「うむ、その通りだ!」


 気が遠くなるメルク。

 将軍名義で行われた指示と言う事は、情報伝達ミスでは済まないからだ。

 突然行われた非常線によって行き来を制限された市民だけではなく、商売の為にやって来た商人達の足止めを喰らう。

 一番怖いのは貴族だ。

 いったいなぜ非常線を張ったのかとフリーダ将軍の下にあらゆる苦情が届く事だろう。

 そしてその苦情を処理するのは自分の仕事なのは間違いない。


「……」


「ははははっ、私のとっさの名判断に感動して声も出ないか。私は考えたのだ。やはり秘密裏に犯人探しなどをしては逃げられる危険がある。だがこれで犯人は王都から逃げる事は出来なくなったぞ! あとはしらみ潰しに王都中の家を改めて犯人を捜すのだ!」


 とんでもない暴挙だった。

 そんな真似をすれば市民感情は最悪だ。

 そんなアホな行為をどうやってごまかせば良いのか、メルクは自分の脇腹から馬上槍で刺される様な痛みをひしひしと感じたのだった。


 ◇


「何?」


 男は自分の耳を疑った。


「だから、王都に非常線が張られたんだ。町の各所にバリケードが張られて王都の区画間の行き来が出来なくなってるんだ!」


 食料の買い出しから戻って来た男が町で起こっている異常な状況を説明する。

 男も何が起こっているのか理解できず、混乱している様だった。


「なんだそれは⁉ 戦争でも起きたのか⁉」


 男達は困惑した。

 いったいこの王都で何が起きているのかと。

 彼らは気付いていない。この異常な状況が、自分達を捕まえる為だけに行われた作戦行為である事に。


「まさか俺達を捕まえる為に⁉」


「まさか! 自分の部下に盗ませた品を取り返すのにこんなハデな真似をするバカが居るものか!」


 居るのである。


「くそ、こうなったら夜の闇に乗じて王都から逃げるしかあるまい!」


「うかつな行動を起こすな! 今は潜伏して待つしかない」


「だがもしもここに役人が来たらどうする!?」


「大丈夫だ。俺は祖父の代からこの町で暮らしているんだ。誰も俺がスパイだなんて思いやしないさ」


 そう、男の片割れは王都に根付いた隣国のスパイだった。ひっそりと王都で暮らし、町の人々の噂や商人の話、役人や貴族達の会話を集めて得られた情報を隣国のスパイに与える役割を担っていたのだ。

 そして、今回の様なケースで仲間を匿う役目も。


 だが……


「テンド騎士団である! 凶悪な犯罪者がこの辺りに逃げ込んだとの通報を受けた! 家を改めさせて貰う!」


「「っっっっっっ!?」」


 ここに、王都を震撼させた大封鎖事件の幕があがる。

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