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第78話  魔物食堂【迷宮屋】

 真新しい建物の中は人でごった返していた。

 店内のテーブルは決して少なくないものの、やって来た客の数が多すぎてとても席が足らないのだ。


 その中の一席に座った男がメニューを見て店員を呼ぶ。


「ミミック鍋を頼もうか」


「かしこまりました!」


 ここは鍋料理屋ダンジョン亭。

 世界でも珍しい新鮮なミミック鍋を食べる事の出来る店だった。


「ミミック鍋入りましたー!」


「はいミミック鍋ー!」


 注文を受けた厨房から、奥の部屋に若い店員が走る。

 店の奥には階段があり、その奥は真っ暗な空間が広がっていた。

 そして店員が真っ暗な空間に向かって声を上げる。


「ゼルドさん、ミミック鍋入りました!」


 すると階段の奥から声が聞こえて来た。


「承知した」


 ライズの従魔であるゼルドの声だ。

 ゼルドは床に綺麗に並べられた蓋のついた鉄製の鍋に近づくと、包丁を蓋に開けられたスリット状の溝に突き刺してゆく。

 すると鍋から断末魔の絶叫が聞こえ、ガタンガタンと数度震えたところで動かなくなった。

 ゼルドは念の為、数か所ある蓋のスロットに包丁を突き刺して、本当に死んだのかを確認する。

 まれに死んだ振りをしているミミックが居るからだ。

 そう。この鍋こそはライズによって養殖する事となったミミックであり、ゼルドはその専属下ごしらえ役としてこの地下室でミミックを育て、そして仕込みをしていた。

 ちなみに交代制である。


 ライズ達によって養殖が開始されたミミックは、当初繁殖に成功するのに長い時間がかかるかと思われた。

 だがミミックは魔物だけあってその飼育は非常に容易であり、餌を与えればかってに育つ事が分かった。


 その割に迷宮内でミミックを見つける機会が少ない事に疑問を持たれたが、その答えは以外にも簡単に判明した。

 ミミックはヤドカリ型の住みかとする殻を必要とする魔物だ。

 だがそれは逆に言えば殻が無ければその体は非常に脆弱であるという事でもあった。

 そんな訳で、迷宮でミミックと遭遇する機会が少ないのは、ミミックが殻を得る前に外敵の餌になってしまうからだと推測された。

 その理由として挙げられるのが、ミミックが卵を産むと、非常に沢山の稚魚ならぬ稚ミミックが生まれる事である。

 ミミックは一度の出産で数百匹の稚ミミックを産む。そして生まれて即親元から追い出され、自分の殻を探しに旅に出るのだ。

 だがダンジョンは厳しい。この限られた環境では殻となるモノは限られ、数少ない殻は兄弟同士で奪い合う為、殻を得られない稚ミミックは多く、その大半が次の殻候補を見つける前に外敵に食われて短い一生を終えていたのだ。

 

 という経緯から、ライズはミミック用の殻を大量に生産させた。

 そして完成させた殻を地下室においておけば、勝手に稚ミミックが殻である鍋に入る。

 そしてその殻をそのまま利用してミミック鍋を作り、使い終わった鍋を洗って再利用する事で再び新たなミミックの巣として活用したのである。


「しかし人間の食への執念は凄まじいな」


 ゼルドはミミックの鍋の蓋に開いたスリットを見つめる。

 このスリットはより効率的なミミック鍋の為に開けられた穴だ。

 ミミックは蓋を開けると鋭い牙で襲い掛かってくる待ちの魔物だ。


 蓋を開けるという事は至近距離まで近づくという事だし、蓋を開ける為にしゃがみ込んでいるので回避は困難である。

 その為、ライズは蓋を開けなくてもミミックを仕込めるように包丁を刺す穴を開けて欲しいと鍛冶屋に依頼した。

 偶然にもその穴は鍋にする際の蒸気を逃す穴となり、調理にも利用できると言う副産物的な効果を発揮する事になったりもしたのだが。


 ゼルドは完全に事切れたミミックの蓋をあけ、中の牙をナイフでくりぬき、水を入れてから傍にあった竈に声をかける。


「サラマンダー、頼む」


「シャー!」


 すると竈の火の中から、炎のトカゲが飛び出してミミック鍋の下へともぐりこんだ。

 ライズの従魔、炎の魔物サラマンダーである。

 そしてライズが作らせたミミックの殻の下側には、4脚の足が付いており、下に隙間が出来るようになっていた。

 これはサラマンダーが真下で火を起こして即座に鍋を暖める事が出来る様にだ。

 これならば竈要らず。徹底的に効率を重視して作られたミミックの生簀と言っても過言ではないミミックの殻であった。


 グツグツとミミック鍋から湯が煮立つ音が聞こえてくる。

 炎を自在に操るサラマンダーにとって、弱火も強火も思いのままだ。

 鍋の熱から最適な温度を自分で判断してサラマンダーはミミック鍋を煮込んでいった。


 ◇


「出来たぞ」


 地下からゼルドがミミック鍋を持って上がってくる。

 そして厨房のテーブルの上に置くとそれを店員が持って店内へと運んでいった。

 

「お疲れさん!」


 厨房の料理人がゼルドにねぎらいの言葉をかける。

 彼はこの町の小料理屋の二代目であり、ライズからミミック鍋の店を開く相談を受けた際に店主から修行の為に送り出されてきた料理人だった。


 ミミック鍋はミミックを煮込むだけの簡単な料理なので料理人の相談など不要であるが、ライズとしては町の料理屋の縄張りを踏み荒らす事を良しとしなかった。

 その為町の商売ギルドに仲介を頼んで料理屋を営む店に協力を申し出たのだ。

 ミミック鍋以外の料理も商品にしたいのでウチで働きたいものは居ないかと。


 デクスシの町は決して小さくはないが大きくも無い。となれば当然店の二代目になり損ねた次男や三男は厨房の手伝いや他の大きな町の店の丁稚になるくらいしか仕事が無い為、厨房を負かされる事などありえない。

 そこにライズという厨房を自由に使っていいというオーナーが現れたので、彼等はこぞってライズの下にやって来た。

 既存の料理屋にしても、自分達の息子が独り立ちできる可能性が増えるので、ライズを排除する必要性が減り、結果互いの共存が成り立つのだった。


 余談までに言えば、町の新たな名物となったミミック鍋を食べに来た旅人が満員で入れず、腹が減って我慢できなくなって他の店に食べに来るようになったので、実際のところ店の売り上げは上がっており、むしろ料理屋の店主達はライズ様々で彼が店を開いた副産物の恩恵にあずかっていたのだった。

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