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第76話 モツ鍋と養殖

「我は何をしているのだろうか?」


 リザードマンのゼルドは、遺跡の地下に広がる迷宮の中でなぜかモツ鍋を食べていた。


「ミミックの内臓は腐りやすいから、食べるなら早く火にかける必要があるんだ」


 とはライズの言葉である。


「そうですよー。ミミックのモツは直ぐ傷むうえに氷結魔法で凍らせたり冷やしたりすると味がものすごく劣化するので、食べるなら迷宮の中で食べなければいけないんです。こんなに新鮮なミミックを初めての迷宮で食べれるゼルドさんは幸せ者ですよ!」


 と、ホクホク顔でモツ鍋を食べるラミア。


「そ、そうなのか……」


 なんとなく腑に落ちない感じでモツ鍋を食べるゼルド。


(美味いのがまた理不尽だ)


「ミミック鍋のあまりの美味さにミミックを食べる為だけに護衛を雇って迷宮に潜る美食家もいるくらいだからなー」


「ミミックは栄養満点ですしね!」


 他の魔物達もうれしそうにモツ鍋の入った皿をキレイにしてゆく。


(妙に連携が取れていたと思ったら、こういう事だったのか)


 同じ主に仕えているとはいえ、基本魔物は多種族とはつるまない。

 ミミックを討伐する際の手際があまりにも良かった理由が、モツ鍋食べたさにあったと理解してゼルドは戦士としてのプライドが納得するのを拒むのを感じていた。


(ああ、だがしかし美味い! 難しい事を考えるのは後にしよう! それが良い!)


 ミミックのモツ鍋の美味さに戦士のプライドが屈服しかけたゼルドは、食事に集中する事でプライドが敗北する事を回避した。

 

 ◇


「さて、モツ鍋で英気も養えた事だし、奥へ向かうか」


 食事を終えたライズ達は食器を片付けて探索を再会する。


「だが主よ、ここにはミミックしか居なかったぞ? 見た感じ奥へ続く通路も存在しない」


 ゼルドの言うとおり、部屋の中には空っぽになった宝箱以外何もない。


「いや、ミミックがあったという事はこの部屋には何かある可能性が高い」


「そうなのか?」


 ライズは足元の床を触りながら室内の移動を始め、ラミアは身体を伸ばして壁の上の方を手で探る。

 ブラックドッグは鼻を鳴らしながらウロウロと歩き、ラージスパイダー達は天上に張り付いて上を調べていた。


「ミミックは侵入者を襲う為のダミーとして用意されるのが常だけど、本命を隠す為のオトリとして使われる事も多いんだ……ほらあった」


 床を探っていたライズがニヤリと笑うと、床石の隙間にナイフを差し込む。

 そしてテコの原理で床石を押し上げ、ラミアがその石を持ち上げる。

 床石を外された部分をサラマンダーが照らすと、そこには1つのスイッチがあった。


「スイッチはゼルドさんが押しますので、ライズ様達は外にでていてください」


「え? 我が押すの?」


 さらりと危険な役を押し付けられるゼルド。

 魔物達が次々と室外に避難していく。


(これは戦士の仕事なのか? これ自体罠の危険はないのか? いや、戦士である以上危険には率先して飛び込んでいって主を守る事も我の指名である筈だ!)


 強引な理屈で自分を納得させたゼルドは意を決してスイッチを押す。

 するとガゴンという音がして部屋の奥の壁が開き始めた。


「……ふぅ」


 罠がなかった事に安堵するゼルドであった。


 ◇


「こりゃ凄い」


 通路の更なる奥、隠し部屋に入ったライズ達を待っていたのは一面の宝箱であった。


「これ、もしかして全部ミミックかな?」


 ライズがじゅるりと涎を垂らす。


「熱を感じます。全てがミミックと思われます」


 というラミアもそわそわとしながら周囲を見回していた。

 他の魔物達にいたってはいそいそと食器の準備を始めている。


「これが全て先ほどのミミックという魔物か」


 先ほどの美味を思い出して思わず喉を鳴らすゼルド。


「しかしアレだな。これだけ居ればミミックの牧場が出来るのではないか?」


「「え?」」


 きょとんとした目でゼルドを見るライズとラミア。


「いや、一匹では増やせないが、これだけ居るのなら大量のミミックを繁殖させられるのではないか? 人間はそういうのが得意だろう?」


「……」


「……」


 突然無言になるライズとラミア。


「ど、どうしたのだ?」


 突然黙りこくった二人に困惑するゼルド。


「「ゼルドくん!」さん!」


 ライズとラミアが同時に口を開く。


「う、うむ!?」


「「素晴らしいアイデアだ!」です!!」


「まさかミミックを養殖しようとはな」


「確かにミミックも生き物ですものね。増やして食べる、確かにその考えはありです!」


 ライズとラミアが激しく盛り上がる。


「よし、そうと決まればミミックを運び出すぞ! ラージスパイダー達はミミックの口が開かない様に糸でグルグル巻きにしてくれ!」


 ラージスパイダー達が前足を上げて任せろとポーズをとる。


「う、うむぅ……」


 本来の目的そっちのけではしゃぎ始めたライズ達に呆れていたゼルドだったが、そんな彼の背中を誰かがぽんと叩いた。


「ぬ?」


 肩を叩いたのはブラックドッグとサラマンダーだった。


「ワウ!」


「シャー!」


 人の言葉で語り合う事の出来ぬ彼等だったが、なぜかゼルドには彼等が「お前結構やるな」と言われている気持ちになった。

 いまこの瞬間から、ゼルドはライズ達の仲間として真に認められたのであった。


「あら?」


 とそこで、宝箱を運ぼうとしたラミアが声を上げる。


「どうしたラミア?」


「いえ、この宝箱ミミックじゃないみたいです」


 そういって宝箱を開くラミア。

 その中に入っていたのは、1つの宝石だった。


「これは……」


 その宝石は普通の宝石よりも大きく、そして何よりも内側からあふれ出る邪悪な気配が特徴的であった。

 そう、ライズ達が捜し求めていた悪魔の力を封じる術宝の宝石である。

 遂に彼等は捜し求めていた術宝を手に入れたのであった。


「あー、一緒に運んどいてくれ」


「はーい」


 だが高級食材を発見したライズ達は、その成果を軽く流してミミックの搬送に専念するのであった。


「……それが本来の目的ではなかったのか?」


 しかし、ミミック牧場に夢をはせる彼等の耳には、ゼルドの言葉は欠片ほども届かなかったのであった。

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