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第66話 再会

「もうそろそろ件の村かしら」


 再び谷の村が近づいてきたところで、レティが呟く。


「ああ、あの岩場を超えたら村が見えてくるよ」


 ライズは記憶に残る岩場での出来事を思い出しながらそれに答える。

 今回の宝石の件をレティに話したところ、レティが騎士団の一員として村へ同行したいと言い出したからだ。


「悪魔が絡んでいるのなら騎士団としても放置して置けないし、私がこの町に残るのもライズの保護の為。仕事で行く訳じゃないのなら私も同行するわ」


 との事だった。


「あ、見えてきましたよ!」


 クラーケンの食腕の先に乗ったカーラが声をあげる。

 その視線の先には、淡い結界の光に包まれた幻想的な村の姿があった。


 ◇


「ようこそおいでくださいましたライズ様」


 出迎えにやって来たカーラの母タトミがライズに深々と頭を下げる。

 タトミだけではない、出迎えに同行した村の住人達が全員ライズに向かって頭を下げてきたのだ。


「いや止めてくださいよ、そんな頭を下げられたら困りますって」


 慌ててライズがタトミ達に頭を上げる様に言う。


「何をおっしゃいますやら。ライズ様は神官様の命の恩人、ひいてはこの村の恩人でございます」


 カーラと話している時からは考えられないほど丁寧な口調でライズに話しかけるタトミ。


「我々一同、ライズ様には心から感謝しております」


 頭を下げたまま、村人達が感謝の言葉を述べてくる。


「分かりましたから、頭を上げてくださいって」


「承知致しました。それではライズ様はこの奥へ。魔物の方には申し訳ありませんが、神官様の結界がありますので皆さんはここでお待ちください」


「ラミア達はダメなんですか?」


 結界と聞いてライズはタトミに質問する。

 通常の結界は魔物などの人にとって害となる存在が入れないようにする半ば物理的な守りだ。

 だが神官が作り出すのは邪悪な意思を持つ者だけをさえぎる霊的結界が普通だ。

 だとすれば邪悪な意思を持たないライズの従魔達が結界にはじかれるとは思えなかったのだ。


「この村の結界は神官様の特別な結界でして。封印した悪魔を外に出さない為、また悪魔の封印を解こうと考える邪な者の企みを阻止する事を目的としておりますので、本人に悪意が無い存在でも入れない様になっているのです。魔物には人間の様に善悪の概念のない獣の如き存在も多いですから。彼等がそういった魔物を操って村を襲えないように魔物が入れない様になっているのです」


(成る程そういう事ね。あまり理解したくないけど理解したよ)


 ライズは苦い思いを胸の奥に潜ませてタトミの言葉を理解する。

 人間は職業に関わらずその心のありようで善にも悪にも転がる。

 しかし善でも悪でも職業が特別印象に残る事はそうそう無い。

 正義の騎士や神官がいれば、権力に凝り固まり正義の顔で人を騙す者も少なくないからだ。

 人の良い商人もいれば、悪徳商人も居る。およそあらゆる職業に善と悪の側面があった。


 しかし、これが希少職業だと話は変わってくる。

 数の少ない職業の者が、それも特性が珍しい者ならば尚更善か悪かに偏った時に見たものにインパクトを与えるからだ。

 魔物使いもまた然り。

 もともと魔物には人間を襲う者が多い。

 というか、人間に敵意を見せた事がある者や、人間とは違う形をした存在は軒並み魔物にカウントされるのが現状だ。

 エルフやドワーフの様に人間とほぼ同じ外見的特長をした者以外はほぼ魔物扱いの状況では魔物使いは人間を襲う恐ろしい存在を使役する存在と認識される。

 そしてそんな魔物使いが悪行に手を染めれば、魔物使いという職業に悪印象が付くのは言うまでもない。

 数が少ないから悪い印象ばかりが目立ってしまうのだ。

 

 その為、ミティックが村を守る為に張った結界は邪悪な魔物使いの襲撃を警戒して魔物避けの効果をもたらしたと見える。 


「承知しました」


「申し訳ありません。それと亜人の方にどれだけ影響があるか分かりませんので、亜人の方も結界には触れられない方が宜しいかと」


 申し訳なさそうに謝罪をしてくるタトミ。


「お気になさらずに。私達はここで待っておりますので。レティ様、ライズ様をよろしくお願い致します」


 ラミアは傷つくでもなく怒るでもなく笑顔で受け入れ、レティに後の事を頼む。


「分かったわ。村の中では私がライズを守る」


 レティが笑顔でラミアの頼みを受け入れる。


「あら、貴方様は?」


 レティの姿に気付いたタトミが問いかける。


「初めまして、テンド王国騎士団所属、レティシア=マクミランです」


 レティはタトミに対して丁寧に礼をする。

 鎧こそ纏っていないものの、その立ち振る舞いは凛としており、騎士の名乗り相応しいものだった。


「まぁ、これは失礼致しました。わたしはタトミ、この村の神官様の補佐をしております」


 タトミもまた慌てる事無くレティにお辞儀をする。ここで慌てる事が無いのが彼女の培ってきた経験ゆえの安定感なのだろう。まさに年の功である。


「では皆さんこちらへ。ほらあんた達! お客様のお荷物をお持ちしな!」


「「「「は、はい!!」」」」


 タトミに呼ばれて、若い男達が前へ出てくる。


「お、お荷物をお持ちします」


 男達が荷物を受け取る為にクラーケンの足元までくるのだが、その動きが妙な事にライズは疑問を抱いた。

 なぜか若者の一人がライズから顔を隠そうとしているかのようなそぶりを見せたからだ。


「んん?」


 なんとなくその動作が気になってライズは若者の顔を見ようとする。

 すると若者もそれの合わせて顔を背ける。


「ハーピー」


「はーい!」


 ライズの呼び声にしたがってハーピーが真上から降りてくる。


「何々ライズ様ー!」


「うわっ!」


 突然真上から人が振ってきた事に驚いて尻餅をつく若者。

 その弾みで隠していた顔が明らかになる。


「お、お前は!?」


 若者は慌てて手で顔を覆うが時既に遅かった。


「し、しまった!」


 ライズは驚きで目を丸くする。

 この人物がこんなところに居る事に驚きを隠せなかったからだ。


「あんた、エディルさんじゃないか!」


「くぅ!」


 ライズの言うとおり、尻餅をついたまま悔しげな声を上げたのは、聖騎士隊の団長、エディル=ロウその人であった。

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