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第63話 泥棒さんいらっしゃい

「すいませーん、憲兵さん居ますかー?」


 気の抜けた呼び声に憲兵舎から憲兵が現れる。


「おやライズさん、どうしました?」


 憲兵舎にやってきたのはライズであった。


「新しいのを入荷したんで連れてきました」


 そう言ってライズは後ろに控えていたモノを見せる。


「またですか。最近多いですね」


 うんざりした様子でソレを見る憲兵。

 ライズの入荷したというソレは人間だった。

 正しくは身体を縄でグルグル巻きにされた人男達だ。


「罪状はいつも通り敷地内への不法侵入と暴行罪、それに窃盗罪で良いですか?」


「ええ、それでお願いします。保釈金は彼等の所有物一式という事で」


 慣れた手つきで書類に男達の罪状を記載してゆく憲兵。

 そう、彼等は泥棒だった。

 具体的に言えば、ライズの牧場で暮らす魔物の素材を盗みにやって来た冒険者達だった。


「誤解だよ! 俺達はここに魔物が住み付いたから退治して欲しいって頼まれたんだ!」


 冒険者が自身の身の潔白を訴える。


「はいはい、それは嘘だってのは他の冒険者を捕まえた時に聞いてるから。だいたい、ライズさん家の牧場は柵が掛かってるから、私有地だってのは分かるだろう? なかったというのなら、何処から入ったのか見聞させて貰う事になるよ? それに依頼主の名前は? 容姿は? 依頼を受けたのなら報酬を受けとる為の待ち合わせ場所があるよね?」


「……」


 何度も繰り返したかのようにスラスラと否定と質問の言葉を告げる憲兵に対し、冒険者は何も言えなくなってしまう。


「君達がドラゴンを従える魔物使いの住む町に行けば、魔物素材を盗み放題だという話を偶然聞いたというのは既に分かっているんだ」


 そう、今デクスシの町にはライズが従える魔物の素材を狙って多くの冒険者達が集ってきていた。

 何故か皆一様に偶然ライズが多くの魔物を従えている事、その中に伝説のドラゴンが居るという話を聞いたのだと言う。

 そして相手は魔物なのだから、地面に落ちている素材を手に入れてもなんら問題はないだろうと言われたのだそうだ。


 最小限の危険でドラゴンの素材が手に入るかもしれない、そんな夢みたいな話を誰が信じるのだろうか?

 普通なら町の隣にドラゴンが暮らしていてその素材を取り放題などという馬鹿馬鹿しい話を信じるものは居ない。


 だが残念な事に、冒険者達がその噂を信じるに足る1つの事実があった。

 デクスシの町では、ドラゴンが馬車として働いているという噂だ。

 一見眉唾物の話だが、多くの旅商人達がソレは事実だと、自分もドラゴン馬車に乗ったと告げた。

 高額な乗車料が掛かるらしく、証言をするのは一定以上の稼ぎを出す大商人ばかりだったのが話の信憑性に拍車をかけた。


 人を乗せるほどにおとなしいドラゴンが相手ならば、寝ている間に鱗を剥がすくらい出来るのではないか? と。


 結果、職業を問わない多くの人々が一攫千金を夢見て夜のデクスシの町に集ったのだった。


「迷惑料として君達の私物は全て彼へ支払う。その後彼が町の質屋に不用品を売り払うから、取り戻したいなら働いて返済するんだね」


「そりゃあ横暴ってもんだろ! 何の権利があってそこまでするんだ!」


 冒険者達が強気の抗議を訴えるが、憲兵は柳に風とばかりに受け流す。


「泥棒は鞭打ち100回、それに住民のペットへの暴行は家族への暴行と同列だから暴行罪で労働刑2年、そしてコレが一番重要なんだが、こちらのライズ氏は貴族なのでね、貴族家への侵入、盗難、暴行ときたらもう重罪は免れない。死罪か犯罪奴隷決定だ」


「なっ!?」


 ライズが貴族だと聞いて、冒険者達が目を丸くしてライズを見つめる。


「いやー、実はそうだったんですよ」


 一代限りの名誉貴族であると言う事は秘密にしてライズはうなずきを返す。


「き、貴族……」


「けどあまりにも最近泥棒が多くて。盗みに来た人達を全員死刑や奴隷にしてたらこの国から人が居なくなっちゃいますから、それなら持ち物を没収して労働の大切さを理解して貰おうという事にしました」


 ライズは子供に言い含めるように冒険者達に説明する。

 その優しい口調に薄ら寒いものを感じる冒険者達。


「そういう訳で、冒険者ギルドに通報はするが荷物の没収をしたら釈放だ。買い戻しの金が欲しい場合は冒険者ギルドで仕事を貰うといい。ああそうだ、この町で希少な魔物の素材を売り払う時は気をつけたほうが良い。ライズさんの家の魔物の物でないか目の肥えた鑑定人が詳しく調べるから」


 ニヤリと笑う憲兵に、ドラゴンの鱗を売れば直ぐに取り返せると甘いことを考えていた冒険者達が竦み上がるのだった。


 ◇


「本当に最近増えたよなぁ」


 いつも通り質屋に冒険者の装備を売り払ったライズは、呆れた様につぶやく。


「そうですね、あまりにも悪意のある人間が集りすぎています」


 売却に同行していたラミアがそれに同意する。


「彼等が偶然耳にした情報というのも気になるな。まるで誰かが俺の所に人を集めているとしか思えない。しかも悪意を込めて」


「ライズ様、最近恨みを買うような事をしましたか?」


 みもふたもない事質問をするラミア。


「うーん、どうだろうな? 軍人時代の関係者かなぁ?」


 戦争に参加していた以上、人から恨みを買わない保証もない。

 その為ライズは犯人の特定が出来ないでいた。


「まぁこうやって捕まった人間の身包みを剥いで追い出せば、噂が広がって盗みは割に合わないと理解してくれる様になるだろう」


「どうでしょう? 寧ろ逆効果なのでは?」


 楽観的なライズに対し、ラミアが疑問を呈する。


「逆効果?」


「はい、その場合、どれだけ失敗しても生きて帰る事が出来ると寧ろヤル気になる人が増えそうです」


「……」


 そうかもしれないと納得してしまい、ライズは無言になる。


「いっそ大々的に受け入れてしまってはどうでしょうか?」


「受け入れる?」


「はい!」


 泥棒を受け入れると聞いて、目を丸くするライズ。


「魔物の素材屋を営業するんです。ウチの魔物達の抜け毛や抜け鱗などいらない物を魔物素材として売れば十分な稼ぎになるのでは?」


「何と!?」


 これにはライズも目から鱗だった。

 そのアイデアはまさに脱帽物だった。不用品を売るという考えはあったが、身内から出た不要な素材を売るという考えには至らなかったのだ。


「あとは魔物と直接戦って素材を得るのもありですね。もちろんお互いに大怪我をしないように武器は刃を潰したりして危険を極力減らします。その場合は参加料を支払ってもらい、制限時間内に魔物の巣などから素材を盗み出し、入り口まで戻ってくる形式にしては如何でしょうか?」


「色々アイデアが出てくるなぁ」


「泥棒が減らないのなら、泥棒を客にしてしまった方が恨みも買いませんから」


 後々の事も考えてのラミアのアイデアに、ライズは深く感心した。


「となると、一番の目玉はドラゴンの抜け鱗って所か。戦いは面倒ってヤツも居るだろうから、敷地内で生活用のスペースと冒険者ごっこ用のスペースは分けた方が良いな」


「そうですね。ドライアドさんとか家を荒らすなって怒りそうですから」


 魔物に中には自らのテリトリーを荒らされる事を極度に嫌う魔物も多い。

 その為、ライズ達は慎重に敷地内の利用法を考案するのだった。


「よし、後は冒険者ギルドに話を通して情報をながしてもらおう」


「悪い噂を塗りつぶすんですね!」


「そういう事!」


 こうして、ライズの牧場に魔物素材を扱う新たな商品、『冒険者レース』が加わるのであった。

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