第59話 麗しの人?
「おのれライズ=テイマー! 我々の目を悉くかわしおって!」
ライズの弱みを握ろうと魔物達の監視を始めたエディル達だったが、事あるごとに失敗を繰り返していた。
「正直あの男はシロじゃないですか? 魔物達も普通に働いているだけですし、住民との関係も良好です。特に怪しいところはありませんよ」
副長の言葉に他の部下達もうんうんと頷く。
「それにこのままこの町に滞在し続けていても持ち合わせが無くなります。あと上を胡麻化すのもそろそろ限界かと」
正直なところ、副長の心配はそれだった。元々自分達が出陣した理由は悪魔退治の為だ。
それが空振りに終わり、疑惑の目を向けられたライズは本物のドラゴンを使役している事が確認出来た為、潔白を証明できた。
これ以上この町にいる理由が無いのである。
「ぐぬぬ……」
「帰りましょう隊長。確かにあの男は気に入りませんが、聞けば奴は元軍人。この町には騎士団の出張所がありますし、これ以上あの男に難癖をつけたら我々の宗派が騎士団と不仲になり、それが原因で騎士団に戦神の信徒達を蔓延らせる原因になりかねません」
この世界には複数の神が存在する。
それぞれの神はその権能によって特定の職業の人間達の守護神として信仰される事が多い。
大地母神なら農業、出産、鍛冶の神なら鍛冶屋といった具合にだ。
中にはその権能故に複数の神が特定の職業にとっての守護神となる場合がある。
特に有名なのが至高神と戦神だ。この二柱の神は神々の主神と戦いを司る神である為、戦いを生業とする職業に崇拝される事が多い。
そして戦いを生業とする職業の中でも、人の上に立って戦う事の多い騎士は特に至高神と戦神の信徒が多い。
その為どちらかの神の信徒が多いかによって、その騎士団での両宗派の発言力が大きく違ってくるのだ。
「しかしだな!」
尚もエディルは食い下がる。何が彼をそこまで意地にさせるのだろうか?
「このままではドライアド嬢があの男に手籠めにされてしまうではないか!」
これが理由であった。
いまだドライアドが魔物と気づいていないエディルは、ドライアドに好意を抱いていたのだ。
確かにドライアドはスカートの中の蔦を見なければ普通の人間である。
ライズの周囲に居る女性型の魔物で目立つのがラミアとハーピーである為、猶更ドライアドが魔物だと気づきにくかった様だ。
「けどですねぇ、それは理由になりませんよ隊長」
「だ、だったら我々が依頼するというのはどうだ⁉」
「依頼ですか?」
上司が妙な事を言い始めて首をかしげる副長。
「そうだ。ライズ=テイマーに依頼を出す。後ろ暗いところがないのなら、素直に依頼を受けて見事達成するだろう」
「まぁそうですね。それで、どんな依頼を出すんですか?」
単純に依頼を出すと言っても、その内容でライズが信用に値する人間かを見極めなければならない。時間も予算も有限なのだ。
「それを全員で考えるのだ!」
「まじか……」
上司のノープランっぷりに思わず脱力してしまう部下達だった。
◇
「護衛ですか?」
再びライズの事務所へとやって来たエディル達は、ライズに護衛の依頼を申し出た。
「うむ。我々の仕事は悪魔退治だけではない。不浄なアンデッドに悩まされる人間を救うのもまた我々の仕事だからな。ソレゆえ邪気を払い悪霊を退治する香の原料となる植物を必要とする。しかしその植物は普通の人間が入るには危険な魔物の領域にしか生えない。故に貴様に依頼をしよう。魔物の領域で我々の護衛が出来かつ目的の植物採取が可能な魔物だ」
「ふむ、戦闘能力と最終能力を併せ持った魔物ですか」
ライズは思案する。
「おっと予算と時間にも限りがあるからな、複数の魔物を雇う予算はないし足の遅い魔物もお断りだ」
(隊長意地悪いなぁ)
(戦闘が出来て移動も人間並みに早くて薬草の採取が出来る魔物を用意しろとか、冒険者でも雇った方が良いレベルの無茶振りだろ)
エディルの意地悪な依頼にさすがの部下達もライズを不憫に思う。
「分かりました。お引き受けしましょう」
(何っ!? そんな魔物が居るのか!?)
即答したライズに部下だけでなくエディル本人も驚く。
「う、うむそうか。で、どんな魔物なのだ? 弱い魔物では意味がないぞ?」
「頼めるか?」
ライズは事務所の中に居る一人の魔物に語りかける。
「承知致しましたライズ様」
ライズの声に応え、前に出てきたのは……
「あ、貴女は!?」
「私向けの仕事のようですわね」
彼女は真っ赤なスカートを翻して笑う。
「ドライアドさん!?」
そう、彼女こそ、エディルの思い人、ドライアドだった。




