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第53話 報酬が無い!

 ドラゴンの強襲と強引な力技によってライズは無事依頼を達成した。


「では報酬の宝石を頂いて帰るとしますか」


「そ、そうだな」


 約一名依頼主であるゼルドだけが納得いかなかったみたいだが、リザードマンの手で敵を倒し故郷を取り戻すという目的自体は果たされてしまった為に強くは言えないでいた。

 ここで文句を言おうとも、既に悪魔は倒されてしまった為にやり直しは聞かないからだ。


「我々の集落はこの先の岩場にある。付いてきてくれ」


 気を取り直したゼルドが先行してライズ達を案内する。


 ◇


 リザードマン達の集落は沼地の中にところどころある陸地を利用して家を建てられていた。

 家は始めから生えている木を大黒柱として利用し、そこに細い木や藁を継ぎ足して家の形にしていた。

 木材などは碌に加工されず、家の四辺の柱として使用され、藁を紐で結んでシート状にした物を柱に巻きつけて壁とし、束ねた藁を木に結んで屋根にしていた。

 そして壁の固定の為だろうか? 石と土で固められた枠が地上から30cmほど突き出して家を囲っており、更にその外側には深さ30cmほどの溝が掘られ、そこから四方に沼のほうへと溝が続いていた。


「珍しい建築様式だなぁ」


「私としては木をそのまま利用するやり方は好感が持てますわ」


 植物の魔物であるドライアドは木を切らないリザードマンの建築思想を好ましく感じたようである。


「けどあの溝はなんだ?」


「な、無いっ!」


 リザードマンの里を興味深く観察していたライズ達だったが、報酬の宝石を持ってこようと長の家へ入って行ったゼルドの叫び声が聞こえてきた。


「どうしたんだ?」


「なんだか嫌な予感がしますわね」


「とりあえず入ってみよう。どうしたんですかゼルドさん?」


 ライズ達が入ると、外から見えなかったリザードマン建築の全容が見えてくる。

 リザードマンの家は中を掘って下にスペースを確保しているらしく、木の生えている周辺の土はそのまま石と土で固められた階段で下へ降りる形となっていた。

 土壁の周囲には石や木が埋め込まれ、天然の棚となっている。


「こりゃあ面白い地面をそのまま建物の壁に見立てて作ってあるのか。外側の枠は浸水防止って訳だな。そんであの溝は水を沼地に流し込む為ものものか」


 中を見た事で、そとの構造の意味を知るライズ。

 魔物使いである彼は、魔物達の独特の知識や技術にも興味津々であった。


「それよりも依頼主ですわご主人様」


「おっとそうだった」


「どうしたんですかゼルドさん!?」


 ライズ達が底に降りると、ゲルドが柱である木の向こうにある土棚の中を必死にあさっていた。


「無い、無い! 宝石が無い~っ!!」


「マジかよ」


 ゼルドの言葉から、何があったのかを大体察したライズがため息を吐く。


「い、いかん! これではライズ殿に報酬が支払えないではないか! 一体どうすれば!」


 しかし当のゼルドは焦るあまりライズ達の事に気が付いていないみたいだった。


「ゼルドさん、ゼルドさん」


「何だ! 今忙し……こ、これはライズ殿!? 一体何用ですかな!? ほ、報酬はすぐにですな……」


「いや、宝石が見つからないんでしょう?」


「うぐっ!」


 どうやら今になって全てを聞かれていた事に気付いたらしい。


「こ、こうなれば!」


 ゼルダは突然立ち上がるとライズ達に向き直った。

 そのあまりにも鬼気迫った様子にドライアドがライズの前に出て彼をかばう。

 スカート状の花びらの隙間からは既に蔦が見え、いつでもゼルドを拘束する準備は出来ていた。


(まさか依頼を踏み倒すつもりか!? そりゃ確かにちょっと強引な解決方法だったけど、外にはドラゴンが居るんだぞ!?)


 ゼルドの身体が動く。


 ドライアドの蔦がゼルドを拘束すべく伸びるが、その行動は見事に空振りした。

 ドライアドの想定したゼルドの予測行動地点にゼルドはおらず、彼を見失ったからだ。


「っ!?」


 戦慄するドライアド。

 ライズと共に戦ってきたドライアドにとって、敵の攻撃予測を外した事などこれまで一度も無かったからだ。


「申し訳ありません!!」


 その声はドライアドの足元から聞こえてきた。

 瞬間、ドライアドはライズをかばうように抱えて己の蔦を地面に押し当て、自分達の体を斜め後方へと飛ばす。真後ろには柱である木があるからだ。


「……っな!?」


 そして、ドライアドは再び驚く事となる。

 ゼルドの追撃は無かった。ある筈が無かった。 

 なんと、ゼルドは土床の上で土下座をしていたのだ。


「え? 何?」


 突然の行動にドライアドは困惑する。


「申し訳ないライズ殿! 理由は分からぬが、我々が所有していた宝石が全て無くなっていたのだ! それ故に報酬が支払えなくなってしまった! 誠に申し訳ない!」


 ドライアドがゼルドの行動予測を間違えるはずである。

 彼は最初から戦いの為の行動など取っていなかったのだから。


「えーっと、あー、そりゃ困りましたね」


 内心で、ゼルドが依頼料を踏み倒すのではないかと焦ったライズは、素直に謝罪してきたゼルドに複雑な気持ちを抱く。


「本当に申し訳ない! 報酬は必ず支払うゆえ! どうかご容赦願いたい!」


「ふむ……」


 ゼルドの言葉にライズは考え込む。


(確かに報酬は無いが、リザードマンの宝石はもともとこの辺りで採れたものだ。となると、貰う筈だった今ある分よりもこれから採った物を報酬として貰った方が最終的には儲けになりそうだな)


 ライズはゼルドの性格から、後払いの報酬の方が本来支払われる筈だった量以上の宝石が支払われると判断した。


(ならここは後払いで報酬を支払う事を快諾した方が好印象を示せるな)


「分かりました。では報酬については今後宝石を採掘した際には、我々に本来支払う筈だった量になるまで支払い続けてもらうという事で」


「おお! ありがたい! 必ずや報酬は全額お支払いいたしますぞ!」


 後払いを受けて入れて貰えた事でゼルドが喜びの声をあげる。


「では支払いが完了するまでは、この俺がライズ殿の従魔となって槍働きを致しましょう!」


「「え?」」


 突然変な事を言い出すゼルド。


「人間の世界には担保というものがあるそうですな! 故に、長としての役目を一時辞退し、ライズ殿の従魔として働く事を約束致しましょう!」


「え、えーっと、それだとリザードマンの皆さんも困るんじゃないですかね。長が人間の従魔になるなんて問題でしょう」


「いえ! ライズ殿は我等の恩人です故! それにドラゴン様が忠義を尽くされるお方! なれば俺がライズ様に従うのは必定!!」


(や、やっべー! このままじゃ暑苦しいのがウチに入ってくるぞ)


 ライズも誰彼かまわず従魔にしている訳ではない。ちゃんとその能力や人格を考慮して勧誘しているのだ。

 まぁ中にはこのゼルドの様に押し売りよろしく従魔になる魔物も居たのだが。


「と、とりあえずソレは町に戻ってからにしましょうか。向こうに居る皆さんにも相談する必要があるでしょうし」


「ふむ、確かにそうですな。相談の必要などは無いでしょうが、一時的とはいえ、長が役目を降りるのですから、引継ぎは必要でしょう」

 

 ライズの言葉に納得するゼルド。


「では戻りましょうライズ殿!」


『ええから早くせんかい』


 家の外からドラゴンの呆れ声だけが響いたのだった。


  ◇


「承知致しましたゼルド様」


 結論から言えば、リザードマン達はゼルドの言葉に従った。

 一人の反対者も出ずにだ。


「ええと、良いんですかそれで? この人長ですよ?」


 困惑するライズに対しビヴォーダが首を振る。


「いえ、ライズ様の助力があったとはいえ、ゼルド様は我々が束になっても勝てなかった相手に一人勝利いたしました。それは長としてふさわしいお方に成長されたという証でございます」


「……そ、そうかもな」


 なぜか遠くを見ながら玉虫色の返事をするゼルド。

 実際の戦いはほとんどドラゴンに任せ、ドラゴンの手を押し付けただけで戦果を

譲り受けた事を言い出せない彼だった。


「なれば我等はゼルド様の決意を信じるだけでございます!」


「その通りです!」


「ゼルド様ばんざーい!!」


「お、お前等、そんな喜ぶ事じゃないぞ」


 罪悪感からゼルドが仲間達を嗜める。


「おお、何と謙虚な!」


「確かに、仲間達の多くが犠牲になった。彼等の事を考えれば喜んでばかりも居られないか」


「しかしそこまで思慮深くなられたとは、やはりゼルド様は新たな長に相応しい!」


「「「ゼルド様ばんざーい!」」」


「ああああ……」


 羞恥心と罪悪感で緑の鱗を真っ赤にするゼルド。

 後にジュジキの沼ではこの日をゼルドを称える戦士の日として語り継ぐ事になり、その度にゼルドを悶絶させる事になるのだった。

 ただ、そのお陰でゼルドは節度と謙虚さを覚え、より長らしくなった為、ますます仲間達に褒め称えられるという(本人にとっての)負のスパイラルへと突入する事となるのだった。


 ◇


 数日後。


「ライズさーん! 悪魔が出たと聞いて急いでやってきましたよー!」


 と、大声で事務所へ飛び込んできたのはかつてライズに仕事を依頼した少女カーラだった。


「私が来たからにはもう安心です! 神官様から賜ったこの魔封じの札で悪魔を封印して見せますから!」


 と自信満々に懐からよれよれになった札を取り出す。


「あ、もう悪魔は退治されたから」


 荷物を運びながらライズがさらりと答える。


「え?」


「もう悪魔の心配は無いから帰っていいよ」


「……ええ~~~~~~っ!? どういう事ですかそれーーーーー!!」


 せっかく来たのに何もする事が無いと聞いて激昂するカーラ。


(面倒くせぇなぁ……あ、そうだ)


「詳しい事は悪魔を倒した本人に聞いてくれ。ウィーユス河で魚取りをしているゼルドっていうリザードマンが悪魔を倒したから」


「わっかりました! ゼルドさんですね!」


 聞くや否や、カーラが店を飛び出していく。


「ふー、静かになったぜ」


 とそこでライズはふと1つの疑問を口にした。


「悪魔で思い出したが、結局報酬の宝石は何で無くなったんだろ?」

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