第46話 野戦病院
「こりゃあ酷いな」
ハーピーからの報告を受け、急いでデクスシの町に戻ってきたライズは、同様に戻ってきたリザードマン達の痛々しい姿を見てため息をついた。
リザードマン達は誰も彼もが負傷しており、川岸は野戦病院の様であった。
「おう、帰ってきたな旦那!」
と、そこにやって来たのはリザードマンの子供達の教師役を買ってでた巨大カニのカルキノスである。
「言いつけどおりガキ共の護衛をしてたら突然こいつ等が血まみれで帰ってきたからビックリしたぜ」
カルキノスが両のハサミを水平に倒した後、わずかに上に動かしてやれやれといったポーズをとる。へんに人間臭い動作である。
「一体何があったんだ?」
「そりゃあ決まってんだろ、故郷を取り戻しに行った連中がこんなになって帰って来たんだ。負けたんだよ。コイツ等は」
カルキノスはドライな様子で彼等が負傷して戻ってきた事を告げる。
この辺りのバッサリとした物言いは、彼がライズと共に戦場を駆け抜けた歴戦のカニである事が伺えると言う物だろう。
「詳しい事は同行した連中に聞いてくれや。オレはコイツ等の手当てをしないといけないからな。ユニコーンがヒーヒー言いながら重傷者の治療の真っ最中だから怪我の軽いヤツ等は俺等の仕事だ」
そう言ってカルキノスは血まみれになったリザードマンの包帯を切ると、器用に新しい包帯を巻いてハサミでカットし、包帯を結んで固定する。
「そうか、ユニコーンには後で礼を言わないとな」
「町の連中も手伝ってくれてる。冒険者ギルドのヤツ等が回復魔法使いを派遣してくれたからな」
「へぇ」
(冒険者ギルドのトロウの指示かな?)
ライズは彼の決断を評価した。
亜人とされる魔物を快くおもわない人間は少なくない。
彼等に悪印象を持つ者や、土地や財宝、生息地で得られる貴重な資源を狙う者なら間違いなくこのチャンスにリザードマンを根絶やしにするだろう。
しかしトロウはそんな千載一遇のチャンスを捨ててリザードマンに手を差し伸べた。
(まぁ完全な善意じゃなく、リザードマンに対する貸しを作る為だろうな)
だがそれも完全な正解ではなかった。
トロウがリザードマンに貸しを作ったのは、ライズが存在も大きかったからだ。
ライズは魔物使いであり、魔物や亜人に対する理解が深い。
更にはリザードマン達から子供達に狩りを教える依頼も受けていた。
つまりはリザードマン達に好意的に接していると周囲からは見えたわけである。
そしてライズはドラゴンを使役する魔物使い。
これまで付き合いでライズの人柄をある程度理解していたトロウは、リザードマン達を襲ったりしない限りは負傷した彼等を無視してもライズが町に敵対意思を持つ事は無いと確信していた。だが間違いなく悪印象は持たれるだろう。
だから彼はこう考えた。
リザードマンを保護すれば、彼等に貸しを作るついでにライズの町への好感度も上がるじゃないかと。
そう考えた彼は町長に許可を取りリザードマン達の治療と食料の援助を申し出たのだった。
◇
「おーい、調子はどうだ?」
牧場へと戻ってきたライズは、リザードマン達と共に向かった魔物達の下へとやってくる。
「おう、旦那か」
「まぁまぁだな」
彼等は蛇系の魔物のシーサーペントとミシガネビクだ。
シーサーペントは海を生息域にする巨大な蛇であり、ドラゴンの一種と認識される事もある。
ミシガネビクは湖などに住む大蛇の魔物で、最大の特徴は頭が馬と様々な色に輝く鱗だ。
ミシガネビクは水を浄化する力を持っており、その特性からユニコーンとも仲が良い。
ライズはリザードマンを輸送する際、悪路や細い水路であっても問題なく移動が可能な大蛇系の魔物達を優先して同行させる様に指示していた。
二人もまた負傷しており、その鱗が痛々しく剥がされたり破損していた。
「リザードマンの集落では一体何があったんだ?」
ライズは率直に状況の確認を始める。元軍人として情報は新鮮な内に入手して起きたいからだ。時間が掛かるにつれ記憶は曖昧になり情報の精度が薄れてしまうからだ。
ライズに求められたシーサーペント達は、リザードマンの集落で起きた出来事を話し始めるのだった。




