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第4話 営業開始!

追伸:7:01分に加筆修正版を再投稿いたしましたので、7:00に4話を見られた方はもう一度読み直すと追加エピソードが楽しめます。

「……暇だ」


 デクスシの町外れに何でも屋を開業してはや1週間。

 ライズは店舗である掘っ立て小屋に依頼主がやって来るのを待っていた。

 だが誰も来なかった。

 欠片もこなかった。


「何故だ! ちゃんと店が開店した事を宣伝したんだぞ! ラミアやユニコーンといったなるべく人間になじみのある外見の魔物を連れていって宣伝をしたというのに!!」


 確かに、ライズは温厚で見目麗しい魔物達を連れて町中を練り歩いた。

 ただ問題があったとすれば、それは1つ。

 重大な、とても重大な問題に彼は気付いていなかったのだ。


「あの、ライズ様?」


 と、そこにライズの従魔であるラミアがやって来る。


「どうした?」


 ラミアは半人半蛇の魔物であり、上半身が人間と同じ事から細かい仕事を自主的に手伝ってくれる有能な魔物だった。

 

「はい、町の方達は私達にどんな仕事を依頼すれば良いのか分からないのではないですか?」


「分からない? どういう意味だ?」


 ライズが首をかしげる。


「はい、 魔物のなんでも屋と言っても、魔物がどんな役に立つのかを町の方達は知らないのだと思います。普通の人間は町から出ませんから、魔物を深く知る機会が無いのだと」


「……そ、そうだったのか!?」


 ライズが驚愕に目を見開く。

 その答えは普段から魔物に近く、魔物の生態を知り尽くしているライズだからこそ理解の及ばない問題であった。

 マニアの常識は一般人にとっての非常識なのである。


「くっ! こうなったらもう一度宣伝しに町に向かうか!? 今度は魔物がどんな役に立つかを説明しながら!」


 仕方ないと腰を上げるライズ。


「いやー、それだけじゃダメみたいニャよ」


 と、そこで子供のような声がライズを制止する。


「ケットシーか」


 ライズが掘っ立て小屋の入り口を見ると、そこには二本足で立つ猫の姿があった。

 彼こそはケットシー、猫の妖精といわれる魔物である。


「町の情報を持ってきたニャ!」


 そう、彼は只の猫に扮して町の情報を探っていたのだ。


「おお、でかしたぞケットシー!」


「ニャッ!」


 ライズの言葉に誇らしげになるケットシー。


「それで、どんな情報を手に入れたの?」


 ラミアがケットシーを促す。


「ニャ、まずご主人の事ニャけど、町の住人からはかな~り胡散臭く見られてるニャ」


「胡散臭い……」


「大丈夫ですライズさま! 私達はライズ様がとてもお優しい方と知っておりますから!」


 はっきりと断言され落ち込むライズをラミアが励ます。


「ケットシー! 何か役立つ情報はないのですか!?」


 ラミアに促され、ケットシーが顔を手で洗いながら頷く。


「そうニャね、悩みを持っていた人間が何人か居たニャから、それとなく接触して悩みを解決するといいニャよ」


 このように普段ケットシーは、ライズに情報を渡す為に猫として数々の町で諜報活動を行なっていた。

 戦闘の役には立たない彼だが、その諜報能力ゆえに彼の命を救った事は一度や二度ではない。

 更に言えば、諜報用の魔物はケットシーだけではない。

 ケットシーはライズに何処の誰がどんな悩みを持っているのかを事細かに伝える。


「成る程、その悩みだとアイツ等が適任か」


 ライズは早速連れて行く魔物の選別を始める。


「あと、腰の痛いお婆ちゃん達がけっこういるから、ユニコーンは絶対連れて行くニャ」


「ああ、分かった」


 数分後、老婆達の相手をしろと告げられたユニコーンが悲鳴を上げたのはいうまでもない。


 ◆


 ざわざわと町の人々がどよめく。

 それは当然だ。今彼等の目の前には何体もの魔物が町を練り歩いているのだから。

 それは野生の魔物ではない、ライズの連れてきた従魔達だ。

 だがそれでも、町の中を魔物が歩いているのにはどうしても違和感が生まれる。

 ソレゆえに人々は彼等を遠巻きに見つめていた。


「どうも皆さん! 毎度おなじみ魔物の何でも屋モンスターズデリバリーです! 人間では困難な仕事を魔物にやらせてみませんか? 子守から畑の手入れまで色々できますよ! ラミアは木の上や屋根のような高い所での作業が得意ですし、ユニコーンは皆さんもご存知のとおり怪我や病気の治療ができます! トレントは花や野菜といった植物の悩み事を解決してくれますし、サハギンは魚取りが得意です!」 


 ライズはケットシーとラミアのアドバイスを生かして魔物達の得意な事を宣伝してゆく、勿論只闇雲に宣伝する訳ではない。

 ケットシーの言っていた悩み事のある人間が住んでいる場所を選んで宣伝する内容を調整していたのだ。


「お仕事をご希望でしたら、ぜひ町外れの当店までお越しください! 今なら開店祝いで今月いっぱいまでは半額でお仕事をお引き受けいたします!」


 半額と聞いて町の人々のどよめきが走る。


「半額だって?」


「半額なら一回くらい試しても良いかも」


「アレを頼んでみるかなぁ」


 半額という言葉に心を揺さぶられる人々。

 いつの時代も人は安売りに弱かった。


「まずは実際にお仕事を依頼してお試しください! モンスターズデリバリーをよろしくお願いいたします」


 宣伝内容を一通り言い終わると、ライズは最後の宣伝を声高に叫んだ。


「なお今日はユニコーンを連れてきていますので、病気の方、腰痛のお爺さんお婆さんは小銭を握り締めてぜひどうぞ!」


 腰痛と聴いて人ごみの中から小さな笑いが漏れる。


「あらあら、それじゃあお願いしようかねぇ。最近足が痛くてね」


 早速足を引きずった老婆が手を上げる。


「毎度ありがとうございます! 古傷ですか?」


「ええ、昔木から落ちちゃってね、それ以来足が痛む様になっちゃったのよ」


 そう言って老婆は脛に付いた傷跡を見せる。


「古傷ですと傷の元を治すには時間が経ちすぎていますので、完治は無理ですね。でもユニコーンに』治療してもらえば一週間は痛みを感じずに過ごせますよ」


 癒しの聖獣ユニコーンといえども、致命傷に等しい大怪我とふさがった傷の後遺症までは治せない。ユニコーンの治療は生命由来の力、自己の再生能力の増大を木曽としているからだ。


「あらまぁ、一週間も楽になれるなんてありがたいわぁ。アタシはいつ死ぬか分からないババァだものね。今だけでも楽にして頂戴な」


「分かりました。ユニコーン、やってくれ」


「……了解した」


 また今回も老婆達の治療をしなければならないのかとユニコーンが憂鬱げに頷く。

 ユニコーンの角に光が宿り、老婆の足に光が伝わってゆく。


「ああ、気持ちいいわぁ。ありがとうねお馬さん」


「馬ではない! ユニコーンだ!」


 ユニコーンが定例になったツッコミを老婆に叫ぶ。


「あらごめんなさい。ありがとうねユニコーンさん」


「う、うむ!」


 素直に言い直されてユニコーンが照れる。

 彼はツンデレなのかも知れない。


「おお、ユニコーさんじゃないかい。儂等もお願いして良いかのう」


「げっ!」


 ぞろぞろとやって来た老人達にユニコーンが青い顔をして呻く。


「ええ、どうぞ皆さん。今なら開店サービスで今月いっぱいまで古傷の治療は一回銅貨2枚です」


「あら安い!? そんなに安くて良いのかい?」

 

 最初に治療した老婆が驚きの声をあげる。


「ええ、今は開店サービス中ですので。特別にお安くしております。まずは皆さんに魔物がどう役に立つかを体験してもらおうと思いまして」


「銅貨二枚程度なら俺もやってもらおうかな、仕事中に怪我をしちゃってさ」


「私も水場仕事で手が荒れちゃってるし、お願いしようかな」


 老人達に釣られて、若い者達も次々と列に並んでゆく。


「……モ、モォーこうなったらヤケだ! 全員治療してやる! 主! 今日のニンジンは奮発してもらうぞ!!」


 牛のような雄叫びを上げながら自棄になったユニコーンが治療を開始する。

 だがこれだけの人が集まったのは、決して偶然ではない。

 事前にケットシーから情報を受け取ったライズは、人が集まる場所と時間、そして老人達がたむろする場所を意図的に選んでこの場に来たのだ。


 治療を必要とする老人達ならば、魔物であるユニコーンに対する嫌悪感や拒否感も少ないだろうと。

 そして町の人々にはそうした光景を見せる事で、一緒に連れてきたほかの魔物達にも慣れてもらえばよい。

 少々迂遠だが、しかし確実な近道ともいえる作戦だった。


「あー、お馬さんだー! 乗ってもいーい?」


 小さな少女が治療を行っているユニコーンの傍に寄ってくる。

 

「はっはっはー! 勿論良いぞ少女よ!」


 ただし些細なミスでその努力が瓦解するかもしれないという確信に近い懸念に襲われるライズ。


(頼むから本性を表してくれるなよぉ!)


 ちなみにユニコーンのロリコンはイエスロリータノータッチの精神なので直接危害を加える事は断じてない。

 彼等は紳士なのである。


「兄ちゃん、ちょっと良いかい?」


 と、そこでガタイの良い男性がライズに話しかけてくる。


「はい、何ですか?」


「いやな、仕事を依頼したいんだが」


 早速仕事の依頼を申し込んできた。


「はい、よろしいですよ! 今なら開店セールで依頼料は半額です!」


「ああ助かるぜ。いや大した仕事じゃないんだ。俺は大工なんだが、仕事で使う梯子が壊れちまってよ、今弟子に大急ぎで新しい梯子を作らせてるんだが、急ぎの仕事なんでその間、魔物に頼んで屋根の上と地上への乗り降りを手伝ってもらいたいんだよ」


「成る程、それならうってつけの魔物を連れてきていますよ」


「おお、ありがてぇ。早速頼むわ」


 大工は喜色の表情を見せながらライズに付いて来るよう促す。


 ◆


 ライズは大工に案内され、一軒の家の前へとやって来た。


「あそこの屋根が雨漏りするんで直してくれって頼まれたんだが、雲の様子がおかしいからよ、さっさと直してやりたいんだ」


「分かりました。ラミア、頼むぞ」


「はい、お任せください!」


 ライズの呼びかけにラミアが出てくる。


「では屋根の上までお運びしますね」


「お、おい、ちょっと待てよ」


 ラミアが出てきた事に大工が動揺する。


「運ぶのは俺だぜ? 幾ら魔物でも姉ちゃんじゃ俺を運ぶのは無理だろ」


 大工の言い分も最もだった。

 ラミアの下半身は蛇だが、上半身は華奢な女性のそれだ。

 しかもラミアの種族的な風俗習慣なのか、彼女の服は非常に面積が少なく、下着に近い衣装であった。

 当然大工の視線はラミアの豊かな胸に収束される。


「まぁまぁ、まずはお試しください。ラミア」


「はい! では後ろ失礼いたしますね」


 そういってラミアが後ろから大工を抱きしめる。


「ほぅっ!?」


 突然背中に押し付けられた幸せの山脈に大工が声を出してしまう。


「では行きます!」


 と、言うや否や、ラミアは下半身の蛇部分を木のように垂直に延ばして大工を上へと持ち上げる。


「お、おぉぉぉ!?」


 みるみる間に上ってゆく光景に大工が更に驚きの声をあげた。


「はい到着です!」


「お、おお……以外に力が強いんだな姉ちゃん」


「ええ、ラミアですから!」


 実はラミアという種族は見た目以上に筋力が高い。

 そもそも蛇の体はほぼ筋肉で構成されていると言うくらいにみっしりと筋肉で詰まっているのだから、ラミアがそうであってもおかしくはないのだ。


「どうですか? ラミアは役に立つでしょう?」


「お、おう! 柔らかいやら力強いやらで驚いたぜ!」


「はははっ!」


 思わず本音が出てしまったのは聞かなかった事にする。


「じゃあ悪いが姉ちゃん、仕事が終ったら下ろすのも頼むぜ」


「はい」


「親方! 俺達も運んでもらいたいです!」


 弟子らしき少年達がラミアを見ながら声をあげる。


「バカ野郎てめえ等はさっさと梯子を作りやがれ!」


 などと莫迦な会話が繰り広げられるが、その光景にライズは確かな手ごたえを感じていた。


 尚、梯子が直ったあとも、大工からたびたびラミアの出張依頼が来たのは余談である。

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