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第33話 新たなる仲間

 デクスシの町は大騒ぎだった。

 物見台から周囲を見張っていた兵士が、ウィーユス河方面からやってきた巨大な魔物の姿を発見したからだ。


「大魔の森の悪魔の次は巨大な魔物だと!?」


 冒険者ギルドの長であるトロウは、悪態をつきながら城壁を登る。

 そして道の向こうから向かってくる小山ほどもある巨体に驚愕した。


「なんだありゃ!?」


 端的に言えばソレはイカだった。

 非常に巨大なイカが、10本の足でこちらに向かってきていたのだ。


「どうしますかギルド長!?」


 近くにいた兵士達が動揺した様子でトロウに命令を求めてくる。

 いかに毎年繁殖期の魔物達と戦ってきた兵士達といっても、想定外の巨体が相手ではまともに戦えなかった。


「モンスターズデリバリーのライズ君を呼んで来い! それと手の空いている者達は待ちの住人を彼の事務所に避難させろ! 急いでやれ!」


「りょ、了解です!」


 かくして、本人のあずかり知らぬ場所で、ライズは町の進退を決める重要な役割を担わされていたのであった。


 ◇


「あれは……」


 トロウに呼び出されたライズとレティは、物見台の上から件の魔物の姿を見ていた。

 魔物は足こそ遅いものの、確実にこちらに近づいてくる。


「ライズくん、あれが件の魔物なんだが、何か分かる事はないかね?」


 トロウ達は至極真剣な顔で聞いているのだが、ライズは内心でいたずらがバレた子供の様な気まずい気分になっていた。


「あー、あの魔物はですねぇ」


「おお、何か知っているのかい!?」


「ねぇライズ、あれって……」


 レティがライズの耳元でささやく。

 ライズもまたレティの言いたい事は痛いほど理解していた。


(すっげぇ答えづらい)


 だが言わねばならない。言わなくてもどのみちバレてしまうのだから。


「アイツは……」


『見つけたぞ我が主よ!』


 しかし、ライズが答えるよりも前に、大きな声が遮る。


「な、何だ!?」


 突然の大声に、トロウ達は周囲を見回す。

 すると彼らが視線をさまよわせた先には、大きく手を振るイカの姿があった」


「……」


 トロウ達がライズを見る。


「ウチの従魔です」


 かくして、デクスシの町を震撼させた巨大イカ襲来事件はそっと幕を閉じたのであった。


 ◇


 牧場に戻ったライズの元には、複数の新たな魔物が集っていた。


『久しいな我が主よ』


「ああ、無事来れたみたいで安心したよ。クラーケン、それに皆も」


 巨大なイカの魔物ことクラーケンを始め、下半身が蛸の美女、頭が魚で背びれや耳ひれのついた半漁人、下半身が6等の犬の美少女、鯨のような胴体に犬の頭を持った獣とさまざまだ。


 町の住民達も新しい魔物に興味心身で遠巻きにライズ達を眺めていた。

 逃げ出さないあたり、ライズ達の存在になじんできたといえるのかもしれない。


「主様!」


 と、ライズに飛び込んできたのは、下半身が二股に分かれた魚の形をした女性だった。


「ああ。お会いしとうございました!」


 女性の声は非常に艶かしく、その声を聞いた周囲の人間達が蕩けた様な表情になる。


「ああ、セイレーンも久しぶりだね」


「ええ、主様に会いたくて会いたくて、毎夜枕を涙でぬらす日々でしたとも」


『まったく、もっと急げもっと急げとせっつかれてうるさいったらありゃせんかったわ』


 巨大イカがやれやれといったジェスチャーで触手を動かす。

 一見完全なイカなのに、妙に人間らしい動作がコミカルな印象を受ける。


「ですがこれでももう主様に寂しい思いをさせる事はありません! 今晩からはこの私がおそばに侍るのですから!」


 セイレーンは艶かしい声でライズに頬ずりをしながら添い寝宣言をする。


「その必要はありません」


 しかしそんなセイレーンを何者かが後ろから無理やり引っぺがす。


「ご主人様には私達がおりますわ」


「そうだよ!」


 そこに立っていたのは、ラミア、ドライアド、ハーピーの三人だった。

 なお、以前からいた魔物達は女の戦いに巻き込まれたくなくて避難済みである。


「あらあなた達ですか。今までライズ様のお世話役代理ご苦労様です。今日からは私がお世話役を交代いたしますわ」


 艶やかにそして自信に満ちた声でセイレーンは宣言する。

 そのあまりの美しい響きに、ラミアとハーピーがくらりと眩暈を覚える。

 周囲の人間達にいたってはあまりの美声に腰砕けになっている者すらいた。


「こ、声に魔力を乗せるなんて卑怯ですよ!」


「あら、これは私の基本的な能力ですので、ハーピーさんが翼で空を飛べるのと同じですよ」


 ラミアの抗議をセイレーンはしれっと受け流す。


「詭弁を。貴方の声は魔力を通さない事も出来るでしょうに」


 ドライアドが冷ややかにセイレーンをにらみつける。

 魔物でありながら精霊に近い存在であるドライアドは、セイレーンの放つ魔力のこもった声に対する耐性があった。その為彼女だけが無事だったのだ。


「まぁまぁ、喧嘩はそこまでだ。遠いところからようやく来てくれたんだから、まずはゆっくり休んでくれ。新しい住処を案内するよ」


「まぁ、主様自らのご案内とは恐縮です!」


 セイレーンがうれしそうにライズの腕に自分の腕を絡める。

 するとセイレーンの豊かな胸がライズの腕を埋めてゆく。

 彼の腕には柔らかな感触が押し付けられ、その耳元にはセイレーンの魔力のこもった吐息がかかる。


「んじゃ行こうか」


 しかしライズはどこ吹く風。セイレーンの男を堕とす必殺のツープラトン攻撃をあっさりと耐え切った。


(ああ、さすがは主様。私の声をこうも簡単に耐えしのぐなんて)


 セイレーンは歌で人を惑わす魔物である。

 そんな彼女にとって、自分の歌が通じないライズの存在とは、いわば筋骨隆々の美丈夫や知性に満ち溢れた才人に等しい存在であった。


 ◇


「コレで敷地内は一回りしたな。基本的に柵の中ならほかの魔物達に迷惑をかけない限り好きにして良いから」


 新しい魔物達の案内を追えたライズは、彼等に最後の注意だけを伝える。


『水場が足りんな』


 と、不機嫌そうな声を発したのは巨体の魔物クラーケンだ。

 ほかにも多くの巨体の魔物達が水場を求める声をあげる。


「ふむ、確かにお前達の為に大きな水場が必要か」


 後続でやってきた魔物達には水棲の魔物が多かった。

 彼らはその性質上、水がないと生きてはいけないのだ。


「そうだな、近く新しい土地を買ってそこに川から水を引くか。ソレまでは……」


『近くの川に住む。水場の準備が出来たら呼ぶがいい』


 そういってクラーケンは多くの魔物をその体に乗せてゆく。


「人間との戦いは自衛以外ご法度だから気をつけろよー」


 念の為、周辺住人との軋轢を生まない様に指示をするライズ。


『分かっている。だがリザードマンは知らんぞ』


「リザードマン?」


 ライズは突然リザードマンの名前を出された困惑する。


「この辺にリザードマンなんていない筈だが」


「ソレなのですが、上流からこの町を目指していたとき、川の中に多くのリザードマンが居たのです。そしてクラーケンに驚いたのか、彼らは我々に襲い掛かってきたのです」


 クラーケンの言葉をセイレーンが補足する。


「リザードマンって沼地に住む生き物だったような気がするんだが……」


 セイレーン達の報告に、ライズは新たな騒動の予感を感じるのだった。

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