表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/106

第29話 バエルの使徒

 それは、巨大なカエルだった。

 通常の魔物の何倍もの体躯、それを支える5mはあろうかと言う人の腕のような前足。そして頭部には王冠の様な物が生えていた。


「何だアレは!?」


 戦っていた冒険者達が困惑する。

 しかしその蛙は彼等の困惑を待ってはくれなかった。


 カエルは前足をゆっくりと真上に上げる。


「何だ? 何をするつもりだ?」


 何かを投げようとしている訳でもない、直接殴ろうにも周囲に敵は居ない。

 誰もがカエルの行動に戸惑っていた。


「全員そこから逃げろーっっっっ!!!」


 彼等が反応できたのは、ライズの叫び声のお陰だった。

 彼の切羽詰った声に体が無意識に反応したのだ。

 そして、カエルの両腕が消えた。

 否、真下に叩きつけられたのだ。

 次の瞬間、カエルは自らの腕が地面に叩きつけられた反動で宙に舞い上がった。

 そして迫り来る魔物達を軽々と飛び越えて城壁近くへと墜落する。

 近くに居た冒険者と志願兵達は、ライズの警告があった事でかろうじて回避に成功する。

 カエルは地面に落ちた後も丸い体ゆえに勢い良く転がり、城壁にぶつかった事でようやく止まる事が出来た。


「……」


「……」


「……」


 冒険者達は愕然とした顔でカエルを見ていた。

 カエルが現れた場所から城壁まで二百mはある。

 その距離をカエルは一瞬で飛び越えたのだ。


「……そ、そのカエルを再び飛ばせるなー!」


 最初に正気に戻ったのはレティだった。

 彼女が軍人として様々な想定外に遭遇していた経験があったお陰で、冒険者達も冷静さを取り戻してカエルに攻撃を開始する。


 長槍がカエルの体に何十本と突き刺さる。

 否、突き刺さったと思われた。

 だが、


「何っ!? 貫いていない!?」


 長槍はカエルのヌルヌルした体液に滑って刺さる事無く弾かれてしまったのだ。


「クソッ!」


 もう一度長い槍を突き刺そうと槍を構える冒険者。

 しかしカエルも二度の攻撃を許す事は無い。

 その巨大な腕を無造作に横に振ると、その腕に当たった冒険者達が軽々と吹き飛んでゆく。

 まるで小さな羽虫を振り払うかのごとき光景だ。


 カエルの登場によって戦況は一瞬で逆転した。


「カエルは魔法使いで対処しろ! 武器使いは魔物の押さえに回れ! 負傷者は中に撤退! 動けないヤツは運び込め! 魔物に食われるぞ!」


 トロウが即座に戦場に指揮を飛ばす。


「ライズ! あの魔物は何!? 弱点は!?」


 レティはカエルへの対抗策を考える為にライズに情報を要求する。

 だがライズはその情報には答える事が出来なかった。


「アレは魔物じゃない」


「え?」


 ライズの言葉が飲み込めなかったレティは疑問の声をあげる。

 アレはどう見ても魔物だろう、と。


「アレはバエルの使徒……魔物じゃなくて悪魔だよ」


「あ、悪魔!?」


 レティが驚愕に声を荒げる。


「バエルは人間とカエルと猫の頭を持つ悪魔の事だ。あらゆる欲を満たす力を持つといわれ、時に人間、カエル、猫のそれぞれの生き物として地上に現れるとも言われている。アイツはそのカエルの権能を持ったバエルの使いだ」


「つまりバエル本人なの!?」


 ライズの説明では理解できなかったレティが困惑する。


「バエル本人じゃない。バエルは上位悪魔だ。そんな悪魔を呼び出すには大量の質の良いいけにえが必要になる。アレはもっと自然発生的にこの世界に忍び込んだ眷族悪魔で、特殊な環境化にあった魔物の体を素体としてこの世界の肉体を得た存在だ。多分繁殖期で餌が無くなって共食いする程飢えた魔物達の負の感情をきっかけに出てきたんだろう」


「それで倒し方は!?」


 説明を理解するのを諦めたレティが解決法のみを要求する。

 その間にもカエルは冒険者や志願兵達を殴り飛ばしている。

 その光景は圧倒的で、とても相手にならない。

 それどころか周囲に居た魔物達までも巻き添えになって吹飛ばされているほどだ。


「上級神官の退魔の魔法かこの世界にとどまる為の肉体を破壊するかのどっちかだ!」


 弓と魔法が放たれる。

 だが矢は剣と同じで粘膜によって反らされ、魔法はカエルの持つ悪魔の魔法耐性でほとんど威力を発揮できなかった。


「上級神官なんて王都にしか居ないし! 攻撃も全然通用してないわ!」


 絶望的状況、そこに更に絶望が姿を現す。

 カエルが再び腕を真上に上げたのだ。


「全力で阻止しろ!」


 トロウが切羽詰った声で叫ぶ。

 次にカエルが飛ぶ先など一目瞭然だったからだ。

 魔物が狙う場所、それは食料が豊富な場所だ。


 つまりは、町の中。


 剣も槍も矢も魔法も効果を発揮しない。

 全て無力化される。

 カエルの両腕が消える。


「聖なる祝福を受けた装備を持っていなけりゃ、普通の人間に使徒を倒す事は出来ない」


 諦めとも思える言葉を吐き出すライズ。

 カエルの体が消えた。

 冒険者の、そして志願兵達の顔が絶望に染まる。

 

「普通の人間にはな」


 たった一人、絶望に染まっていない男以外は。

 

 轟音が轟いた。

 体が浮き上がるかと思う程の振動がその身を震わせた。

 皆、カエルが町の中に降り立った音だと、地面に埋まったカエルを見て思った。


「……」


「……」


「……え?」


 しかしここで、カエルは町の中に侵入したはずなのにカエルが居る事に違和感を感じた者が居た。


「な、なんでカエルがここに、地面に埋まっているんだ?」


 カエルはビクビクと前足を痙攣させたまま動かない。

 まるで誰かに思いっきり殴られたかの様な姿だ。

 だが誰にそんな事が出来るのであろうか?

 自分達の仲間を軽々と吹き飛ばしていた相手を誰が吹き飛ばせる?


 その時、地面が影に覆われた。

 空に雲がかかったのか?

 否、そうではない。

 音だ、音が否定したのだ。

 空からバッサバッサと大きな羽ばたきの音が自身が雲である事を否定したのだ。

 空を見上げた彼等はそれを理解した。

 空を見た魔物達が恐怖に身を固めた。


 そこに居たのは空の王者。

 そこに現れたのは絶対的捕食者。

 人を恐怖の底に叩き落す悪魔すらも恐怖に怯えさせる、この世界最強の存在。


「ドラゴンなら、悪魔だって倒せる」


 ライズの言葉をドラゴンが事実にする。

 ドラゴンが口を開き、その喉奥より濃密な魔力の本流をほとばしらせる。

 最強の攻撃、ドラゴンブレスが放たれた瞬間であった。

 ドラゴンの口から放たれた閃光は、悪魔もろとも魔物達を一網打尽とし、平原に長い長い道を生み出したのだった。

大魔の森編次回完結です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ