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第28話 秘密兵器

「投石器を出して!」


 レティの号令に従い、彼女の直属の部隊が、城壁に乗った大きな木製のからくりを動かす。

 そのからくりは塔のような形をしており、その頂点に斜めに立った大きな木の棒が付いていた。木の棒の片方は地面に当たっており、その先端にはスプーン上の凹みが掘られていた。

 そして反対側には何故か紐が何本も垂らされている。

兵士達が地面に付いている木の端の凹みに幾つもの袋を乗せると、反対側の紐の真下にライズの魔物達が立つ。

 全員が手を使える二足、もしくは4足歩行の魔物で、その見た目はお世辞にも早そうとは思えない重々しさだ。


「発射っ!」


 レティが叫ぶと、魔物達が一斉にジャンプして紐を掴む。

 そして重たい魔物がジャンプで届くギリギリの高さという事は、当然からくりの重心は魔物が飛びついた方向に偏る。

 すると紐が結ばれていた木の棒が傾き、シーソーの様に中心を軸にして倒れこんでくる。

 魔物は紐を掴んだまま地面に向かって落ちていき、棒の先端が地面にぶつかったのと同時に、反対側の溝に置かれた袋が勢いよく飛びだす。

 そして飛ばされた袋が敵陣に着弾すると、その衝撃で袋が破れ、中から何らかの粉がもうもうと巻き起こる。


 そして、その粉を魔物達が吸った事で戦場の様子が変わった。

 これまでは獣なりの理性で食糧を求め前進していた魔物達が、突然デタラメに暴れ始めたのだ。

 そして近くに居た魔物に噛み付き肉を喰らい、噛み付かれた魔物が攻撃を受けたと判断して反撃を行ない、更に攻撃を仕掛けた魔物は目の前の魔物を無視して別の魔物に噛み付き、次々に争いの連鎖が巻き起こっていく。


「おお、効いているぞ! 魔物達が同士討ちを始めた!」


 物見台からの報告で冒険者達から歓声が上がる。


「やっぱマタンゴの胞子は効くなぁ!」


「やられる側だとムカつくけどな!」


 冒険者達が同士討ちを始めた魔物達を見ながら楽しそうに笑う。

 魔物達が同士討ちを始めたのはライズが使役するマタンゴと呼ばれる魔物の胞子が原因だった。

 マタンゴの胞子には非常に強力な幻覚作用がある。

 ライズ達はその効果を利用して魔物達の同士討ちを狙ったのだ。

 食料を求めてやって来た魔物達は、マタンゴの胞子の効果で目の前の仲間達が食糧に見えている事だろう。

 そしてその光景を見た冒険者達が、かつて自分達も同じ様にマタンゴに痛い目にあわせられた事を思いだし苦笑する。

 なお、ここでは関係ないが、この粉を使った非合法な薬も色々と存在したりする。

 

「投石器第二弾撃って!」


 レティの号令で投石器に再び弾が装填される。

 しかし今度相談されたのは普通の岩だった。

 マタンゴは生き物である為に、その粉の生産量には限界があったからだ。

 そして投石器としては、ここからが本番であった。


「撃てー!」


 レティの指示に従い、何度も岩が放たれる。

 遠距離から放たれた岩は、強力な質量兵器であるだけでなく、着弾後は障害物にもなる。

 障害物は敵の進行を妨げる。同じ方向に放ち続ければ次第に障害物が積み重なってゆき、その方向からの襲撃が著しく困難になる。

 魔物の死体と投石器の岩を使った背の低い簡易城壁の作成、それがこの作戦の第二段階であった。


「敵、更に散開しました!」


 魔物達が新たに出来上がった簡易城壁を迂回して更に向かってくる。

 魔物達がだいぶ近づいてきた為、弓兵だけでは手が追いつかなくなる。


「槍部隊および魔物部隊出陣!」


 トロウの指示に従い、城壁の真下で待機していた熟練の冒険者達が弓を捨ててやりを構える。


「突撃!」


 冒険者達が最前線に居る魔物達に向かって突撃していくと、魔物達もまた冒険者達の存在に気が付き雄叫びを上げる。

 そして彼等に襲い掛かろうとした時、魔物達は自分達の身に起きた異変に気が付いた。

 足が動かないのだ。

 彼等の足は地面から伸びた蔓や蔦、それに木の根に固定されて歩く事が出来なくなっていた。

 不可思議な状況に困惑する魔物達。


「てりゃぁぁぁぁ!!!」


 そこに襲い掛かる長槍を構えた冒険者達。

 魔物も避けれないなりに反撃をしようとしたが、長槍の射程の前には自慢の爪も届かず。一方的に槍に攻撃されてしまう。

 そして瞬く間に全滅する魔物達。

 日ごろから魔物達との戦いを繰り返してきた冒険者にとって、動けない魔物との戦いは赤子の手を捻るような物だった。

 そして冒険者達は次の魔物に襲いかかってゆく。

 その魔物達も、突然足元に蔦が絡んで動けなくなり、冒険者達に切り殺されてゆく。


「順調ですわね」


「ああー」


 ふと近くに生えていた木々の中で声が聞える。

 そう、ライズの従魔であるドライアドとトレントだ。

 樹木を操る力を持った彼等は、己の眷属に命じて魔物達の足止めを命じた。

 攻撃に使うわけではなく、相手の動きを封じるために足に絡ませるだけの単純な植物操作は、驚くほど大きな効果を発揮した。

 通常の冒険者ならば、足止め程度の効果だが、熟練の冒険者にとっては僅かな隙であっても大きなチャンスに早変わりする。

 彼等の目立たない援護により、前線の敵は大幅に数を減らすのだった。


「もっと派手に活躍できると良いのですが」


 と、木々に隠れて援護をするドライアドがぼやく。


「しかたないー」


「分かっていますわ。私達の隠蔽能力は魔物が相手でも有効ですし、ご主人様は此度の戦いで私達魔物を全面に押し出して活躍させるのは危険だと判断して援護に徹すると決められたのですから」


 事実、ライズの魔物達は援護に爆撃にとその姿が目立たない活躍ばかりだった。

 これは戦場の目立つ所で活躍しすぎると、町の人間や冒険者達にもしもライズ達が敵に回ったら、恐ろしい事になるという潜在的不安を抱かせたくなかったからである。

 

 その為ライズは魔物達をサポートに回して魔物が役に立つという認識に止める事にしたのだ。

 勿論トロウ達実戦経験のある重役達はライズ達の有用性を理解し、これからも友好的な関係を維持する重要性を認識していたのだが。


 そして魔物のサポートはこの二匹だけではなかった。

 魔物達の中から、狼の雄叫びがあがる。

 ウェアウルフの雄叫びだ。

 彼等は闇雲に集団と共に攻撃しても餌を得る事が出来ないと判断した。

 その為、ノロマなほかの魔物を捨て、速度に特化した自分達だけで敵陣フカクに突入して餌を確保する事を選択したのだ。


 それはコレまでの考え無しに突撃してきた魔物達とは違う、知恵を使った先方だった。

 彼等の同胞である狼達が先行して走る。

 ウェアウルフは狼と行動を共にする。

 体の小さい狼等が敵に襲いかかり、小さく小回りに聞く体で獲物の足を止め、後ろから悠々自適とやってきたウェアウルフが止めを刺すのだ。

 その戦術を生かす為に狼達が冒険者に襲い掛かる。

 魔物避けの柵を回避する事無く、その下の隙間を狙って滑り込むように潜り抜ける。  

 そして狼の肉塊が地面に勢いよく転がってゆく。

 突然の光景にウェアウルフ達は何が起こったのか理解できなかった。

 だが数瞬の間を置いて仲間達が殺された事にようやく気付く。

 彼等は困惑した、只柵の下をくぐっただけだというのに、狼達は細切れの肉片とかしてしまったのだ。


 一体何が起こったのか? それを知る為に柵を念入りに調べたのならば、そこに細い糸が幾重にも張ってあった事に気付いた事だろう。

 この糸こそはライズの従魔であるアラクネの張った刃の糸、斬糸だ。

 アラクネは尻尾の先から複数の糸を吐く事が出来る。

 その中のひとつは、罠にかかった獲物が逃げ出そうとする動きで自ら怪我を負う斬糸だ。

 本来斬糸はそこまで恐ろしいものではない。

 逃げようとした時に体が傷ついて、手間を掛けないでもジワジワと失血死させたり、知恵を持った獲物が逃げる為に慎重に糸をはがそうと時間をかけざるを得なくする為のものであった。

 狼達が不幸だったのは、彼等が速度を優先して柵を迂回しなかったことである。

 迅速に獲物を狩る為にスピードを殺さず柵を潜り抜けた彼等は、見えない包丁に向かって自分から猛スピードで突進して言ったのだ。

 さしずめトコロテンの様に。

 結果、狼達は、自らの速度に殺された訳である。


 そして不幸はそれだけではなかった。

 柵の下は危険だと判断したウェアウルフ達は、柵を飛び越える事にした。

 下がダメなら上だ、上にはなんの罠も無いと。

 自分達の跳躍力なら柵を飛び越えるなど容易だと。

 結果、彼等は柵を飛び越えた先にあった落とし穴に嵌った。

 それもスライムが大量に潜む酸の落とし穴に。

 穴に落ちたウェアウルフ達は慌てて落とし穴から這い出そうと跳躍するが、予期せぬ落とし穴に落ちたでバランスを崩して横転した者は全身が爛れ、運よく着地はした者も、両足が酸でボロボロになっていた。

 速度こそがその強みであった彼等だったが、酸によってもたらされる両足の激痛によってまともに動けなくなり、その隙を突いた冒険者達によって瞬く間に壊滅させられてしまった。


 中途半端な賢さを持っていたが故にウェアウルフ等は敗北してしまうのだった。

 

 ◆


「後方に動きあり! 群れのボスと思われます!」


 物見塔からの報告に、自警団の間でどよめきが走る。


「来たか!」


 トロウが椅子から立ち上がって魔物達の最奥を見つめる。


 そこには、明らかに大きさの違う魔物の影があった。


「集団の中で最も大きな個体、間違いない、アレが今回の群れのボスだ!」


 ここに、決戦の火蓋が切って落とされようとしていた。

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