第25話 決戦準備
「よーし、そいつを地面に打ち付けてくれー!」
「わかったー」
大工の親方の指示に従って、ミノタウロスが大きな杭を地面に打ちつけていく。
「はっはっは、さすがデカいだけあって、あっという間に杭が埋まっていくな」
親方はミノタウロスの手際の良さにご満悦のようである。
「ウチの連中は役に立ってますか?」
「おう、まだまだ手がかかるが、下職の仕事ならちっとはマシになってきたぞ!」
ミノタウロスをはじめとした一部の魔物達は、親方の所に実質弟子入りしている状態だ。
彼等は己の肉体の特性を生かした修行をつけられており、特に人間以上の巨体を生かした作業で重宝されていた。
「柵はコイツ等が中心になってやってくれてるからな、手の空いたメンツは他の作業の手伝いに回しておいたぞ」
親方の言う通り、柵作りをしている人間は少なく、他の作業を行っている人間の比率の方が多かった。
「今年はいつもより魔物が多いらしいが、コイツ等が来てくれたおかげで単純な作業時間は減ったのはありがてぇな」
「お役に立てて何よりです」
魔物の襲撃までにライズ達がする事は少なくない。
城壁の修理、防護柵の建設、敵の進軍を妨げる為の落とし穴、保存食の製作だってしなければいけない
さらにいえば。
「おおそうだ、頼まれた試作品だが、そろそろ完成するぞ。このまま何も問題が無けりゃ、残りも量産を続けるぜ」
魔物に対する攻撃手段の作成も急務であった。
「ことしは兄ちゃんと嬢ちゃんから色々とアイデアを貰ったからな、いざ事が始まれば去年までよりも楽が出来るかもな!」
ガハハと笑う親方の姿を見て、ライズは先日のギルド長との話し合いを思い出していた。
◆
「それとな、魔物が増えた理由を俺なりに推察してみたんだが」
魔物狩りの打ち合わせが一通り終ったあと、トロウは魔物の異常増殖について語り始めた。
「何か分かったんですか?」
「ああ、今年にあって去年までは無かった事、そいつが鍵だ」
「今年にあって去年までは無いもの?」
「寧ろ逆で言った方が分かりやすかったかも知れんな。去年まではあって今年からは無い物だ」
抽象的な謎掛けにレティは首を傾げる。
「え、えーと……家畜を飼う牧場とか?」
「残念、形のあるモノじゃねぇよ」
トロウはテーブルに敷かれた地図の端に、指を置いた。
「戦争が終わったからだ」
「え? 戦争が終わるとなんで魔物が増えるの?」
トロウの意図が読めずに困惑するレティだったが、逆にライズにはその意図がはっきりと分かった。
「そうか、戦死者の死体!」
トロウが頷く。
「そうだ、これまでは隣国との戦争でそこかしこで人が死んでいた。前線の戦場だけでなく、前線を抜けて侵攻して来た敵軍の迎撃が行なわれた場所、表ざたに出来ない戦いで死んだ人間達の死体、もぐりこんできたスパイが街道を避けて潜入した事で魔物の餌になった事もあるだろう」
「そしてその死体を魔物が食糧として確保していたと」
事実、魔物は人間を襲う生き物である。そして襲う以上、その目的は食事であった。
魔物使いであるライズにとって、魔物の多くが人間を食糧にする事はよく理解していた。
「そうだ、これまでは戦争で定期的に餌を確保出来た魔物達だったが、今年からはその食糧のあてが無くなった事でほかの場所に食糧を求めてきたって訳だ。現にこの町の古株連中から当時の事を聞いてみたんだが、そいつ等の親の世代、その前の世代は何度も町が危機に晒されていたらしい。そうして、そんな話は戦争が始まってから次第に減っていったそうだ」
「……」
戦争が無くなった事が原因で魔物が増えたと聞き、複雑な気持ちになるライズ達。
戦争を無くす為に闘った筈なのに、それが更なる悲劇を生むと聞いた彼等の心境は計り知れぬものが会った。
「まぁ戦争をずっと続けていたら国が滅んでいたかもしれねぇんだ。あんた等は間違った事をしちゃいないさ」
戦いを終らせた事が悪だったのだろうかと思い悩む二人に、トロウがフォローを入れる。この辺りは大人の余裕というものであろう。
「……そうだな、俺達はこの戦いを無事に終らせて戦争を終らせたのは間違いじゃなかったって証明しないとな」
「そうね、申し訳ないけれど、騎士団の援軍を申請しても彼等が来るには数ヶ月かかるわ。手紙が届くまでの時間と、そこから会議をして群を出撃、到着までの時間が長すぎるから。せめて数人でも部下を送ってもらえたらよかったんだけれど」
レティが心底申し訳なさそうにトロウの大して謝罪する。
「無いモンはしょうがねぇさ。こっちとしては実戦経験豊富な騎士様が居るだけマシッてもんよ」
「全力で頑張らせてもらうわ!」
◆
そして3日が経過した。
「ライズ様ー!」
偵察に送っていたハーピーが作業を手伝っていたライズの元に降りてくる。
「どうした? 森に何か動きがあったか?」
「うん、沢山の魔物が森から出てきたよー」
ハーピーの報告に回りに居た人々からざわめきが生まれる。
「どれくらいだ? 町にはどの程度で辿り着く?」
「うーん……沢山! 森がぶわって広がったよ! 足の速いのは1日くらいかな。遅いのは2、3日かかると思うよ」
「空を飛ぶ魔物はこないのか?」
「特に居なかったかな」
「広がった森は全部か? 一箇所だけか?」
「一箇所だけだよ」
「この町の方角が広がったのか?」
「んー、色々!」
情報を聞いたライズは、その内容を吟味して正確な数字と状況を推測する。
(広がった森ってのは魔物の集団の事だろう。おそらく1つの膨らみで数百って所か。ほかの場所も盛り上がったってのは、この町に全部来るのか、ほかの町にも向かっているのかで状況が変わってくるか)
「ハーピー、悪いが森から出た魔物の集団が全部こちらの来るのか調べてくれ!」
「おっけー! まかせといて!」
ライズからの追加指示を受け取ったハーピーが空を飛んで大魔の森へと向かってゆく。
「急がないとな」
ライズ達は互いに頷きあい、迎撃の準備を急ぎ推し進めるのであった。
家庭の事情により、明日の投稿は朝7:00分のみとなります。
ご了承ください。




