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第21話 お帰りでございます

 メルクと取引をした翌日の朝、彼達は王都へと帰る事になった。


「それじゃあ僕は彼等を連れて帰る事にするよ。それと例の件は団長に伝えておくから」


 メルクが晴れ晴れとした笑顔でライズに答える。

 ライズに復隊の意思が無い事を伝える事と、影ながらライズの護衛をしろという件についてだ。


「気をつけて帰れよ」


「大丈夫だって。コレだけのメンツなら盗賊団に襲われても平気さ」


 そう言ってメルクはライズに捕まった特殊部隊員達を指差す。

 任務を達成するどころか、捕まって取引の材料にされた負い目で彼等は気まずい雰囲気だった。


「それじゃあ行きましょ」


 そんな和やかな雰囲気の中、一人沈んだ様子のレティが馬車に向かう。

 ライズを連れ帰る気満々だった彼女だが、ライズの魔物達が楽しそうに働いている姿を見て毒気を抜かれてしまったのが原因だ。


(あの子達をまた戦いに巻き込みたくはないものね)


 元々レティはライズの魔物達とそれなりに交友があった。

 彼女にとって共に闘えるのなら、相手が人間だろうと魔物だろうとかまわなかったからだ。

 だから魔物達を優秀な戦力とみており、今回の復隊任務は必要なことだと考えていた。

 だが、そんな魔物達が、闘わずして平和を謳歌する生活をする姿を見れば、抑止力としての戦力として戦場に連れ戻すのが当然と思っていた自分が酷く汚いものに思えてきたのだ。


(戦いを終わらせる為に軍に入ったのに、戦いから遠ざかった人達を戦場に戻すなんて本末転倒だものね)


 だからレティは諦める。

 これからの戦場は自分達闘い続ける事を選んだ者だけで闘うと決めて。


「あ、レティは残ってくれるかな? フリーダ団長には僕から伝えておくから」


 と、そんなレティの決意に、メルクが待ったをかけた。


「え? 何で?」


 ライズを連れ帰るのを諦めたというのに、何故自分が残らねばならないのか。

 レティはメルクの意図が理解できなかった。


「いやね、どうやらライズは隣国のスパイに狙われてるみたいだからさ、誰かがライズの傍にいる事で彼に余計なちょっかいをかけるなよって脅しをかける必要ができたんだよね」


「え!? そうなの!?」


 ライズとメルクのやり取りを知らないレティは突然聞かされた真実におどろきを隠せないでいた。


「そうなんだ。それでライズの護衛役として騎士団から人を派遣するようにフリーダ団長に申請しようと思ってさ。その先発隊としてレティにはこの町に残って欲しいんだ」


「で、でもそれを決めるのはフリーダ団長だし……」 


 残っていいといわれて困惑するレティ。

 彼女としては願ったり適ったりの状況なんだが、それを素直に受けいれる事が出来るほど彼女は利己的ではなかった。


「それは僕が説得するからさ。それに、ライズの護衛はライズの関係者のほうがお互い気が楽だろうし、ライズの価値を知っている人間のほうが彼を本気で守ってくれると思うんだ? そういう意味でもレティにお願いしたいんだよ。やってくれるかい?」


 メルクに頼まれ、レティは考える。


(本当にわたしで良いの?)


「ライズもレティのほうが良いでしょ?」


「え?」


 突然矛先が自分に向いてきて戸惑うライズ。


「……」


 更にレティの視線が自分に集中している事に気付いたライズは更に戸惑った。


「そう……だな。知らない人間よりはレティの方がいいか」


「だってさ」


 メルクがウインクをしながらレティのほうを見る。


「……分かった。私やるわ!」


 ライズに自分の方が良いといわれ、とうとうレティはライズの護衛として残る事を決意した。


「これからよろしくねライズ!」


「お、おう」


 手を差し出してきたレティに、自らも手を差し出して応じるライズ。

 その手を受け取ったレティは上機嫌にライズの手をブンブンと振った。


(まぁこの位は二人への詫びという事で)


「それじゃあ僕はこれで。二人共元気でねー」


「ああ、気をつけてな」


「元気でねー」


 こうして、ライズのかつての同僚であるレティが町に残る事となった。


 ◆


 1ヵ月後、ここは王都のとある屋敷。


「護衛だとぉぉぉぉ!?」


 その中の一室から、男の叫び声が聞えた。


「落ち着いてくださいフリーダ将軍」


 声の主をなだめているのは勿論メルクだ。

 そして叫んだのはライズが戻ってこないように指示を出したフリーダ将軍であった。


「何が護衛だ! 軍を脅迫する気かあの男は! こうなればあの男を反逆者として捕らえるよりほかない!」


 興奮するフリーダ将軍。


「それを行なった場合、マルド元将軍が今回の件を表ざたにしますよ。そうなれば国王陛下も動かれます」


「っ!?」


 メルクの言うとおりだった。ライズを軍に戻す事は国王が認めた事案だったからだ。

 最強のドラゴンを使役する者を放逐した事で、フリーダ将軍の宮廷内での地位は微妙になっていたからだ。


「更に言えば、今回の作戦は我々の側に居るスパイが情報を漏らしたのが原因です」


「スパイだと!?」


 実際にはライズが放ったケットシーの情報なのだが、それはメルクも知らないことであった為、ライズの話したスパイが居るという情報を信じていた。


「はい、ですので我々がまずする事は、足元を固める事です。幸い彼との交渉で特殊部隊の人間は全員無事に回収できました。将軍は我々の中から情報を洩らした者を見つけ出すのが先決かと」


「くっ、やむを得ぬか」


 身内にスパイがいるとあっては下手な行動は出来ない。フリーダ将軍はメルクの、更に言えばライズの思惑に乗るしか手はなかった。


 かくしてフリーダ将軍の狙い通りライズの復隊はお流れとなるも、彼の策略によって軍は彼と彼が住む町を影ながら護衛しなくてはならなくなった。

 すべてはいる筈のない自分達の情報を洩らしたスパイを警戒して。


「おのれライズ=テイマー! いつか貴様をギャフンといわせてくれる!」


 まるで三下悪役のようなセリフを口にするフリーダ将軍。


(これはギャフンと言わせれそうにないなぁあ)


 懲りない上司を呆れながら見守るメルクであった。

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