第19話 幸せの味
申し訳ありません、投稿が遅くなりました。
「ライズ、ここって」
魔物達の仕事ぶりを見たライズ達は、食事を取る為にとある飲食店にやってきた。
そしてレティはこの店の事を知っていた。
正しくは、この店の裏口を知っていた。
「そう、この店がデクスシの町で一番人気の魔物料理を出す店さ」
ライズ達が店の中に入ると、濃厚なタレの匂いが漂ってきて、空腹感を刺激される。
「ヘイラッシャイ! って兄さんじゃねーか! おっ、今日は彼女連れかい!?」
厨房の奥から顔を出したのは、3~40代の男性だ。
「おかみさんと同じ事言わないでくださいよ。昔の仕事仲間ですよ」
「……」
レティがライズのわき腹を無言で小突く。
「痛っ、何だよ一体」
「別に」
と言う割には、妙に不機嫌そうなレティ。
「訳分からんな。親父さん、コカトリスのオムレツ2個よろしく」
「あいよ!」
おやっさんと呼んだ男に注文を頼むとライズは開いている席にレティを誘う。
「ほら、座れよ」
「う、うん。ライズは何時もここで食事を?」
「毎日じゃないけどな。まぁちょこちょこ食べに来るよ」
「そっか……」
と、会話もそこそこにレティが沈黙する。
「コカトリスのオムレツお待ち!」
「はやっ!」
突然、沈黙に包まれていたテーブルに黄色い楕円形の物体が放り込まれる。
「注文して5分も経ってないわよ!?」
あまりの速さに驚くレティ。
「この時間は皆同じものを頼むからね。あらかじめ量を作ってるのさ!」
と答えたのは、先ほどライズからコカトリスの卵を購入した女性だった。
「あ! さっきの」
「また会ったねお嬢ちゃん。ウチのオムレツは天下一だから、楽しんでいっとくれ」
それだけいうと、女性は厨房の奥へと戻っていく。
「あの人はこの店の店主の親父さんの奥さんだよ。料理の手伝いだけじゃなくて、配膳もしてくれるのさ」
「そうなんだ」
「さ、料理が冷めるから、さっさと食べちまおうぜ」
ライズがフォークとスプーンを手渡す。
「う、うん。分かった」
受け取ったスプーンでオムレツにを救い上げる。
するとカットした断面から濃厚な卵料理の匂いがあふれ出る。
「じゃあ、頂きます」
魔物料理というにはあまりにも普通の見た目に。レティは警戒感を薄めて料理を口に運ぶ。
そして、オムレツの欠片が彼女の舌に到着した。
「っ!?」
まず感じたのは強いトロ味だった。
(このオムレツ、外は固まってるのに、中は半熟だわ!)
半熟であるが故に口の中に甘みが広がってゆく。
そして歯で表面の卵を噛み切ろうとすると、しゃく、しゃくっという弱い歯ごたえが抵抗してきて、ソレをかんだ瞬間さらなる甘みが襲ってきた。
(中に小さくブロック状にカットされた野菜が仕込まれているのね。ニンジン、たまねぎ、キャベツ、沢山の野菜がそれぞれの歯ごたえで楽しませてくれる。きっと野菜の嫌いな人でも美味しく食べれる様にしているんだわ)
店主の細やかな気遣いに優しい気持ちになるレティ。
(真ん中ならもっと半熟が楽しめるわよね)
レティはスプーンを一気にオムレツの中央に差込み、とろとろホカホカの卵に襲い掛かる。
「はむっ! ……っ!」
レティの体が一瞬硬直する。
卵だと思っていたら、予想外の味に驚いたのだ。
(コレは……この味は……肉!?)
そう、オムレツの中心部には細かくミンチにされた肉が隠されていたのだ。
(そんな、卵の海の周囲に野菜を泳がせ、中心部にはこんな恐ろしい魔物が隠れ住んでいたというの!?)
レティの顔がだらしなく幸せに緩む。
(このお肉は何? 牛でもない、豚でもない、魚でもない。進軍訓練で食べた蛇でも無いし蛙でも無いわ。一体何の肉なの!?)
「ライズ! このお肉は何のお肉なの!?」
どれだけ考えても答えが出なかった事で、遂にレティがライズに答を求めてくる。
「これは首斬りバニーの肉だよ」
「首斬りバニー!?」
レティは驚いた。
首切りバニーとは文字通り獲物の首を自らの口から伸びた長く鋭い歯で切り裂く恐ろしい魔物の名前だからだ。
小さくすばやい上に、狙うは急所という魔物で、単体ではそれほど強くないが、ウサギなのでとにかく数が多い。
その為戦いが長引くと仲間を呼んで一斉に首を狙われるという新人冒険者の死亡原因トップ5の一匹だ。
「首斬りバニーの肉ってこんなに美味しいのね」
しかしそんな恐ろしい魔物も、いまこの瞬間は只の美味しいウサギ肉であった。
「ここのバニー肉は親父さんが仕込んだタレで味がしみこんでいるからね。とろとろになるまで煮込んでいるから半熟の卵とも相性抜群だ」
「野菜と肉を混ぜて料理のバランスを整え、更に手間を掛けて肉を柔らかくする。その手間を少しでも省く為に一度に大量に作るのね」
レティは心から幸せに浸っていた。
騎士の仕事とは粗食と向き合うことである。
戦時中は何が食べられるか分からない。
その為単純に栄養価の高いものが好まれる。
つまり味は二の次三の次だ。
「あっ」
気が付けばレティは皿の上のオムレツを全部食べつくしていた。
残念そうに空っぽになった皿を見るレティ」
「お変わり注文するか?」
「え? 良いの? うん! する!」
ここは軍の食堂ではなく店なのだから、再注文をして良いと気付いたレティがさっそくおかみさんに注文を入れる。
「おかわりはやくこないかな~」
待ちきれない様子でレティがスプーンを振る。
「ねぇライズ」
「ん?」
と、そこでレティがライズに語りかける。
「ライズはさ、この町で魔物達と一緒に働いて幸せ?」
レティは、聞きたいけど聞きたくなかった質問をライズに問う。
(本当ならならもっと勇気を出してから聞きたかったけど、きっと今が一番良いタイミングなのよね)
食事の楽しさでテンションが上がった事で、レティはその勢いに任せて質問をした。ライズが軍に戻りたいのかそうでないのかを理解する為に。
「ああ、幸せだよ。商売も軌道に乗ってきたし、町の人とも打ち解けてきたしさ」
「……そっか」
あっさりと、あまりにもあっさりとレティの期待は打ち砕かれた。
ライズは僅かな躊躇いも見せず、今の方が良いと断言したのだ。
「そっか」
レティはそれだけ言うと、新たに運ばれてきたオムレツに没頭を始める。
「おいしい」
「ああ、そうだな」
「美味しい。美味しいのに……悲しいな」
友と共に食事を楽しむ幸せな時間は、あっという間に過ぎていくのであった。




