第16話 森に潜む者達
魔物使いライズには二種類の従魔がいる。
片方の従魔はライズの強さを見せ付ける為の見栄えの良い戦力だ。
ドラゴンやラミアがそれに当たる。
また、トレントやドライアドの様に、その能力を見せる事で己が有益な存在だと知らしめる役割を持つ魔物もこちら側に所属する。
ではもう一方の従魔は?
それは陰となってライズの為に闘う魔物達だった。
戦闘能力はないが貴重な情報を入手してくるケットシーや、ゲリラ戦や敵の捕縛に優れたアラクネといった、表だって使っている所を見られたくない能力を持つ魔物達。
そして最後の手段として存在、特に能力を絶対にバラしたくない魔物が影の軍団に配属される。
陰の魔物達は騎士団の一部の人間しか正体を知らず、さらにその中の一部に至ってはライズしか存在を知らなかった。
そして今、ライズの命令を受けた陰の魔物達が動き出す。
主の命令を受けて、彼等は自分達が最大限に活躍できる舞台に舞い降りた。
◆
ここは大魔の森。
魔物達が徘徊する人間を拒絶する魔物の領域。
そこに彼等は居た。
「サムが捕まった様だな」
黒尽くめの男が声を発すると、周囲に居た同様の衣装の陰がビクリと震える。
声は何らかの手段で変えているのか、男とも女とも判断できない気味の悪い声だ。
「例の男の魔物に捕まったそうです」
「さすがは上が欲する人材だけある。訓練を受けた我々を察知するだけではなく捕らえるか」
「隊長、ヤツはどうしますか?」
「始末しろ。テンドの人間にわが国が関与していると気付かれるのはマズい」
隊長と呼ばれた人物は、考えるそぶりも見せずに仲間の処分を命じた。
「ですがサムはテンドの騎士に連行されました。始末しようにも向こうに気付かれる可能性が高いですよ」
「なら全員居なくなってもらえば良い。証人がいなくなれば情報も漏れまい。あとはあの男を連れ帰れば真相を知る者は誰も居なくなる」
黒装束の内、5人が何も言わずに町へと向かう。
この黒尽くめの集団はライズをスカウトする為にやって来た、セルガ王国の特殊部隊だった。
彼等の目的は強力な魔物を従えるライズの勧誘であったが、もしライズが従わない場合は秘密裏に始末する役目も帯びていた。
だからこその特殊部隊。
「あの男、我々の勧誘を受けますかね? 仮にも我々はかつての敵ですよ?」
「さてな、だがあの男はこの国の為に戦い、英雄と呼ばれるほどの活躍を見せたにもかかわらず無能な軍部に追い出された。恨みはあれど義理はなかろう」
ライズが軍を追い出された敬意は、彼等セルガ王国の軍部にも知られていた。
テンド王国がソレを表ざたにしたわけではない。セルガ王国の諜報部が優れていたのだ。
「しかしわが国を敗北させた最大の要因をスカウトとは……」
のこった黒装束の一人が納得いかない様子でつぶやく。
「軍人など上の命令に従わなくては生きていけない生き物だ。利用できるなら敵とて味方に引き入れる」
「けど、敗走した国にわざわざ味方しますかね? 普通に考えれば何の得もありませんよ。わが国の軍は消耗しきっています。多少金を出した所で気が変わるとはとても……」
「その辺りは上が考える事だ。我々は上が提示した条件を伝え、断った場合は始末する。それだけだ」
その言葉が合図となった。
会話が途切れた黒装束達はそのまま無言でいたが、その内の一人が異変に気付く。
「……」
仲間がモゾモゾとしている様子を見て黒装束の一人が声をかけようとする。
「……!?」
だが声が出なかった。
喋っている筈なのに声が出ないのだ。
その様子に違和感を感じたほかの黒装束達も声をかけようとして言葉を発せない事に気付く。
否、周囲の音が消えた事に気付いた。
虫の鳴き声も、獣の雄叫びも、木々の葉が揺れる音も聞こえないのだ。
無音の世界。
即座に全員が円陣をつくり、外からの敵襲に備える。
中央にリーダーと思しき男が待機し、残りの部下が円を組んで外を見る。
本来ならリーダーの指示で全員が動くのだろうが、会話が出来ない為に全員が目となって自分の視界に入る敵を探そうと視線を動かす。
しかしそこで更なる衝撃が彼等を襲った。
突然目が見えなくなったのだ。
今宵は三日月、満月ほどではなくとも月明かりで多少は周囲が見える。
そして訓練を受けた彼等ならば、僅かな月明かりでも周囲を十分に見る事が出来る。
だというのに、彼等目隠しでもされたかのように目が見えなくなってしまった。
「……!?」
音も聞こえず、目も見えない状況で黒装束達が動揺の気配を見せる。
特殊部隊として様々な訓練を受けた彼等だったが、このような状況までは想定していなかったのだ。
周囲がどうなっているのか、仲間がどうなっているのか分からずに困惑する黒装束達。
だがそれでも彼等は厳しい訓練を受けた特殊部隊、むやみに動かず、のこった触覚と嗅覚、それに気配を頼りに周囲を探る。
と、そこで甘い匂いがしてきた事に気付く黒装束達。
何のニオイかと記憶を辿ろうとしたが、突然足が支えられなくなって地面にへたり込んでしまう。
何が起きたのかと更なるパニックに陥る黒装束達。
これが何らかの薬物が原因だと気付いた黒装束も居たが、彼の声はかき消され周囲には届かない。
自分だけでもと解毒薬を口にしようとするが、突然腕が動かなくなり薬を取り出す事が不可能となる。
その結果、彼の体は指1つ動かせなくなり、黒装束の人物達は全員が意識を失った。
◆
黒装束の人物達が全員意識を失った後、森の中を覆っていた闇が霧散した。
この闇こそが黒装束達を盲目にした目隠しの正体である。
「全員捕縛完了」
そして森の中から数体の魔物達が出てくる。
「おつかれー」
「上手くいったねー」
魔物達は気楽な様子でお互いの活躍を称えあう。
半人半蜘蛛、手足の付いた巨大キノコ、羽根の生えた小さな人間、そして墨を被ったかのような真っ黒な獣。
彼等こそ、ライズの秘匿する影の軍団だった。
「コイツ等どうするのー?」
羽根の生えた小さな人間ことピクシーがアラクネの糸で拘束された黒装束の頭に載る。
ピクシーはイタズラ妖精とも知られているが、優秀な風使いでもある。
ピクシーはこの力を使って周囲の音の伝達を阻害したのだ。
「キノコ生やして良いかな?」
とは巨大キノコの魔物マタンゴだ。
この魔物は文字通りの巨大なキノコであり、俊敏な動作は出来ないが、自身の傘から発する胞子を吸った生き物を麻痺させる事ができた。
「ガウッ!」
黒い獣がマタンゴを諌める様に吼える。
「うわっ、分かったよ、ちゃんとボスの命令に従うって」
黒い獣の名前はブラックドッグ、墓場に現れる恐ろしい犬型の魔物だ。
彼は影に関わる力を使う事が出来、森の中を影で満たす事で黒装束達の視界を封じていた。
「そんじゃコイツ等は運ぶから、あんた等はさっき捕まえた連中を主さまのところに運んでよね」
「任せたよー。僕の体じゃ無理だから」
体の小さいピクシーはあっさりとマタンゴ達に任せると自分はさっさと空を飛んで帰ってしまった。
「しょうがない、僕達で運ぶか」
「ガウ」
マタンゴが諦めた様に黒装束を運ぼうとすると、
ブラックドッグは一吼えした。
「あ、運んでくれるの?」
ブラックドックはマタンゴの問いに頷いて肯定の意を示すと、その足元の影を黒装束達に伸ばす。
そして影が黒装束達の下で大きく広がっていき、その影に包まれた黒装束達は地面に、いや影に沈んでいった。
「じゃあ撤収ー」
アラクネの号令の元、彼等影の軍団は主であるライズの下へと帰ってゆく。
大切な報酬、主からの賞賛を得る為に。




