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第14話 二つの選択肢

「ライズ、君は今、狙われている!」


 とライズの元同僚であったメルクが言々した直後、不審な人間を捕らえたとの報告がライズの従魔であるアラクネによってもたらされた。


「普通の男に見えるけど、手にタコが出来ているね。おそらく戦闘訓練を行なった人間だ」


 メルクが捕らえた男の手を見てそう判断する。

 彼等は、捕らえた男の姿を大工達の目から隠す為、魔物達の遊び場にしている丘の影へとやって来ていた。


「農民や冒険者じゃないのか?」


「いや、この筋肉の付き方は農民じゃないね。冒険者の可能性はあるけど、装備が違う。これは暗殺用の装備だ」


 そういってメルクは男の服の中から黒く焼かれた短剣と気味の悪い色をした液体が入ったビンを取り出した。


「毒薬だよ。ナイフも光を反射する為に切れ味を犠牲にして黒くしてある。君の牧場の傍をうろついていたという事は、町の人間や商人が狙いでも無い」


 毒と聞いて、場の空気が緊迫する。


「ライズ! やっぱり軍に戻るべきよ! このままだといつ取り返しの付かない事態になるか分からないわ!」


 レティが顔を青くしてライズの説得を試みる。

 その様子は、彼がかつての同僚だったからだけとは思えない必死さだった。


「……すぐには決めれない。こっちにもしがらみややらないといけない事があるからな」


「そんな事を言っている場合じゃないだろ! 命を狙われているんだぞ!」


 レティが食い下がるが、ライズは首を縦に降る事もなく目を瞑る。


「レティ、あまり無茶を言っちゃダメだよ。ライズにも考える時間が必要だ」


「けど!」


「ライズを連れ戻したいのは僕も一緒だ。けど焦っちゃダメだよ」


「……分かった」


 なおも食い下がるレティだったが、メルクの説得により落ち着きを取り戻す。


「じゃあライズ、僕達はこの男を連れて町へ戻るよ。暫くは町の宿に泊まっているから、気が変わったらいいつでも来て欲しい。勿論僕たちからも来るけどね」


「絶対毎日説得に来るからな!」


 レティが強く宣言した後、彼等は町へと去っていった。

 後に取り残されるのはライズと魔物達。


「どうされるのですかライズ様?」


 ラミアが不安そうな顔でライズを見る。

 彼女達従魔は、ライズを追い出した軍に不信感を持っている。

 一部の魔物にいたっては敵意すら抱いている始末だ。


「あー、そうだな。今のところ戻るつもりはないよ」


 ライズの言葉にほっとする魔物達。


「けど、あの男はどこからやって来たのかな?」


 ライズがポツリと疑問を洩らす。


「やはり我々と争っていた隣国セルガでは?」


 ラミアの言葉にライズは頷く。


「普通に考えればそうだよなぁ」


 しかし彼はその答では納得していないようだった。


「何か気になる事でも?」


「いや、本当に軍は俺に戻ってきて欲しいのかなって思ってさ」


「人間の戦争については良く分かりませんが、優勢に闘える手段を残しておきたいという軍の考えは理解できます」


 ラミアは魔物ではあるが、人に近い半人半獣の魔物である為、人の考えを理解するだけの知性と柔軟さがあった。


「人間が理性だけで行動できればそうなんだけどな」


(それに、他にもいくつか気になる事がある)


 内心で思うところがあるライズだったが、ラミア達を心配させない為にもあえて口には出さなかった。

 ラミアは気付いていないが、周囲に居る魔物達がこちらをチラチラとのぞき見ていたからだ。


「まぁ戻る気はないさ。この町での商売もようやく軌道に乗ってきたんだしな! それに、ドラゴンの鞍の代金を払い終えないと軍に戻る事もできやしないさ!」


 クスクスと魔物達の笑い声が聞こえ、ライズは内心でほっとする。

 戦いが終ったというのに、いまさら魔物を戦わせるのもバカバカしい。そう彼は考えていた。


「そうですね、それにせっかく親方さん達に新しいお家を作ってもらっているんですし、ここで戻ったら家の建て損です!」


「ああ、そうだな」


 ◆


 夜、焚き火の灯りに照らされながらライズは空を見ていた。

 雲のないキレイな空を。


 と、そこで猫の鳴き声が聞こえる。


「戻ったか」


 ライズが振り向くと、そこにはふわりとした毛に覆われた愛らしい猫の姿があった。


「ケットシー、ただいま戻ったニャ」


 猫は突然喋りだすと、二本足で立ち上がってライズの膝の上に乗っかる。

 そう、この猫もまたライズの従魔、猫の魔物ケットシーであった。

 

「それで? 何か情報は得られたか?」


 ライズの質問に対し、ケットシーが振り返って無言で手のひらを差し出す。


「……」


 ライズは無意識にケットシーの手のひらに指を伸ばして、肉球をプニプニした。


「そーそー、肉球マッサージ……じゃなくって! 情報代ニャ!」


 ケットシーが耳と尻尾を立てながらフーッ! っと威嚇の声を立てる。


「冗談だって」


 そういうとライズは皮袋から干し肉を取り出す。


「毎度ニャ」


 ケットシーは従魔であるが他の従魔とは違う。

 彼はライズに対し、定期的に情報料を支払ってもらう事で従魔になる契約をしたのだ。

 こうした対価を求める従魔は少なくなく、むしろライズの様に大量の魔物を従える魔物使いに多い傾向があった。


「で、情報はあるんだよな?」


 干し肉をかじるケットシーに再度問いかけるライズ。

 ケットシーはライズに振り返ると、片手を軽く挙げて応える。


「勿論ニャ。とっておきの情報をゲットしたニャよ」


 魔物使いの夜は長い。

いつも評価や感想、それに誤字脱字の指摘をして頂きありがとうございます。

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