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第104話 帰郷

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 それは日が沈む瞬間に訪れた。


「さって、今日の仕事の終わったし、家に帰るか」


 町での仕事を終えたライズ達は、住居兼事務所である店への帰路に着いていた。


「ライズ達も帰り?」


 同じく騎士団の仕事を終えたレティが通りがかる。


「レティも今から帰りか」


「ええ、例の詐欺騒動の報告書がまとまったから」


 レティの言う詐欺騒動とは、先日のライズの店に群がって来た詐欺師達の事だった。


「じゃあ一緒に帰るか」


「ええ!」


 レティはライズの護衛役である為、ライズの事務所に自分の部屋を持っていた。

 それというのも、ライズが事務所を立てる際にさりげなく自分専用の部屋を要求したからである。


「クエー!」


 と、そこでひときわ大きな鳥の鳴き声が響き、ライズ達が空を見上げる。


「何?」


 レティは突然の鳴き声に驚いたが、ライズはその声を知っていた。

 とてもよく知っていた。


「お前はベンヌ!?」


 その鳥は黄金の輝きを放つ鳥だった。

 黄金鳥ベンヌ、別名最初に生まれた鳥と呼ばれる魔物である。


「ライズ、知ってるの?」


 ベンヌと呼ばれた鳥は、ライズの肩に止まる。


「あ、ああ。コイツは魔物使いの里の伝令魔物なんだ」


「魔物使いの里!?」


 ライズから話は聞いていたものの、実際にその里からの使いが来た事にレティは軽い驚きを感じた。


(伝令も魔物ってあたり、さすが魔物使いの集団ねー)


 だがレティの驚き以上に、ライズは驚いていた。


「ライズ様」


 ラミアが緊迫した様子でライズの顔を覗き込む。


「どうしたの二人共?」


 二人が緊張している理由が分からず、レティがキョトンとした顔をする。


「魔物使いの里では、伝令の魔物を出す事は滅多にないんです」


 レティの問いに、ラミアが答える。


「それって魔物使いの里に何かあったって事!?」


 ラミアは緊迫した様子で頷く。


「ライズ様、手紙の確認を」


「あ、ああ」


 ラミアに促され、ライズは伝書魔物であるベンヌの首に括り付けられた筒から手紙を取り出す。

 そして手紙を広げて読み始めた。


「……っ⁉」


「どうしたのライズ!?」


 明らかに表情を変えたライズに、レティが心配げに声をかける。


「……里が襲撃にあった」


「何ですってっ⁉」


「そんなっ⁉」


レティとラミアが同時に悲鳴をあげる。


「ご家族は無事なの!?」


「襲撃者は無事なんですか!?」


 だが、心配する相手が違った。


「え?」


「はい?」


 キョトンとするレティに対し、何か? と首を傾げるラミア。


「何で襲撃者を心配するの?」


「それはまぁ、殺してしまっては可愛そうですし」


 明らかに里の住人が勝つ事前提に話すラミアにレティは更に首を傾げた。


「勝つの? 里の人?」


「勝ちます。 間違いなく」


「……そ、そうなんだ」


(ご家族の心配をした私の方が間違っているのかな?)


「それで、ご家族は無事だったの?」


 なんとなく釈然としないまま納得する事にしたレティは、ライズに手紙の続きを促す。


「ああ、襲撃者は全員撃退。犯人達は生死の境を彷徨っていて、何人かは心が帰ってこれなくなったらしい」


「何したらそんな事になるのよ」


未だ見たことの無いライズの家族と里の住人達の姿に、とても恐ろしい想像をしてしまうレティ。


「ですがそれならわざわざ連絡を寄越す事は無いのでは?」


「それもそうね」


 ラミアの言葉にレティも同意する。

 滅多に連絡する事が無いのなら、わざわざ襲われた事を知らせる必要もないからだ。

 勝ったのなら猶更である。


「襲撃者達は俺を狙ってきたらしい。だから一度戻ってこいと……」


「ライズを!?」


「ライズ様を!?」


 手紙を畳んだライズは深いため息を吐く。


「仕方ない、一度里帰りするか」


 何故か、ライズは陰鬱な表情で里帰りを決断するのだった。


 ◆


 翌週、スケジュールを調整して馬車仕事を休みにしたドラゴンと共にライズ達は飛び立った。

 目的地はもちろん魔物使いの里である。


「気軽な旅は久しぶりね」


 と、ライズに同行したレティが空の旅を気持ちよさそうに満喫している。


「ってゆうか、なんでレティまで同行するんだよ?」


 里帰りに同行を求めて来たレティをライズは訝しげに見る。


「あら、私はライズの護衛役なのよ? ご家族に挨拶するのは当然じゃない」


「いやけど、無理に挨拶する必要も……」


 珍しくライズはレティの動向を渋る。


「何よ! 私が一緒だと何か問題でもあるっていうの!?」


「いや、問題という訳では……」


「なら良いでしょ? それに私が行く事でライズを騎士団が保護しているって証明意にもなるんだから、ご家族も安心するってもんよ!」


 などと言いつつも、レティは脳裏で別の事を考えていた。


(これはライズのご両親に挨拶するチャンスだわ!)


 だが、レティの下心を見抜いたのか、ラミアが意味ありげな含み笑いを漏らす。


「な、何よ!?」


「いえいえ、別に」


 何でもないと流すラミアだったが、レティに聞こえる様にポツリと呟く。


「あまり期待しない方が良いですよ?」


 ラミアの言葉の真意を問いただそうとしたレティだったが、ラミアはただニコニコと笑いながらダンマリを決め込むのだった。


 ◆


「見えてきたぞ」


 一夜が明け、更に延々と森の上空を飛び続けた頃、ライズはレティに声をかける。


「どこどこ?」


「あの大きな木の麓だ」


 レティはライズが指さした先を見ると、そこにはひと際巨大な木の姿が見えた。


「うわでっか!?」


 レティが驚くのも仕方ない事だった。

 巨木は周囲の木と比べても明らかに大きく、どれだけの年月を経ればこれ程の大きさになるのか見当もつかない巨大さだった。


 そして巨木の近くまでたどり着くと、ドラゴンがゆっくりと降下を始める。


「降りるぞ」


 ◆


 ドラゴンが降りたのは、巨木から少し離れた位置にある滝の麓だった。

 そこに降りたドラゴンは、自分に固定された鞍をミノタウロス達に外してもらい、自分は滝壺へと泳いでいく。


「我はここで待つ」


「ドラゴンは行かないの?」


 ドラゴンが滝壺に入っていた事で、レティは彼が同行しない事に首を傾げた。


「ドラゴンはデカいからな、里には入れないんだ」


「ああ、なるほどねー」


 ライズの言葉に改めてレティはドラゴンが巨体である事を理解する。


(普通にドラゴンが町や村に降りる事に違和感を感じなくなってたわー)


 何気に自分の常識がおかしくなっていた事に気付くレティ。


「さ、行こうか」


 と、促しつつも、ライズはどこか気が乗らない様子だった。


「何だか嫌そうだけど、そんなに自分の家に帰るのが嫌なの?」


「いや、そう言う訳では……」


 レティの問いにライズは口を濁す。

 その時だった。


「ライズーッ!!」


 突然ライズ達の下に赤い影が飛び込んで来た。

 あまりの速さにラミアもレティも反応が出来ない程の速さだ。


「なっ⁉」


「あー、ドラゴンが来れば分かりますよねー」


 レティの驚きに対し、ラミアは平然とした様子でライズを見る。


「おかえりー! お帰りー! お帰りライズーッ!!」


 聞き覚えの無い声にレティが振りむいた時、ライズは見知らぬ美女に抱きしめられていた。

 下半身がタコの美女に、ライズは全身を巻き付かれていた。


「え? だ、誰? え? タコ?」


 レティは何がなにやらと困惑した様子でラミアを見る。

 

「あー、やっぱりこうなりましたか」


 ラミアはこの状況を理解していたらしく、ため息を吐いてその光景を見守っていた。


「ちょ、ちょっと、誰なのあの……人?」


 ラミアはタコ足に撒きつかれて悲鳴を上げるライズから視線をそらしてレティに告げた。


「あの人が、ライズ様の……いえ、私達の育ての姉の、スキュラ姉さまです」


「おかえりーライズーッ!!」

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